人工林の機能

人工林の意義

北海道の森林面積は総面積の71%に当たる554万ha、このうち人工林は151万haと僅か1/5に過ぎない(全国では2512万ha、人工林は1036ha)。しかし、量生産には人工林は効率的であり、「経済のグローバル化・資源戦略」を乗り切るには人工林に期待せざるを得ない。人工林の大部分は育苗のし易いトドマツが占め、面積では人工林の30%を占めるカラマツ類の利用法は北海道立林産試験場にて確立された。そして最近ではアカエゾマツを植えてきた。既に数々の育林技術が開発されてきたが、保育を要する若齢林の取り扱いは、これからの課題である。「平均値」の研究成果にはめざましいものがあるので、ここでは「質」について言及したい。

トドマツ

「枯れる場所には植えなければよい。」これは林試時代の某上司の発言であり、トドマツ・トウヒ類を用いた森林造成の転換期であったように思う。1981年のことであった。帯広地域で多発していたトドマツの冬季乾燥害は、寡雪地帯故に土壌凍結が生じることが、その主因であった。開芽時期に低温諸害を回避し防ぐため、1970年代から造林教室では耐凍性物質の探索などが積極的に行われた。育種技術によって、本州のシラベなどAbies属との雑種を創出し、開芽時期を遅らせることに成功した。また、冬芽を覆う芽鱗の総数は寡雪地帯が多く、冬季の脱水耐性への適応が見られる(Okada et al.197?)。トドマツは、また、多湿心材が特徴である。このため寒冷地では棟裂が多く、傷口の「ヘビサガリ」等の解剖学的研究が盛んに行われた(石田 1986)。高橋・眞田・片寄らの採種園調査によって、多湿芯材の発生は遺伝的変異より地下水位の高さが影響する事が明らかになった。針葉樹としては寿命が比較的短く、材の比重が低いことが特徴である。その材の白さが好まれるという。

【文献】

アカエゾマツ

エゾマツと並び「ピアノの木」アカエゾマツは主要造林樹種である。開芽が遅いため、早霜に遭いやすいトドマツを植える事ができない場所に導入してきた。しかし、開芽時期のわずか数日間は、-4℃程度の低温に5時間遭遇すると針葉が枯死することが指摘され(高橋ら1987)、光合成系IIの低温障害から枯死することが解明された(Kitao et al. 2004)。耐棟性が高いのではなく、開芽が遅い、厳しい環境において葉の寿命を延ばす(Kayama et al. 2003)、外生菌根菌と共生し重金属を体内に取りこまない(Kayama et al. 2005)など、成長特性が明らかになってきた。荒廃地や天塩・中川研究林に広がる蛇紋岩など特殊土壌地帯の緑化樹種として重用されている(森林環境修復)。

材の価値を上げる

しかし、人工林では概して成長が良く年輪幅が広くなるので比重が低く、構造材として利用が懸念され、天然生林からの生産がなおも期待されている。そして植え付けた個体が保育の必要な年齢に達してきた。

アカエゾ人工林.JPG        アカエゾ間伐.JPG
天塩研究林(若齢アカエゾマツ29年生2007年現在)       アカエゾマツ除間伐枝打ち後5年経過(天塩研究林)

かつてエゾマツが材質試験の標準とされたが、それに次いでデータ豊富なヨーロッパトウヒ(=ドイツトウヒ)では、年輪幅が広くなると容積密度は急激に低下する(宮島 198?)(下左図)。そこで、光合成生産に直結する樹冠の制御によって成長を制限し、また、「無節材」を目指す保育が有効と考えている。アカエゾマツは枝が枯れ落ちにくいことに加え、傷口が塞がりにくいので、枝打ち実施時期や方法も考えなくてはいけない(下中図)。アカエゾマツ良材生産と樹冠調節機能の生理生態(下右図)は挑戦的な課題と言えよう。土壌環境に限らず、マイルドなストレス下で針葉の寿命を延ばす(Turnover rate)アカエゾマツの成長制御は魅力ある研究でもある!

年輪幅と密度.jpg   枝打ちヤニ.JPG アカエゾ葉寿命.jpg
ストローブマツは早材・晩材の差が少ない   幹がヤニで白い  ストレス下で針葉の寿命が延びる(Kayama et al 2002)

参考文献

カラマツとグイマツ雑種F1

移入種としてのカラマツ

成長速度が速いことから、長野県の一部に分布していたカラマツを移入し、坑木としての利用を念頭に民有林に大量に受け付けた。園統計資料からはほとんど北海道の形を描いていた。そして、利用方法は北海道立林産試験場の努力の結果、カラマツ活用ハンドブックとして完成を見た。こうなると2代目造林もカラマツに期待がふくらむ。しかし、信州で一時問題になった忌や地(その後、ナラタケ病とされた)や根腐れが懸念される。

バイテク技術と地球環境への貢献

しかし、導入当初被害をもたらした野鼠害や先枯れ病に抵抗性があるグイマツ雑種F1(グイマツはかつて北海道に分布していた)が開発され(♀:千島列島産のグイマツx♂:ニホンカラマツ)、茎頂培養によって遺伝的優位性を維持し、実用的には挿し木による大量増殖法が開発され、期待が寄せられている。なお、葉緑体の父系遺伝をDNAレベルで紹介した材料である(Szmidt 1987)。現在、笠小春氏によって特殊土壌への植栽可能性を天塩研究林20線の蛇紋岩試験地にて検討中。

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カラマツ属植栽図(金子正美・未発表) ユーラシア大陸に於ける永久凍土とカラマツ属の分布

 一方、生物多様性保全の視点からは大面積造成は懸念される。しかし、その高い光合成機能とユーラシア大陸東側全域を覆い、地球刊行を左右する永久凍土の保護と山火事後の回復にも無くてはならない樹種であり環境林としての期待も高まる(Koike et al. 2000)。その森林域としての機能評価の研究は天塩研究林・やつめ沢試験地で環境省・北電と北方生物圏フィールド科学センターの共同研究として天塩研究林の高木健太郎氏を中心に展開している(Takagi et al. 2005)。

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2001年から「手塩」に掛けた試験地   Flux観測タワー  国際研究へスケーリング・アップ(高木氏原図)

フラックス関係のデータ(純生態系交換速度NEP)は下向き(−値)が吸収を意味する(下左図)。総生産量(GPP)の僅か0.5%がバイオームとしてのCO2吸収速度である。GPPを100%とすると、NPPは50%、NEPは5%以下、NBP→ 約0.5%。(下右図)。

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参考文献


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