*森林の保全生態 [#sa536308]
 保全生態学という体系は、林学(森林科学)が「保続」という森林経理学(Forest Management)の用語で、林学が最も重視して追求してきた概念に近い。◎以下、右端の矢印(↑)をクイックするとtopへ戻ります◎
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 ***概念の理解と経緯 [#labbbbb5]
 1989年、カルフォルニア大学(UC)のHelms林学科長を訪問し、部屋のレリーフを見た時、森にシカがいてトリが飛んでいることは理解したが、渓流にサカナがはねる姿に驚いた(下図左の下方)。サカナと森林との関連を質問したら、“何を聞いているのか解らない”という表情をされ、「私たちはGame Management(≒狩猟)も含め、森林のConservation(保護・管理、利用しながら護る)をしているので、その象徴です。」と言われた。UCの造林学は木材生産一辺倒を目標に据えていると考えていたので意外であった。この理由は、彼らのテキストPrincipals of Silviculture [by Baker et al., 北海道造林の指針を建てたOB原田泰博士が強く影響を受けた著書でもあるが、そこで]は、東海岸のテキストPractice of Silviculture(理念的で哲学っぽい)と比較すると生産環境と樹木の生理応答を基礎に工学的木材生産を主張していたからである(私の一言;原田泰を参照)。~
 &ref(UCの概念.jpg);                                        &ref(Redwood.jpg);~
 
 UCのExtension(専門技術を林業組合などへ紹介する業務;日本にはないシステム)の友人R.Harris博士の「講義」は、バンにホワイト・ボードをつみこみ林家の軒先で講義開始。裏山の根株を堀取るかどうかを「講義材料」に、小動物のタネの分散に関わる活動を紹介して「保全」を教育する。(外来種の)小枝をかざして名前を問い、その由来を紹介して主力樹種(Redwood;上図右)と郷土種(Endemic species)の重要性を説く。製材会社をスポンサーに高校・中学・小学校教師の森林資源管理の一泊二日の環境教育を主催。米国カルフォルニア州の徹底した森林資源管理の一端を見た。
 UCのExtension(科学技術を森林組合等へ紹介する業務;日本にはないシステム)の友人R.Harris博士の「講義」は、バンにホワイト・ボードをつみこみ林家の軒先で講義開始。裏山の根株を堀取るかどうかを「講義材料」に、小動物のタネの分散に関わる活動を紹介して「保全」を教育する。(外来種の)小枝をかざして名前を問い、その由来を紹介して主力樹種(Redwood;上図右)と郷土種(Endemic species)の重要性を説く。製材会社をスポンサーに高校・中学・小学校教師の森林資源管理の一泊二日の環境教育を企画。米国カルフォルニア州の徹底した森林資源管理の一端を見た。
 
 ***意義 [#d76f5635]
 移入種問題については、OG山下直子博士(森林総研・関西)の学位請求「小笠原に侵入した木本種アカギの生理生態と環境保全に関する研究 」(2002年)を拝読して以来、強い関心を持っている。そして(&ref(森林保護学1.pdf);)でもマツノザイセンチュウ病を例に「[[侵入種・移入種・外来種>http://www.tsukiji-shokan.co.jp/mokuroku/ISBN4-8067-1234-5.html]]」問題と環境収容力について、問題点を投げかけてきた(下図右)。現在、モデル植物としてニセアカシアを取り上げ、移入種について生理生態学的な特性解明を中心に研究を展開している(後述)。~
 -樹木の病害虫のみを取り上げても数百種以上あり、恒常的に発生していると考えられがちだが、人間の目に触れるような被害は、宿主・病原・環境のトライアングルの各要素が「効率よく組み合う」ことがないと発生しにくい(図下左)。すなわち、異常発生している病害虫は全体からみると少数例といえる。これは、生物間の相互作用が適切に働き、生態系の自律機能が正しく働いている結果である。~
 &ref(発病トライアングル.jpg);                          &ref(襟裳岬.jpg);~
 発病するためには3条件が満たされること        北上するマツノザイゼンチュウ病の驚異(襟裳岬のクロマツ林)
 
 大気汚染(窒素沈着量増加)や温暖化現象の顕在化に伴い、広域の変動環境が生物間相互作用にどのように影響するかを解明し、それらを基礎に森林生態系の保全と修復を進めるべきであろう。一方、森林域には絶滅の危惧される多くの生物が生息する(環境省のレッドデータブックによると、約47%が森林を生息域にしている)。このかけがえのない種の生息環境としても、後世代のために生命の約36億年の歴史を担っている生物・遺伝資源の宝庫として、保全されるべき森林の重要性は強調してもしすぎることはない。
 ***侵入種ニセアカシア [#r425db4c]
 檜山研究林の所在地、上ノ国役場からの問い合わせからニセアカシアを意識し始めた。「最近、ニセアカシアの混じった黒松林が弱っている。海岸林だから心配だ。どうしたらよいか?」「マメの仲間ですから、土地が痩せている時は勢いがありますが、(共生している根粒菌によって)土壌の窒素分が増えて来ると衰退しますよ。ただ、クロマツも元気がなくなるので、手入れが必要かも知れませんね。」と返事した。今になってみれば、クロマツが海岸林の機能を担っているので「ニセアカシアを除去し、落ち葉掻きをすべき」と答えるべきであった。しかし黒松林による景観を維持するのでなければ、耐陰性のあるカエデ類が既に混交しているので、それを育成することも一案である。~
 檜山研究林の所在地、上ノ国役場からの問い合わせによってニセアカシアを意識し始めた。「最近、ニセアカシアの混じった黒松林が弱っている。海岸林だから心配だ。どうしたらよいか?」「マメの仲間ですから、土地が痩せている時は勢いがありますが、(共生している根粒菌によって)土壌の窒素分が増えて来ると衰退しますよ。ただ、クロマツも元気がなくなるので、手入れが必要かも知れませんね。」と返事した。今になってみれば、クロマツが海岸林の機能を担っているので「ニセアカシアを除去し、落ち葉掻きをすべき」と答えるべきであった。しかし黒松林による景観を維持するのでなければ、耐陰性のあるカエデ類が既に混交しているので、それを育成することも一案である。~
 &ref(黒松ニセアカシア.jpg);                                  &ref(厚沢部河川敷.jpg);~
 上ノ国町の海岸クロマツ林                          北海道南部・厚沢部川を彩るニセアカシアの猛威
 
 イネのような外来種は先史外来種として、その土地柄になじんでいるので問題に成っていない。しかし、最近のニセアカシアへの注目度は大きく、もし特定外来種に指定されると根絶しなくては成らなくなる。新・生物多様性保全国家戦略に関連して[[外来生物法>http://www.env.go.jp/nature/intro/1outline/law.html ]](2006年)-特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律が発布された。この背景の中、1873年に導入されて以来、緑化樹・密源植物として利用されてきたニセアカシア(真坂ら2006)が、その旺盛な繁殖力によって在来種を駆逐し生態系に悪影響を与える「種」として取り上げられた。~
 【参考文献】
 -Mooney, H.A. and Hobbs, R.J. (2000) Invasive Species in a Changing World, Island Press.(ゼミ教材:唐木貴行参照)
 -Mooney, H.A. and Hobbs, R.J. (2000) [[Invasive Species in a Changing World>http://www.islandpress.org/books/detail.html?SKU=1-55963-782-X]], Island Press.(ゼミ教材:唐木貴行参照)
 -農林水産技術会議(1993)主要マメ科樹木等の生理機構の解明と育苗技術の開発に関する研究、(担当:森林総合研究所)成果シリーズ、第289集.
 -前河正昭・中越信和(1997)海岸砂地においてニセアカシア林の分布拡大がもたらす成帯構造と種多様性への影響.日本生態学会誌 47:131-143.
 -真坂一彦・山田健四・小野寺賢介(2006)ニセアカシアとはどんな樹木か.光珠内季報 142:9-13.([[pdf(真坂)>http://www.hfri.pref.hokkaido.jp/kanko/kiho/pdf/kiho142-3.pdf]]).
 -村中孝司・石井潤・宮脇成生・鷲谷いづみ(2005)特定外来生物に指定すべき外来生物種とその優占度に関する保全生態学的視点からの検討.保全生態学10:19-33.
 ***ニセアカシア導入と保全生態への取り組み [#g8efa72e]
 1921年、北大第二基本林(中川研究林)の歌内地区の山火事跡地の再生にニセアカシアが導入された。この場所は蛇紋岩土壌が卓越しており、ニセアカシアの導入によって土壌は初めて安定した。最近の調査の結果では植栽した場所から天塩川への「逃亡」はほとんど認められなかった(森林生態系管理学研究室−小南遼氏・[[森本淳子>http://www.agr.hokudai.ac.jp/formac/forman/member/gyouseki/morimoto200704.pdf]]講師)。林道には若木が旺盛な成長を見せるが(下左図)、林内では老木がかろうじて繁殖活動をしている(下中図)。現在、萌芽による成長特性(松並志郎氏)、タネの発芽の生理・解剖学(唐木貴行氏と[[渡邉陽子>http://forest.fsc.hokudai.ac.jp:591/FMPro?-db=member.fp5&-format=member%2fmember6.htm&-sortfield=pid&-sortfield=id&-max=500&-recid=32780&-findall=]]博士、[[近藤哲也>http://www.agr.hokudai.ac.jp/hsla/kaki/kondo/index.htm]]教授)、光合成生産過程(兼俊壮明氏・OB[[崔東壽>http://www.tuat.ac.jp/~wakate/scholar/18.html]]博士)によって推進されている。OB真坂氏(北海道立林業試験場)らの調査地・鉄道防雪林内にも更新しているニセカシアに驚異を感じる(下右図)。~
 1921年、北大第二基本林(中川研究林)の歌内地区の山火事跡地の再生にニセアカシアが導入された。この場所は蛇紋岩土壌が卓越しており、ニセアカシアの導入によって土壌は初めて安定した。最近の調査の結果では植栽した場所から天塩川への「逃亡」はほとんど認められなかった(森林生態系管理学研究室−小南遼氏・[[森本淳子>http://www.agr.hokudai.ac.jp/formac/forman/member/gyouseki/morimoto200704.pdf]]講師)。林道には若木が旺盛な成長を見せるが(下左図)、林内では老木がかろうじて繁殖活動をしている(下中図)。OB真坂氏(北海道立林業試験場)らの調査地・鉄道防雪林内にも更新しているニセカシアに驚異を感じる(下右図)。現在、萌芽による成長特性(松並志郎氏)、タネの発芽の生理・解剖学(唐木貴行氏と[[渡邉陽子>http://forest.fsc.hokudai.ac.jp:591/FMPro?-db=member.fp5&-format=member%2fmember6.htm&-sortfield=pid&-sortfield=id&-max=500&-recid=32780&-findall=]]博士、[[近藤哲也>http://www.agr.hokudai.ac.jp/hsla/kaki/kondo/index.htm]]教授)、光合成生産過程(兼俊壮明氏・OB[[崔東壽>http://www.tuat.ac.jp/~wakate/scholar/18.html]]博士)の研究が進展中である。~
 
 &ref(中川林道.JPG);           &ref(中川ニセアカシア老木.jpg);           &ref(トウヒ林内ニセアカシア.JPG);~
 中川研究林・林道へ更新              80年を越えた老木の樹冠部       相対光強度5%以下に更新。ギャップで成長
 -崔東壽・渡邉陽子・上里季悠・北岡哲・秋林幸男・笹賀一郎・小池孝良(2007)異なる光環境下に生育するニセアカシア稚樹の光合成特性―北海道大学札幌研究林の事例― 日本森林学会北海道支部論文集 55:44-46.
 ***北上するマツノザイセンチュウ [#g16ffd27]
 初めにも紹介したが、海岸林の主要構成樹種は、[[襟裳岬>http://www.hokkaido.kokuyurin.go.jp/kyoku/job/tisan/erimo/index.html]]に代表されるようにクロマツである。そしてクロマツはマツノザイセンチュウ病には感受性が高い。[[外来種>http://www.pref.aichi.jp/kankyo/sizen-ka/shizen/gairai/index.html]]が猛威をふるう例である。(*) ベクター(媒介昆虫)であるマツノマダラカミキリの生活環は平均気温14℃によって制限されている。従って、進行する温暖化に備えた森造りを進めねばならない。~
 --*:松くい虫によると考えられていたマツ枯れは、マツ材線虫病(病原菌マツノザイセンチュウ、媒介昆虫マツノマダラカミキリ)によることが究明され、マツノマダラカミキリの後食(成虫に達してからの食害)を薬剤で予防すると、マツ枯れが終息することも判明した。そこで、後食の予防を目的とする航空機利用の薬剤散布(=特別防除)を緊急かつ計画的に推進するため、特別立法(松くい虫防除特別措置法)が講じられた。この法案は自然保護団体等の猛反対を受けたが、成立し、1977年4月から1982年3月まで効力をもつ時限立法となった。この法律は、松くい虫被害対策特別措置法(1982,4〜1987,3),同法一部改正・延長(1987,4〜1992,3)、同法一部改正・延長(1992,4〜1997,3)に引き継がれたが、1997年3月31日に廃案となった。
 初めにも紹介したが、海岸林の主要構成樹種は、[[襟裳岬>http://www.hokkaido.kokuyurin.go.jp/kyoku/job/tisan/erimo/index.html]]に代表されるようにクロマツである。そしてクロマツはマツノザイセンチュウ病には感受性が高い。[[外来種>http://www.pref.aichi.jp/kankyo/sizen-ka/shizen/gairai/index.html]]が猛威をふるう例である。(*) ベクター(媒介昆虫)であるマツノマダラカミキリの生活環は平均気温14℃によって制限されている。従って、進行する温暖化に備えた海岸林などの森造りを急がねばならない。~
 --*:松くい虫によると考えられていたマツ枯れは、マツ材線虫病(病原菌マツノザイセンチュウ、媒介昆虫マツノマダラカミキリ)によることが究明され、マツノマダラカミキリの後食(成虫に達してからの食害)を薬剤で予防すると、マツ枯れが終息することも判明した。そこで、後食の予防を目的とする航空機利用の薬剤散布(=特別防除)を緊急かつ計画的に推進するため、特別立法(松くい虫防除特別措置法)が講じられた。この法案は自然保護団体等の猛反対を受けたが成立し、1977年4月から1982年3月まで効力をもつ時限立法となった。この法律は松くい虫被害対策特別措置法(1982,4〜1987,3),同法一部改正・延長(1987,4〜1992,3)、同法一部改正・延長(1992,4〜1997,3)に引き継がれたが、1997年3月31日に廃案となった。
 
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保全生態 のバックアップ差分(No.6)