* 森林生理生態的アプローチ [#s2982f80]
 変動環境下(CO2増加による温暖化と窒素沈着量の増加する環境)での森林管理を行う基礎データを収集している。その目的は、もちろん人類の生存基盤としての森林の保全である。そして、強く願っていることは木材生産を持続的に行うための科学的根拠を得る事にある。詳しくは以下の「木材生産と生理生態研究の意義」にて主張している。~
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 #contents
 ***森林生理生態学の構築に向けて [#la3e6a84]
  各種環境と樹木とその集団の成長との関係を解明し、森林育成と森林生態系修復の基礎学となる体系を森林生理生態学と呼ぶ。動物学を基礎に発展してきた体系では、体内の応答を重視した環境生理学(植物では生態生理学)という概念があり、固着性を特徴とする植物では、より環境を重視して生理生態学の体系が進展してきた。~
  私たちの森林生理生態学へのアプローチは、樹木の光合成活動を縦軸に森林動態解析を横軸として樹木の成長から森林の発達へ迫るように心がけている。それは光合成産物がどのように分配されるか、という見方と考え方である。タワー観測を通じて初めて認識できた森林環境形成作用(「森林は環境を自ら造る」)と植物の環境応答のデータを連動させる概念図(schema)を得た。下左図は、1990年以降蓄積してきた森内微気象と樹木の個葉レベルの生理解剖学的データの連携である(Koike et al. 2001)。~
 
 &ref(樹木史-環境.jpg);                               &ref(垂直変化CO2光.jpg);~
 
 左図:森林樹木の生活史の各段階における環境要因。この図は職を得て以来、影響を受け続けている中静(淺野)透氏の総説(Nakashizuka 2001)を基礎に小池・中静(2004)として公開した。中静氏の学問を良く知るためには「[[森のスケッチ>http://www.press.tokai.ac.jp/bookdetail.jsp?isbn_code=ISBN978-4-486-01637-3]]」の一読をお勧めする。~
 右図:初めて図にした林内微気象のデータ。光の垂直変化は葉量の垂直変化と同じであり、タワーに登ると体感できる。一方、CO2濃度の変化は見えないが、あまりに動的であった。赤の矢印が示すように、林床近くはとっくに2040年以降のCO2環境であるが、樹冠では(晴天日ではなく)薄曇り日には320ppm以下に低下していた。周囲の大気より約70ppmも低いCO2濃度であり、野外での光合成機能の活動の結果を実感した(Koike et al. 2001、小池ら 2004)。
 -Koike, T., Kitao, M., Maruyama, Y., Mori, S., and Lei, T. T. (2001) Leaf morphology and photosynthetic adjustments among deciduous broad-leaved trees within the vertical canopy profile. Tree Physiology 21: 951-958.
 -小池孝良・中静 透(2004) 樹冠樹の共存機構.収録「[[樹木生理生態学>http://www.asakura.co.jp/books/isbn/978-4-254-47037-6/]]」(小池編著)朝倉書店、東京.
 -小池孝良・市栄智明・北岡 哲・北尾光俊 (2004) 落葉広葉樹の個葉の光合成特性と樹冠部の光合成機能.地球環境 9: 191-202.
 -Nakashizuka, T. (2001) Species coexistence research in temperate, mixed deciduous forests. Trends in Ecology & Evolution (TREE) 16: 205-210.(2003年日本林学会学会賞受賞論文)~
 
 ***森林域のARD方式 [#ob3aa691]
 人為攪乱(=森林域の改変;degradation)や台風など自然攪乱の結果、森林面積が減少し期待した森林へと誘導できずに「荒廃地」となった土地が多く存在する。さらに特殊土壌(強酸性土壌・蛇紋岩土壌・塩類化など)地帯での緑化が切実な課題として迫っている。森林生理生態学の使命の一つには、この荒廃地の再生を目標として生態系修復を成功する体系の構築がある。
  ここで、2002年までの理念と成果の一部は、良き仲間、北尾光俊氏・香山雅純氏とともに[[根の研究会>http://www.jsrr.jp/]]の雑誌「根の研究」に「[[変動環境下における冷温帯樹木の根系の発達と成長>http://root.jsrr.jp/011040161.pdf]]」としてまとめた。この研究をまとめた背景にはIGBP(1998)が指摘した「ARD方式」がある。
 --ARD方式:1997年に開催された第3回温暖化防止枠組み条約締約国会合(COP3)で採択された京都議定書では,人為的な吸収源の拡大活動が各国の第一約束期間における排出削減数値目標の違成のために用いられることが認められた.すなわち,COP3では1990年以降の「新規植林; Afforestation」,「再植林; Reforestation」,「森林減少; Deforestation=土地の改変」(3条3項:ARD 活動と呼ぶ),森林管理など(3条4項)の人為的活動により造られる吸収源の約束期間(2000〜2012年)での炭素ストック変化が,数値目標達成の判定に組み込まれる.さらに,海外における植林等の吸収源拡大の活動も,共同実施(6条),クリーン開発メカニズム(CDM;12条)という新たな活動により数値目標の達成に貢献する可能性が開かれた.~
 -IGBP (1998) The terrestrial carbon cycle: Implications for the Kyoto Protocol. Science 280: 1393-1394.
 -小池孝良・香山雅純・北尾光俊(2002) 変動環境下における冷温帯樹木の根系の発達と成長,根の研究(Root Research)11:161-169.~
 
 **大気中の高CO2と窒素沈着に対する森林植物の応答解明 [#zdfb0ed4]
 ***変動環境下での森林応答 [#e5140308]
 森林には各種機能の発揮が求められている。木材生産機能だけを見ても、短く見積もっても針葉樹で30〜40年、銘木とされる広葉樹では100〜200年の生産期間が必要とされる。しかし、産業革命まで約2000年に渡って300ppm以下で安定していた大気CO2濃度は、既に380ppmを越えた([[ハワイ・マウナロア>http://www.esrl.noaa.gov/gmd/ccgg/trends/]])。さらに窒素沈着量も刻々と増加してきた([[柴田2004>http://forest.fsc.hokudai.ac.jp/~member/hs/shibaframeJP.htm]])。この変動し続ける生産環境への森林生態系としての応答を考慮せねばならない。~
 &ref(マカバ市.jpg);            &ref(森林の機能.jpg);~
 
 左写真:銘木市のウダイカンバ(心材の割合が大きく美しいピンクの個体はマカバと称される)~
 右図:森林の発達段階と機能。CO2固定機能は若齢林に期待される(Kira & Shidei 1968)(藤森 2003)~
 
 長期に渡る樹木の生育期間の変動環境(=生産無機環境)を考慮した造林学が求められる。1989年に米国・Duke大学のPhytotron(人工気象室)を訪問し、変動環境(高CO2+窒素沈着)に対し、森林植物がどのように応答するのかを明らかにすることは、自然環境を保全し人類の生活環境を健全に保つためにも必要不可欠であると確信した。もちろん生物ストレスも考慮せねばならない(被食防衛)。~
 ***アプローチ [#qc8a98e3]
 私たちは野外実験と制御環境を利用して、大気CO2濃度の上昇や窒素沈着、特殊土壌に対する森林植物の応答を、[[北大北方生物圏フィールド科学センター>http://forest.fsc.hokudai.ac.jp/~exfor/fr/]]FSCや[[森林総合研究所>http://ss.ffpri.affrc.go.jp/index-j.html]]などとも協力しながら研究を進めている。また、近年では世界レベルで問題となっている山火事跡地の再生メカニズムの生理生態学(森林環境修復へジャンプ)や侵入種の制御に関する研究をニセアカシアをモデルとして生態学生理的手法(後述)を用いて研究を始めている(チーム:唐木貴行、松並志郎、兼俊壮明、金容ソク各氏+森林生態系管理学研究室、北大FSC札幌林・秋林幸男、中川林・門松昌彦、天塩林・野村睦、檜山研究林の各氏)。~
 
 **研究方法の変遷 [#ud79a75d]
 -温暖化影響評価
 -高CO2x窒素沈着影響評価へ~
 工事中
 **木材生産と生理生態研究の意義 [#s50fdbde]
 ***個体と集団の生産過程 [#w27b07dc]
 職を得て従事したのは農水省大型別枠研究「バイオマス変換計画」であった。健康に良い?牛肉生産のためにシラカンバを牛の餌とするための特性解明と生産量予測・推定であった。密度−材積(Y-D)曲線から最適生育密度を探る「平均値」の世界であり、大学院時代(穂積研)に横目で見ていた内容であった(Yoda, K., T. Kira, H. Ogawa and K. Hozuimi. 1963. Self-thinning in overcrowded pure stands・・・ )。並行してミズナラを中心とした有用広葉樹(北海道ではウダイカンバ、ミズナラ、ハリギリ、ハルニレ、ヤチダモに注目)の生産も隣の研究室では取り組んでいた。上司(造林OB坂上幸雄氏)の勧めで、このウダイカンバとも取り組むことになった。ダケカンバとともに(Koike 1995)。~
 ***銘木生産への道 [#j7e893cf]
 銘木生産はバイオマス生産とは全く異なる。北海道へ配属になって山を見た時に、「平均値の世界」から解き放たれた思いであった。単木管理をすることによって、80cm径x4m長の広葉樹丸太が200万円以上の価値を生む。儲かるウダイカンバ(=心材の色が美しく大きい材をマカバ[真樺]と呼ぶ)生産は単木管理にその基礎がある(少なくても2007年7月までは)。実践例は、東大演習林の[[山本博一>http://www.uf.a.u-tokyo.ac.jp/education/members02.html]]氏が博士論文に方針の1つとして、まとめておられる「択伐林施業計画のシステム化に関する研究」(東大博士(農学)論文)。~
 -衰退木の見分け方
  将来見込みのないウダイカンバ個体の見分け方は、有り難いことであるが、版を重ねて北海道森林管理局の森林管理マニュアルに掲載して頂いている(小池ら1988)。ウダイカンバ銘木用には下枝の枯れ上がりやすいプラス木に注目したい(加納 1987)。どの様に光を利用し、どの様な環境耐性を持つかを知る事で地剥ぎ跡や山火事跡に再生し、かつては雑樺として切り捨てられてきたシラカンバ属の生理生態を、再度、取り組みたい。個体ベースの研究テーマとしても。また、バイオエネルギー生産の基礎は「バイオマス変換計画」によって見通しはできている。~
 
 &ref(マカバ皮目.jpg);                                                              &ref(プラス・マイナス木.jpg);~
 
 左図:将来の衰退木を「皮目」から推定する。生理解剖学の裏付けの弱いことが弱点。~
 右図:プラス木は銘木候補であるがバイオマス生産には不適な個体。一方、マイナス木はバイオマス生産に適した「プラス木」。これはMS理論(1953年に発表されたMonsi−Sakekiの生産構造図の広葉型とイネ科型に対応)からも自明。高密度生産に対応できる。~
 
 ***針葉樹林に侵入した有用広葉樹 [#p63f6787]
 代表樹種としてハリギリ(=セン)を取り上げたが、ここでの提案は林内で単幹の状態で過ごすことの多い遷移中間種の多くに当てはまると思う。依然として材価のふるわないトドマツなどの針葉樹に中に更新してきたハリギリやヤチダモ等を大きく育てることは「夢」である。この夢に実現にはWhole plant physiologyとBranch autonomyの視点が欲しい。ここで、断らねばならないが、有用広葉樹とは銘木として高価格材として取引される樹種であって、'''森林樹木に無用な樹種はない'''。なお、これらは天塩研究林での話題提供によって技術職員・森林技能補佐員の皆さんにも吟味頂いた内容でもある(07年7月)。~
 
 &ref(トド・セン.jpg);                                                     &ref(RLタモ・セン枝.jpg);~
 トドマツ人工林に侵入したハリギリ個体群(天塩林・タンタ)          相対的光量とヤチダモ・ハリギリの伸長成長・分枝(Y)~
 
 -小径木から成木への誘導~
 単幹で成長してきた個体が分枝できることが必須。その光環境として頂端部の相対的光量20%以上が必要である(Koike et al. 1998)。これは原田泰博士によって提示された(1954年)更新が行われる光環境の基準でもある(RL:5%>で針葉樹、10%>で多くの広葉樹、20%>大部分の樹種の更新が維持される)(小池 1993)。しかし、永らく林床や光環境の悪い条件で生存してきた個体は、根系の発達が悪いし、葉は前形成(predetermination)によって光環境の突発的変化には応答できないために(Koike et al. 1997)、せっかく更新してきた個体が枯れる事になる。また、呼吸のバランスも究明すべき課題であろう。~
 -上層林冠下が暗い~
 もう1つは、上層木の樹冠下に入るまでに更新稚樹にとっての光環境を改善すべきである。上層木の樹冠下は最も暗いからである。林内における2度の被圧である。ササの優占する多雪地帯では、株近くは地下茎が侵入できないため発芽にとってはsafe siteであるが、数年で上層木の樹冠下に達してしまい、結局枯死するのである(矢島1982、石塚ら1985)。~
 ***引用文献 [#hf0b6a13]
 -藤森隆郎(2003)新しい森林管理、全国林業改良普及協会、東京.
 -原田 泰(1954)森林と環境ー森林立地論ー、北海道造林振興協会、札幌.
 -石塚森吉・菅原セツ子・金沢洋一(1985) 日本林学会誌
 -加納 孟(1987)材質からみた林木の育成法.林業科学技術振興所、東京.
 -小池孝良、向出弘正、高橋邦秀、藤村好子 (1988)ウダイカンバ若齢人工林における衰退木の特徴.北方林業 40: 141-144.
 -小池孝良(1991) 落葉広葉樹の光の利用の仕方―光合成特性―,森林総研研究レポート25:1-8.
 -Koike, T. (1995) Vegetation Science in Forestry: Global Perspective based on Forest Ecosystems of East & Southeast Asia. E.O. Box et al. eds., “Physiological ecology of the growth characteristics of Japanese mountain birch in northern Japan: a comparison with Japanese mountain white birch”, Kluwer Academic Publishers, The Netherlands, 409-422.
 -Koike, T., Tabuchi, R., Takahashi, K., Mori. S. and Lei, T.T. (1998) Characteristics of the light response in seedlings and saplings of two mid successional species, ash and kalopanax, during the early stage of regeneration in a mature forest. Journal of Sustainable Forestry 6: 73-84.
 -Koike, T., Miyashita, N. and Toda, H. (1997) Effects of shading on leaf structural characteristics in successional deciduous broadleaved tree seedlings and their silvicultural meaning. Forest Resources and Environment 35: 9-25.
 -柴田英昭(2004)大気−森林−河川系の窒素移動と循環. 特集「森林と渓流・河川の生物地球化学」,地球環境 9: 75-82.
 -矢島崇(1982)北大演研報
 
 **人工林の機能 [#b70e7f6d]
 北海道の森林面積は総面積の71%に当たる554万ha、このうち人工林は151万haと僅か1/5に過ぎない(全国では2512万ha、人工林は1036ha)。しかし、量生産には人工林は効率的であり、「経済のグローバル化・資源戦略」を乗り切るには人工林に期待せざるを得ない。人工林の大部分は育苗のし易いトドマツが占め、面積では人工林の30%を占めるカラマツ類の利用法は北海道立林産試験場にて確立された。そして最近ではアカエゾマツを植えてきた。既に数々の育林技術が開発されてきたが、保育を要する若齢林の取り扱いは、これからの課題である。「平均値」の研究成果にはめざましいものがあるので、ここでは「質」について言及したい。 	
 -トドマツ
 「枯れる場所には植えなければよい。」これは林試時代の某上司の発言であり、トドマツ・トウヒ類を用いた森林造成の転換期であったように思う。1981年のことであった。帯広地域で多発していたトドマツの冬季乾燥害は、寡雪地帯故に土壌凍結が生じることが、その主因であった。開芽時期に低温諸害を回避し防ぐため、1970年代から造林教室では耐凍性物質の探索などが積極的に行われた。育種技術によって、本州のシラベなど'''Abies'''属との雑種を創出し、開芽時期を遅らせることに成功した。また、冬芽を覆う芽鱗の総数は寡雪地帯が多く、冬季の脱水耐性への適応が見られる(Okada et al.197?)。トドマツは、また、多湿心材が特徴である。このため寒冷地では棟裂が多く、傷口の「ヘビサガリ」等の解剖学的研究が盛んに行われた(石田 1986)。高橋・眞田・片寄らの採種園調査によって、多湿芯材の発生は遺伝的変異より地下水位の高さが影響する事が明らかになった。針葉樹としては寿命が比較的短く、材の比重が低いことが特徴である。その材の白さが好まれるという。~
 ***人工林の機能 [#b70e7f6d]
 北海道の森林面積は総面積の71%に当たる554万haであり、人工林は151万haである(全国では2512万ha、人工林は1036ha)。しかし、量生産には人工林は不可欠であり「経済のグローバル化・資源戦略」に立ち向かうことができるのは人工林であろう。北海道では1代目造林地が収穫期を迎え、期待される人工林像も議論されてきた。多層林への期待も大きい。~
 「平均値」の研究成果には、従来各種の研究成果が提示されてきた。しかし、価格の低迷は、この20年間改善されていない。しかし、初代・新島教授らが植林したとど松人工林も見事な山へ導かれた。一方では、地球温暖化低減に貢献できるグイマツF1・グリームなど着々と資源管理の基礎が構築されている。これらの人工林には、温暖化低減のために各種機能が期待されているが、詳細は「人工林の機能」を参照して欲しい。
 
 【文献】~
 -北海道(2007)
 -石田茂雄(1986)トドマツの棟裂、北方林業会
 -武藤憲由(198?)耐凍性物質、化学と生物
 &ref();                 &ref(エゾ人工林.JPG);          &ref(カラマツ後.jpg);~ 
 天塩研究林(若齢アカエゾマツ30年生2007年現在)       
 
 ***アカエゾマツ [#v1ee80ab]
 エゾマツと並び「ピアノの木」アカエゾマツは主要造林樹種である。開芽が遅いため、早霜に遭いやすいトドマツを植える事ができない場所に導入してきた。しかし、開芽時期のわずか数日間は、-4℃程度の低温に5時間遭遇すると針葉が枯死することが指摘され(高橋ら1987)、光合成系IIの低温障害から枯死することが解明された(Kitao et al. 2004)。耐棟性が高いのではなく、開芽が遅い、厳しい環境において葉の寿命を延ばす(Kayama et al. 2003)、外生菌根菌と共生し重金属を体内に取りこまない(Kayama et al. 2005)など、成長特性が明らかになってきた。荒廃地や天塩・中川研究林に広がる蛇紋岩など特殊土壌地帯の緑化樹種として重用されている(森林環境修復)。しかし、人工林では概して成長が良く年輪幅が広くなるので比重が低く、構造材として利用が懸念され、天然生林からの生産がなおも期待されている。そして植え付けた個体が保育の必要な年齢に達してきた。
 
 &ref(アカエゾ人工林.JPG);                                              &ref(アカエゾ間伐.JPG);~
 天塩研究林(若齢アカエゾマツ29年生2007年現在)       アカエゾマツ除間伐枝打ち後5年経過(天塩研究林)~
 
 かつてエゾマツが材質試験の標準とされたが、それに次いでデータ豊富なヨーロッパトウヒ(=ドイツトウヒ)では、年輪幅が広くなると容積密度は急激に低下する(宮島 198?)(下左図)。そこで、光合成生産に直結する樹冠の制御によって成長を制限し、また、「無節材」を目指す保育が有効と考えている。アカエゾマツは枝が枯れ落ちにくいことに加え、傷口が塞がりにくいので、枝打ち実施時期や方法も考えなくてはいけない(下中図)。アカエゾマツ良材生産と樹冠調節機能の生理生態(下右図)は挑戦的な課題と言えよう。土壌環境に限らず、マイルドなストレス下で針葉の寿命を延ばす(Turnover rate)アカエゾマツの成長制御は魅力ある研究でもある!
 
 &ref(年輪幅と密度.jpg);     &ref(枝打ちヤニ.JPG);   &ref(アカエゾ葉寿命.jpg);~
 ストローブマツは早材・晩材の差が少ない   幹がヤニで白い  ストレス下で針葉の寿命が延びる(Kayama et al 2002)
 
 【参考文献】
 -Ishii, H., Ooishi, M., Maruyama, Y. and Koike, T. (2003) Acclimation of shoot and needle morphology and photosynthesis of two '''Picea''' species to different in soil nutrient availability. Tree Physiology 23: 453-461.
 -Kayama, M., Sasa, K. and Koike, T. (2002) Needle life span, photosynthetic rate, and nutrient concentration of '''Picea glehnii, P. jezoensis''' and '''P. abies''' planted on serpentine soil in northern Japan. Tree Physiology 22: 707-716.
 -Kayama, M., Quoreshi, A.M., Uemura, S. and Koike, T. (2005) Differences in growth characteristics and dynamics of elements absorbed in seedlings of three spruce species raised on serpentine soil in northern Japan. Annals of Botany 95: 661-672.
 -Kitao, M., Qu Laiye, Koike, T., Tobita, H. and Maruyama, Y. (2004) Increased susceptibility to photoinhibition in pre-existing needles experiencing low temperature at spring budbreak in Sakhalin spruce ('''Picea glehnii''') seedlings. Physiologia Plantarum 122: 226-232
 -宮島 寛(199?) 木材を知る本、北方林業会、札幌.
 -高橋邦秀・藤村好子・小池孝良・中村梅男 (1988)アカエゾマツの晩霜害. 北方林業 40: 259-263.  
 
 ***カラマツとグイマツ雑種F1 [#t25f39ce]
 成長速度が速いことから、長野県の一部に分布していたカラマツを移入し、坑木としての利用を念頭に民有林に大量に受け付けた。園統計資料からはほとんど北海道の形を描いていた。そして、利用方法は北海道立林産試験場の努力の結果、[[カラマツ活用ハンドブック>http://www.fpri.asahikawa.hokkaido.jp/manual/karamatsu/karamatsu.htm]]として完成を見た。こうなると2代目造林もカラマツに期待がふくらむ。しかし、信州で一時問題になった忌や地(その後、ナラタケ病とされた)や根腐れが懸念される。しかし、導入当初被害をもたらした野鼠害や先枯れ病に抵抗性があるグイマツ雑種F1(グイマツはかつて北海道に分布していた)が開発され(♀:千島列島産のグイマツx♂:ニホンカラマツ)、茎頂培養によって遺伝的優位性を維持し、実用的には挿し木による大量増殖法が開発され、期待が寄せられている。なお、葉緑体の父系遺伝をDNAレベルで紹介した材料である(Szmidt 1987)。現在、笠小春氏によって特殊土壌への植栽可能性を天塩研究林20線の蛇紋岩試験地にて検討中。~
 
 &ref();                               &ref();~
 カラマツ属植栽図(金子正美・未発表) ユーラシア大陸に於ける永久凍土とカラマツ属の分布
 
  一方、生物多様性保全の視点からは大面積造成は懸念される。しかし、その高い光合成機能とユーラシア大陸東側全域を覆い、地球刊行を左右する永久凍土の保護と山火事後の回復にも無くてはならない樹種であり環境林としての期待も高まる(Koike et al. 2000)。その森林域としての機能評価の研究は天塩研究林・やつめ沢試験地で環境省・北電と北方生物圏フィールド科学センターの共同研究として[[天塩研究林>http://forest.fsc.hokudai.ac.jp/~exfor/fr/]]の高木健太郎氏を中心に展開している(Takagi et al. 2005)。
 
 &ref();                   &ref();                          &ref();~
 2001年から「手塩」に掛けた試験地   Flux観測タワー  国際研究へスケーリング・アップ(高木氏原図)
 
 フラックス関係のデータ(純生態系交換速度NEP)は下向き(−値)が吸収を意味する。総生産量(GPP)の僅か0.5%がバイオームとしてのCO2吸収速度である。GPPを100%とすると、NPPは50%、NEPは5%以下、NBP→ 約0.5%。   
 
 【参考文献】
 -浅田節夫・佐藤大七郎編著 (1981) カラマツ造林学、農林出版株式会社
 -Szmidt, E.A. (1987) Paternal inheritance in chloroplast DNA in '''Larix'''. Plant Molecular Ecology 9:59-64.
 -Koike, T., Yazaki, K., Funada, R., Maruyama, Y., Mori, S. and Sasa, K. (2000) Forest heath and vitality in northern Japan - A case study on larch plantation-. Research Note of Faculty of Forestry, The University of Joensuu. 92: 49-60.
 -Takagi, K., Nomura, M., Fukuzawa, K., Kayama, M., Shibata, H., Sasa, K., Koike, T., Akibayashi, Y., Inukai, K and Maebayashi, M. (2005) Deforestation effects on the micrometeorology in a cool-temperate forest in northernmost Japan. Journal of Agricultural Meteorology 60: 1025-1028.
 
 **森林保全生態への道 [#hf15271f]
 [[新・生物多様性国家戦略>http://www.biodic.go.jp/nbsap.html]](2002年)は1995年版を基礎に採択された。この概要は[[「いのちは創れない」>http://www3.famille.ne.jp/~ochi/tayousei.html]]に詳しい。この「戦略」には「3つの危機、4つの理念、7つの取り組み」(*)が掲げられ、それらの具現化には「[[自然再生推進法>http://www.env.go.jp/nature/saisei/law-saisei/index.html」]]」を初めとする法律が整備されつつある。これらの中に、生物多様性の保全が謳われており、まさに林学が導入されて以来、追求してきた森林管理(→領主が狩猟・収穫を得る山造り)の理念が21世紀に国民の手に届く時代が到来した。
 工事中
 -(*)生物多様性「3つの危機、4つの理念、7つの取り組み」とは?~ 
 【3つの危機】−1)開発・破壊、2) 里地里山の保全、3) 移入種の問題。【4つの理念】−1)絶滅のおそれがある野生生物の種類、2)生物種の現状、3)浅海域の生態系の現状、4)生物多様性の保全をどう考えるか。【7つの取り組み】−1)絶滅防止と生態系の保全、2) 里地里山の保全、3) 自然の再生、4) 移入種対策、5)モニタリングサイト1000構築、6)市民参加・環境教育、7)国際協力(東アジア各地の動植物数)を言う。

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森林生理生態 のバックアップ差分(No.14)