雌花両性花異株のGeranium sylvaticumの、雌個体と両性個体における性配分

要旨

多くの被子植物の花は、両性花であり、適応度の獲得は雌雄両器官を通して均等に行なわれる。しかし、被子植物の一部は同じ集団の中に雌個体と両性個体が存在する雌花両性花異株である。本研究では雌花両性花異株のGeranium sylvaticum個体群の、雌個体と両性個体における種子生産と性配分パターンについて調査を行なった。2つの個体群のうちの片方のみ、両性個体より雌個体のほうが多くのつぼみと種子を生産した。他の調査項目(胚珠のバイオマス、果実ごとの種子数、個体ごとの種子の質量)については性型(雌か両性か)による違いは見られなかった。2つの個体群間の両性個体の種子の相対適応度は異なり、雌個体の頻度の高い個体群では両性個体は雌個体に比べて雌を通した適応度が低かった。しかし、花粉の量やサイズは両個体群で違いが見られなかった。雌個体におけるつぼみの数は種子生産と正の相関があったが、両性個体は2つのうち1つの個体群でのみ、正の相関が見られた。このような結果から、この種の両性個体における雌器官を通した適応度は変わりやすく、もしかしたら個体群内の性比のように環境要因に影響を受けているかもしれないということが考えられる。

参考文献

異なる森林施業下におけるScots pine (Pinus sylvestris) の花粉移動

要旨

森林の遺伝的な多様性を保全するためには,森林施業が実質的な遺伝的な多様性にあたえる影響を評価す る必要がある.これまでの多くの研究では,上木の遺伝的な多様性を比較していたため,施業の影響自体を 検出した例は非常に少なかった.一方で,上木の密度や空間構造の変化をともなう施業は,花粉散布などの 遺伝子流動に影響をあたえた例があり,長期的な視点で更新プロセスや遺伝的な多様性そのものに影響を あたえる可能性がある.そこで,Robledo-Arnuncio et al. (2004) は,更新処理がことなる2つのScots pine (Pinus sylvestris) の天然生林で,異なるタイプの施業が花粉の飛散距離と集団の他殖率,近親交配 の度合を調べることで,(1) 森林施業の影響そのもの,(2) 遺伝的な多様性の保全に貢献する森林施業の2 点について検討した.

実験は,集合間伐と皆伐天然更新の2 つの処理区に対してそれぞれ対照区を設けた,合計4 調査区で行わ れた.各調査区から採集した種子のうち,SSR 3 遺伝子座にもとづく母樹・花粉由来の遺伝子型を特定し, 解析を行った.花粉の平均飛散距離δ と母樹あたりの有効花粉親数Nep の推定は,TwoGener? (Smouse et al., 2001; Austerlitz and Smouse, 2001) という集団遺伝学的なモデルを用いた.TwoGener? では, 着目する母樹間の距離が十分に大きいとき,AMOVA (Analysis of MOlecular VAriance; Excoffier et al., 1992) を用いて計算した母樹同士の花粉プールの分化の度合Φft にNep が反比例することを利用し て,Nep を推定することができる.さらにδ2 がNep に比例するので,ここから花粉の平均散布距離δ を求 めることができる.また,集団の自殖率率1 - tm と近親交配の割合tm - ts は,MLTR (Ritland, 2002) という最尤推定にもとづくモデルを用いて推定された.

解析の結果,すべての調査区でΦft は有意に0 とは異ならなかったが,集合間伐・皆伐のいずれの処理 においても,対照区にくらべて処理区のほうがΦft の値は大きく,逆にNep やδ の値は小さくなる傾向が あった.またΦft の値は林分密度が高いところで高くなる傾向があった.またΦft < 0 となってNep が 推定できなかった集合間伐処理区を除いて,Nep の値は71-125 と高かったが,林分密度が高いのでδ は 17-29m とそれほど高くはなかった.自殖率1 - tm は集合間伐区の処理・対照区でそれぞれ0.031, 0.068 であったが,皆伐区では有意に0 と異ならなかった.近親交配の割合をしめすtm - ts は,逆に皆伐区の 処理・対照区でそれぞれ0.032, 0.022 であったが,集合間伐区では有意に0 と異ならなかった.また,各 処理の処理区-対象区間ではいずれも有意な差はなかった.これらの結果から,Scots pine の天然生林で は,いずれの森林施業も花粉移動や繁殖構造にあきらかな負の影響はあたえず,集団の遺伝的な多様性の保 全には十分耐えうると思われる.

紹介する文献

その他の参考文献

Arabidopsis Basic Leucine Zipper Proteins That Mediate Stress-Responsive Abscisic Acid Signaling

要旨

植物ホルモンの一つであるアブシジン酸(ABA)は、ストレス応答においても重要な役割を果たしている。以前の研究からABRE(ABA-responsive element:ABAに関係している塩基配列)が分かってきており、多くのABF(ABRE-binding factor:ABREに結合して機能するタンパク質。またはそれを合成する遺伝子)が単離されたが、その生体内の役割は分かっていない。

今回の論文では、そのABFのうち、ABF3とABF4というものに着目し、そのABAシグナリング経路での機能について研究している。ABF3・ABF4をそれぞれ過剰発現させたシロイヌナズナを用意し、様々な環境条件のもとで生育させ、その生育状況を野生株と比較することによって、ABA応答性、塩応答性、糖応答性などについて検討した。

実験の結果、トランスジェニック(遺伝子導入)植物において、分子レベルではABA応答性、ストレス応答性の遺伝子の発現に変化が見られ、生理的には蒸散量の低下や乾燥耐性の上昇などが見られた。

→よってABF3・ABF4は、ともにストレス応答性のABAシグナリング経路に介在していることが確かめられた。

発表形式


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分野ゼミ/文献紹介ゼミ/2005-07-15 vol.17 のバックアップ(No.5)