*銘木生産への道 [#u4250c21]
価格の低迷が続くトドマツやカラマツ等の針葉樹材に比べて、比較的高価格で取引されているのがマカバ(=ウダイカンバ)、セン(=ハリギリ)、ナラ(=ミズナラ)、アカダモ(=ハルニレ)、タモ(=ヤチダモ)等の落葉広葉樹である。1960年代の拡大造林施策の中で、これらの優良木を惜しげなく伐り針葉樹を植えてきた(黒化促進時代)。現在は混交林への誘導など、広葉樹資源への期待は揺るぎない。しかし、その特性には依然として不明な点が多く(小池1993)、生理生態的特性評価も今後の課題である。
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***銘木生産 [#h8500b9b]
銘木生産はバイオマス生産とは全く異なる。北海道へ配属になって山を見た時に、「平均値の世界」から解き放たれた思いであった。単木管理をすることによって、80cm径x4m長の広葉樹丸太が200万円以上の価値を生む。儲かるウダイカンバ(=心材の色が美しく大きい材をマカバ[真樺]と呼ぶ)生産は単木管理にその基礎がある(少なくても2007年7月までは)。実践例は、東大演習林の[[山本博一>http://www.uf.a.u-tokyo.ac.jp/education/members02.html]]氏が博士論文に方針の1つとして、まとめておられる「択伐林施業計画のシステム化に関する研究」(東大博士(農学)論文)。~
-衰退木の見分け方
 将来見込みのないウダイカンバ個体の見分け方は、有り難いことであるが、版を重ねて北海道森林管理局の森林管理マニュアルに掲載して頂いている(小池ら1988)。ウダイカンバ銘木用には下枝の枯れ上がりやすいプラス木に注目したい(加納 1987)。どの様に光を利用し、どの様な環境耐性を持つかを知る事で地剥ぎ跡や山火事跡に再生し、かつては雑樺として切り捨てられてきたシラカンバ属の生理生態を、再度、取り組みたい。個体ベースの研究テーマとしても。また、バイオエネルギー生産の基礎は「バイオマス変換計画」によって見通しはできている。~

&ref(マカバ皮目.jpg);                                                              &ref(プラス・マイナス木.jpg);~

左図:将来の衰退木を「皮目」から推定する。生理解剖学の裏付けの弱いことが弱点。~
右図:プラス木は銘木候補であるがバイオマス生産には不適な個体。一方、マイナス木はバイオマス生産に適した「プラス木」。これはMS理論(1953年に発表されたMonsi−Sakekiの生産構造図の広葉型とイネ科型に対応)からも自明。高密度生産に対応できる。~

***針葉樹林に侵入した有用広葉樹 [#f08e4ca0]
代表樹種としてハリギリ(=セン)を取り上げたが、ここでの提案は林内で単幹の状態で過ごすことの多い遷移中間種の多くに当てはまると思う。依然として材価のふるわないトドマツなどの針葉樹に中に更新してきたハリギリやヤチダモ等を大きく育てることは「夢」である。この夢に実現にはWhole plant physiologyとBranch autonomyの視点が欲しい。ここで、断らねばならないが、有用広葉樹とは銘木として高価格材として取引される樹種であって、'''森林樹木に無用な樹種はない'''。なお、これらは天塩研究林での話題提供によって技術職員・森林技能補佐員の皆さんにも吟味頂いた内容でもある(07年7月)。~

&ref(トド・セン.jpg);                                                     &ref(RLタモ・セン枝.jpg);~
トドマツ人工林に侵入したハリギリ個体群(天塩林・タンタ)          相対的光量とヤチダモ・ハリギリの伸長成長・分枝(Y)~

-小径木から成木への誘導~
単幹で成長してきた個体が分枝できることが必須。その光環境として頂端部の相対的光量20%以上が必要である(Koike et al. 1998)。これは原田泰博士によって提示された(1954年)更新が行われる光環境の基準でもある(RL:5%>で針葉樹、10%>で多くの広葉樹、20%>大部分の樹種の更新が維持される)(小池 1993)。しかし、永らく林床や光環境の悪い条件で生存してきた個体は、根系の発達が悪いし、葉は前形成(predetermination)によって光環境の突発的変化には応答できないために(Koike et al. 1997)、せっかく更新してきた個体が枯れる事になる。また、呼吸のバランスも究明すべき課題であろう。~
-上層林冠下が暗い~
もう1つは、上層木の樹冠下に入るまでに更新稚樹にとっての光環境を改善すべきである。上層木の樹冠下は最も暗いからである。林内における2度の被圧である。ササの優占する多雪地帯では、株近くは地下茎が侵入できないため発芽にとってはsafe siteであるが、数年で上層木の樹冠下に達してしまい、結局枯死するのである(矢島1982、石塚ら1985)。~
***引用文献 [#o3c0c380]
-藤森隆郎(2003)新しい森林管理、全国林業改良普及協会、東京.
-原田 泰(1954)森林と環境ー森林立地論ー、北海道造林振興協会、札幌.
-石塚森吉・菅原セツ子・金沢洋一(1985) 日本林学会誌
-加納 孟(1987)材質からみた林木の育成法.林業科学技術振興所、東京.
-小池孝良、向出弘正、高橋邦秀、藤村好子 (1988)ウダイカンバ若齢人工林における衰退木の特徴.北方林業 40: 141-144.
-小池孝良(1991) 落葉広葉樹の光の利用の仕方―光合成特性―,森林総研研究レポート25:1-8.
-Koike, T., Tabuchi, R., Takahashi, K., Mori. S. and Lei, T.T. (1998) Characteristics of the light response in seedlings and saplings of two mid successional species, ash and kalopanax, during the early stage of regeneration in a mature forest. Journal of Sustainable Forestry 6: 73-84.
-Koike, T., Miyashita, N. and Toda, H. (1997) Effects of shading on leaf structural characteristics in successional deciduous broadleaved tree seedlings and their silvicultural meaning. Forest Resources and Environment 35: 9-25.
-柴田英昭(2004)[[大気−森林−河川系の窒素移動と循環>http://www.airies.or.jp/publication/earth/pdf/09-01-09.pdf]]. 特集「森林と渓流・河川の生物地球化学」,地球環境 9: 75-82.
-矢島崇(1982)針広混交林における主要構成樹種の生長過程に関する研究.[[北大演研報>http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/handle/2115/24500]] 39:1-54.
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