*森林施業が遺伝子流動にあたえる影響の評価 -Cornus florida を例に- [#b705b093]
- 発表者:富田基史
- 日時:7月4日

** 要旨 [#y6ca96bf]
花粉散布の範囲やそれによる遺伝子流動は,景観の変化によって影響をうけることがある.特に虫媒花の
場合は,成木の密度と送粉昆虫の種類・量などに影響されるので,これまでの結果でもその結果はまちまち
であった.Sork et al. (2005) は,Missouri Ozark Forest Ecosystem Project の一環として,森林施業
が虫媒のflowering dogwood (Cornus florida L.) の花粉散布に及ぼす影響を調べた.

皆伐,択伐,無施業の3 つの処理区(各処理2 反復) で,種子親33-74 個体から種子を10 個ずつ採取し,
合計1500 の実生のアロザイム8 遺伝子座に基づく遺伝子型を特定した.実生の遺伝子型のうち,父親由来
の遺伝子型を調べることによって,花粉親の構成を知ることができる.ここでは,TWOGENER (Smouse
et al., 2001) というモデルを用いて,母樹間の花粉親構成の違いから,有効な花粉散布の範囲を推定した.
花粉親の構造は,皆伐区でいちばん大きく(Φc = 0.090, p < 0.001),択伐区(Φs = 0.125, p < 0.001),
無施業区(Φu, p < 0.001) の順に小さかった.花粉親の構造から有効な花粉親の数Nep が推定できるので,
比較してみると,Nep は,皆伐区でいちばん大きく(Nep = 5.56),無施業区でいちばん低い(Nep = 2.87)
ことがわかった.また,筆者が独自に構成したブートストラップ検定の結果によると,花粉親の構造は,皆
伐区と無施業区の間で有意に異なり(ΦC < ΦU, p = 0.034),森林施業によって,花粉散布範囲が広くなっ
たことがわかった.

この研究では,花粉の有効散布範囲の推定に,近年開発されたTWOGENER (Smouse et al., 2001) と
いう間接推定モデルを用いている.これはAMOVA (Analysis of MOlecular VAriance; Excoffier et al.,
1992) によって,花粉由来の遺伝子型の変異を母樹内と母樹間に分解したとき,母樹間の変異の割合Φft
が,有効な花粉親の数Nep に反比例することを利用して,花粉の有効散布距離を推定する方法である.
Sork et al. (2005) は,さらにいくつかの補正方法を用いているが,ここではもっとも単純な例について原
理を解説することで,参加者に解析のイメージをもってもらい,理解の助けとなることを期待したい.

** 参考文献 [#c5cf423b]

- Excoffier, L., P. E. Smouse, , and J. M. Quattro. 1992. Analysis of molecular variance inffered from
metric distances amoung DNA haplotypes: application to human mitochondorial DNA restriction
data. Gentics, 131:479-491.
- Smouse, P. E., R. J. Dyer, R. D. Westfall, and V. L. Sork. 2001. Two-generation analysis of pollen flow
across a landscape. I. Male gemete heterogeneity among females. Evolution, 55:260-271.
- Sork, V. L., P. E. Smouse, V. J. Apsit, R. J. Dyer, and R. D. Westfall. 2005. A two-generation analysis
of pollen pool gentetic structure in flowering dogwood, Cornus florida (Cornaceae), in the Missouri
Ozarks. American Journal of Botany, 92:262-271.

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分野ゼミ/文献紹介ゼミ/2005-07-04 vol.16 のバックアップソース(No.2)