* 森林生理生態学的アプローチ [#da079b12]
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*** −森林生理生態学の理念− [#z37f0dc9]
 各種環境と樹木とその集団の成長との関係を解明し、森林育成と森林生態系修復の基礎学となる体系を森林生理生態学と呼ぶ。増え続ける人口を扶養するために、森林域を改変して耕地面積を拡大してきたが、耕地面積の増加分と森林面積の減少分は、残念ながら一致しない。耕地にできず荒廃地となった土地が多く存在する。森林生理生態学の使命の一つには、この荒廃地の再生を目標として生態系修復を成功する体系の構築がある。~
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増加し続ける世界人口と減少し続ける森林面積。そして僅かながら増加した農耕地。赤丸部分は荒廃地になる。この部分をどの様に修復するか?(内嶋善兵衛 1992)~

 動物学を基礎に発展してきた体系では、体内の応答を重視した環境生理学(植物では生態生理学)という概念があり、固着性を特徴とする植物では、より環境を重視して生理生態学の体系が進展してきた。
 私たちの森林生理生態学へのアプローチは、樹木の光合成活動を縦軸に、森林動態解析を横軸として樹木の成長から森林の発達へ迫るように心がけている。それは光合成産物がどのように分配されるか、という見方と考え方である。

*** 変動環境と森林の保全生態管理にむけて [#z37f0dc9]
 人類は利便性を追及し、地球の資源を大量に消費して産業活動を行ってきました。しかしその結果、酸性雨、大気中CO2濃度の上昇、窒素沈着、オゾンホールの形成など、本来の自然環境からは大きく逸脱した環境条件が形成されつつあり、しかも、その進行速度は急加速しています。このような変動環境に対し、森林植物がどのように応答するのかを明らかにすることは、自然環境を保全する上でも、人類の生活環境を健全に保つためにも必要不可欠です。~
 私たちは、野外実験と制御環境を利用して、大気CO2濃度の上昇や窒素沈着、特殊土壌に対する森林植物の応答を、[[北大北方生物圏フィールド科学センター>http://forest.fsc.hokudai.ac.jp/~exfor/fr/]]や[[森林総合研究所>http://ss.ffpri.affrc.go.jp/index-j.html]]などとも協力しながら研究しています。また、近年では世界レベルで問題となっている山火事跡地の再生メカニズムの生理生態学や侵入種の制御に関する研究をニセアカシアをモデルとして生態学生理的手法を用いて研究を始めています。

** 大気中の高CO2と窒素沈着に対する植物の応答 [#fa8b7009]
工事中
** 山火事跡地の再生メカニズムに関する研究 [#kc6bf5ab]
 Under Constructing by Makoto Kobayashi (see here [[小林真]])

***なぜ、今山火事を研究するのか -北方林における山火事発生様式の変化− [#z37f0dc9]
 山火事は元来、北海道を含む北方林において、主要な撹乱要因として森林の更新・維持に重要な役割を果たしてきました。しかし近年、ロシアなどではタバコや焚き火の不始末が原因となって山火事が頻発する一方、スウェーデンやアメリカのイエローストーン国立公園などでは森林火災の管理体制強化から減少するなど、人為的な要因により、北方林における山火事の発生状況は変わってきています。
***山火事が少なくなる? いいことじゃないか? [#x4efed24]
 一見、山火事が少ないことは森林の破壊をともなわないため“よいこと”のように思われます。しかし、極端な管理によって長期にわたって森林に火が入らない場合、有機物の分解速度の遅い北方林では土壌表層に落葉・落枝が過剰に堆積します。すると、一度何かの拍子で火災が発生しますと、堆積した有機物が大量の燃料となり非常に強度の火災へ至ります(小林 2005a,b)。~
 強度の山火事の後には、大面積にわたって母樹ものこらず、また埋土種子の多くも死滅してしまう裸地が発生し、軽度の山火事に比べて植生の回復が遅れます。裸地では降雨の際に表層土の侵食および土砂の流出が起こりやすく、長期にわたって裸地のままとなってしまうことも少なくありません。このような裸地の発生は、裸地となってしまった生態系の植生回復はもとより、流域の水土保全的観点から見ても、大きな問題であります。~
 また逆に、ロシアにおいて山火事が頻発することによって、各火災が弱度になることが植生へ与えるメカニズムについてもMakoto et al. (2007)のなかで考察しました。  

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調査地の様子。軽度の地表火後のシラカンバ林(左)と、強度の樹冠火後の林分の様子(右)。
極東ロシア・アムール州にて


***今後、我々が行うべきこと。 山火事に伴う生態系レジームシフトを探る[#l2a1ff3c]

これらの山火事の発生様式(山火事レジーム)の変化は、木本植生のみならず、森林生態系内の様々な要素(土壌、水質、共生微生物、動物)へ影響を与えることが予測されます。山火事を巧みにコントロールし、持続的かつその土地にあった森林管理を行っていくためにも、我々は、強度の異なる火災が、森林生態系へ与える影響のメカニズムについて見解を深めていく必要があります。これまで、火災強度が変わることで、火災後の林床における種子の発芽率が変化することが示唆されました(小林ら 2007)。

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火災後に生成する炭、灰などの炭化物。これらによって土壌や更新してくる稚樹は様々な影響を受ける。


今後は土壌特性、および樹木と共生する菌根菌などの共生微生物に注目し研究を進めて行こうと考えています。その基礎として北方生物圏フィールド科学センター・天塩研究林にて山火事のモデル試験を実施しました!

***火入れ試験(天塩研究林)へ [#p3671721]

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火入れ前の試験地の様子。ここは1920年代、1960年代に火災を経験した後に成立したシラカンバ林。
燃えやすいシラカンバの樹皮をつたった樹冠火発生を予防するため、立木にはトタンを捲いた。

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多数の消防ポンプを駆使した万全の防火体制

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いよいよ火入れ開始。緊張がはしる。延焼防止が最大の鍵。慎重に慎重に。

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火入れ

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火入れ跡地の地表面の炭化物。土壌特性、植生回復への影響は?

*** スタート! 天塩研究林・山火事試験地 [#g47a247c]
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協力くださった、天塩研究林のテクニカル・スタッフ、研究室の後輩たち
その他にも沢山の方々に、お世話になり、無事に「火入れ」を終えることができました!!

なお、このサイトでは温室効果ガスフラックス(CO2, CH4, N2O)については森林総合研究所、北大農学院・環境資源学専攻・土壌学分野との共同で、土壌微生物の動態については北大北方生物圏フィールド科学センター研究員の里村氏との共同により調査開始しております。

***参考文献 [#x1fc5115]
-Abaimov, A. P., Zyryanova, O. A, Prokushkin, S. G, Matsuura, Y. and Koike, T. (2000) Forest ecosystems of the cryolithic zone of Siberia; regional features, mechanisms of stability and pyrogenic changes. Eurasian Journal of Forest Research 1: 1-10.
-Makoto, K., Nemilostiv, Y.P., Zyryanova, O.A., Kajimoto, T., Matsuura, Y., Yoshida, T., Satoh, F., Sasa, K., Koike T.(2007) Regeneration after forest fires in mixed conifer broad-leaved forests of the Amur region of Far Eastern Russia: the relationship between species specific traits against fire and recent fire regimes. Eurasian Journal of Forest Research 10: 51-58.
-小林真・Bruanin S. V.・ Naumenko, A. Y.,・Nemilostiv, Y. P.・吉田俊哉・佐藤冬樹・笹賀一郎・小池孝良 (2007)  山火事後に形成される様々な林床環境がグイマツ・ヨーロッパアカマツ・エゾマツ種子の発芽に与える影響. −極東ロシア・アムール州の事例−. 日本森林学会北海道支部論文集 55: 23-25.
-小林真 (2005a) 韓国で発生した風害、山火事による大規模撹乱跡地の植生回復と更新の視察. 北方林業 57:265-268.
-小林真 (2005b) ロシア極東南部の針広混交林における山火事後の森林再生に関する研究のはじまり. 北方林業 58:80-83.
-Zyryanova, O.A., Yabarov, V.T., Tchikhacheva, T.L., Koike, T., Makoto, K., Matsuura, Y., Satoh, F., and Zyryanova, V. I. (2007) The structure and biodiversity after fire disturbance in '''Larix gmelinii''' (Rupr.) Rupr. forests, northeastern Asia. Eurasian Journal of Forest Research 10: 19-29.
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研究紹介/植物生理生態学 のバックアップソース(No.20)