研究室紹介
◆◇◆ 流域砂防学研究室のポリシー ◆◇◆
◆◇◆ 研究の概要 ◆◇◆
【高校生・大学新入生向け】
【農学部移行生・一般人向け】
◆◇◆ 研究テーマ・フィールド ◆◇◆
【土砂流出・流域地形に関わる課題】
【台風と関わる課題】
【飛砂現象と関わる課題】
【生態系と関わる課題】
【災害軽減に関わる課題】
◆◇◆ 流域砂防学研究室のポリシー ◆◇◆
当研究室では次のようなポリシーで運営しています。
○教員のポリシー
近年の大学では、教員や大学院生にも「客観的」評価が下され、その「客観性」とは業績の質と数です。レベルの高い学術誌にたくさんの論文を書くほど評価が高い。確かに、業績というのは、大學で研究・教育と研究を行う上で、どれくらいバックグランドがあるのか、最新の研究成果に基づいた教育ができるのかを判断する有力な材料です。しかし、「業績がすべて」という価値判断になりつつあることは問題です。一定の業績は必要ですが、それは教員としてのひとつのハードルにすぎません。教員個人の質は結局大学の質に関わるが、その教員の質の評価尺度が業績だけになるのは極めて危険です。さらに大きな問題は、教員自身の評価ではなく、実は教員による「学生のそだて方」にあります。業績は、教員「個人」の研鑽であり、教員としてのすべての評価ではありません。大学教員の真価は、自分のやった研究をいかに面白くかつ正しく学生に伝えられるかにあるのです。いくら業績があっても、それをうまく学生に伝えられなければ意味がありません。講義が理解できない学生がいるということは、講義が難解でレベルが高いのではなく、自らの教授能力の問題だと考えています。したがって、学生諸君は、教員の話がわからないときは遠慮なく「わからない」と言ってください。
○教育のポリシー
今日の大学では、研究業績をどんどん出せるような優秀な院生や、論文用のデータをたくさん取ってくれる働き者の学生を育てるために大半の力を注いでいます。優秀な学生は、どんな大学でも、よく「一握り」と言われます。すなわち、一握りのエリートを育てることが、大学院大学の責務だと言われています。しかし、一握りのエリートのみ養成していては、「一握り以外」の学生はどうなるのでしょうか。競争社会なので、一握りに入るようにみな努力せよ、一握りにはいれない学生は競争に負けたのであきらめろ、というのが今の大学、というよりも日本の社会です。これは、明治維新のころのように、国家黎明のときにはエリート養成の一方法だったかもしれません。しかし、研究はスポーツではありません。もはやこんな考え方は通用しません。当研究室ではこのような考え方で教育はしません。
表現の問題でもありますが、一握りの学生はむしろ育ててはいけないと考えています。一握りのエリートが、もしいたとしても、彼らは育てるべきではなく、自ら育つべきものです。つまり、エリートであるからこそ教育してはいけないと考えています。放っておいても育ってくる、どんな不遇にあっても這い上がってくる、そんな学生こそが結果的にエリートになると確信しています。大事に育てた学生は、むしろ将来研究の世界で挫折することが多いのです。大学が本当に育てなければならないのは、一握り以外の学生です。彼らこそが、まだ見えない可能性を秘めているのです。その可能性は、なにも研究だけではない、いつどこでどんな分野で花が咲くか計り知れません。そんな学生に、研究の世界に一歩踏み込んだ奥にある何者かを語る、大学教育とはそのほんの糸口にすぎないのではないかと考えています。
一方、大学院生は学生とは違い、論文を書くことを通じて、社会人としての素養を培うことを目標にしています。ただし、論文を書くということそれ自体が目的ではないので、インパクトファクターの高い論文を書くことだけに専念する必要はありません。対象とする現象の動きが、10年も20年もかかってようやく観察できるような研究では、そんな簡単に成果は出ません。しかし、100年後、200年後にその成果がどんな大きな影響を及ぼすかはわかりません。近視眼的な競争原理で、研究をするこする必要はありません。
ただし、研究のやり方として、絶対に守ってほしいことが2つあります。1つ目は、研究の基本は、自分の目で見て、自分の手でデータをとること。野外科学では、自然を相手にして、そこから自分の感性と力で物事をつかみ取ってくることが鍵です。たとえ、全体のうちの少しでもいいから、自分の力でデータを取ること、これが大切です。2つ目は、論文を書く際にはほとんどが共著となりますが、論文の構想からずっと関わり、現地調査や解析など、すべての内容に共著者として等しく責任のとれるようにしてください。これが大学院生へのお願いです。
◆◇◆ 研究の概要 ◆◇◆
○流域砂防学とは何か?
最初に例え話をします。あなたが今、絶海の孤島に1ヘクタールの土地を持っているとします。そこで生きていくためには、食糧をつくり、水を貯え、衣食住に必要なすべての生活物資を、この土地で作りださねばなりません。木を切って田畑をつくったり、牛や鶏を飼ったり、水を引いてきたり、再び木を植えて、その木で家を建てたりと、様々な方法でこの1ヘクタールの土地を利用しなければなりません。幸いなことに、これらがうまく運んで何不自由なく暮らせるようになったとします。そして、その生活が永久に続くと思われたある年のことです。作物の収穫が落ち、田畑や森のできた土地が雨で掘れはじめ、雨が止んだら水が枯れ始め、みるみる生活基盤が崩れていきました。その原因は、あなたに与えられたわずか1ヘクタールの自然な土地を、どのように利用し、それぞれの利用方法がお互いにどんな影響を及ぼし合い、どこまで土地を使いまわすと限界が来るか考えずに、ひたすら土地を開拓し、生物生産に励んだからにほかなりません。
この話における「絶海の孤島」とは閉鎖系としての地球のことであり、「1ヘクタールの土地」とはあなたの国や地域のことです。農林畜産業というのは「土地」を利用して、人間の生存に必要な生物資源を生産する行為です。そして、その方法を研究し、生産技術を開発・改良するのが農学分野の最大の目標です。いわば、狩猟採集という自然の生り物で生きていくことから、定着農耕という生産物で生きていくことにした人類のもっとも重要な生存手段が農林畜産業なのです。
一方で、先にお話ししたように、限りある土地で生物資源を生産するということは、地表面の栄養分や水を消費し、太陽エネルギーを使ってこれらを生物資源へと変換する行為にほかなりません。しかし、消費する一方だと、これらの生物資源の「元」はどうなるのでしょうか。消費された分は、一体誰がどうやって補充するのでしょうか。このまま放っておくと、最も悲惨な結果に至ります。それが、災害であり、水の枯渇であり、やがて土地が沙漠化し、自然に元に戻ることは困難となります。土地がこのような状態に陥らないように、土地利用の影響と限界を予測し、その結果として起こるであろう災害を予測・軽減し、さらに災害によって荒廃し砂漠化した土地を一刻も早く修復するのが「砂防」です。農学という資源生産の研究分野の中で、保全という立場から人類の在り方や生存技術を問うのが砂防の使命です。いわば、地球表面を怪我や病気から守り、一刻も早く回復を図り、より安定した生存基盤へと誘導する「地球表面の医学」のような立場にあります。
さて、地球表面の病気や怪我にあたる最も悲惨な状態が災害(自然災害)です。この自然災害、特に水・土砂災害に対して、私たちは何ができるのでしょうか?まず、災害が発生する前の「予測」が挙げられます。次に、もし災害が発生した場合には、その「軽減」や「避難」を行うことができます。最後に、災害が発生した後には「修復」に取り組むことができます。このような予測、軽減、避難のためには、災害の発生する仕組みとその対策とを明らかにすることが必要です。災害の研究は、医学と同様、新しい便利なものを発明するのが使命ではなく、人間に降りかかる災いを予測し防ぐことを使命としているわけです。そして、人類がこの地球上に生きていくためには、病気や災害との闘いが最後まで終わることのないのと同様に、災害のひとつである水・土砂災害との戦いも続き、その研究分野も人類が生存する限り大きな使命を担っていることになります。
○流域砂防学研究室ではどんな研究をしているのか。
北海道大学の流域砂防学研究室では、人類を取り囲む、水圏(hydrosphere)、地圏(geo-sphere)、生物圏(biosphere)の相互作用に基づいて災害環境を理解し、地球環境における人類の生存戦略を解明するための研究と教育を行っています。研究対象は、土砂、水(量と質)、地形、生態系(森林構造)、人間社会です。研究エリアは、流域(山から海まで)、河川、都市、火山、沙漠です。また、研究手段としては、野外では地形調査、水の観測、地質調査、植生調査などを、室内では画像解析(GIS、航空・衛星写真)、土粒子のふるい分け試験、水路実験などを行っています。
ここで、「流域」という言葉は、砂防を考える上で非常に重要です。自然現象の変動は、例えば地震や台風がある土地にもたらした一時の破壊現象だけをみても分かりません。これらの現象が、時間経過とともにどのように広がっていくのか、空間的に周囲とどのように関連していくのかをみていくことが必要です。このとき、水、土砂、生物の流れや影響伝搬を強くコントロールする空間として、物質を集める集水域または流域があります。流域というのは人間の身体のようなものです。身体のどこかに生じた変化が、時間を隔てて必ず別の部位に違った形で現れるように、農林畜産業といった流域における土地利用は、必ず他の場所に違った形で伝搬します。これは、水や土砂のような物質が、「崩れる」、「流れる」という性質をもつため、そして、流域におけるすべての流れが最終的に流域の1点に集まるからです。このような意味で、農学分野で扱う自然災害の研究は、流域を対象としてみていかなければよく分からないのです。
流域砂防学とは、一言でいえば地表の変動を解明し、その修復方法を流域スケールで探究するものです。砂防といえば砂防ダムをイメージされる方もいるかもしれませんが、決して砂防ダムを研究しているわけではありません。最も重要な課題は、土砂や水の流出です。また、地表面の植生(森林)も地表変動に関係します。これらの関係が破たんすると、しばしば人命や財産・インフラを破壊する自然災害が発生するため、このような自然災害にいたる土地利用や人間社会の在り方にも目を向けます。このような理由から、研究室の英語名は“Earth Surface Processes and Land Management”(地表面の変動と国土の管理)と名付けています。地すべり、斜面崩壊、土石流、洪水、火山噴火といった災害個々のメカニズムは、理学部や工学部でも取り扱っています。しかし、当研究室ではこれらの現象を単独で取り扱うだけでなく、水文現象や地表面の植物も加え、流域という空間の中でどのように絡み合って自然界を形成しているのかに研究の軸足を置いています。単純な物理や生物学ではなく、相互作用、相乗効果などとして現れる、複雑系やカオテイックな自然のふるまいを取扱っているのです。したがって、当研究室では、自然を注意深く観察し、深く洞察する「眼」と「頭」が求められます。
なお、参考文献としては次のようなものがあります。
地表変動論、東 三郎編、北海道大学図書刊行会、1979
流域学事典、新谷 融・黒木幹男編、北海道大学出版会、第二版、2008
Light and dark of Sabo-dammed streams in steep land settings in Japan、Marutani T., Kikuchi S., Yanai S. and Kochi K.、River Futures edited by Brierley G. and Fryirs K.、220-236、Island Press、2008
Changes in Basin-scale Sediment Supply and Transfer in a
Rapidly Transformed New Zealand Landscape、Page M.、Marden M.、Kasai M.、Gomez
B.、Peacock D.、Betts H.、Parkner T.、Marutani T. and Trustrim N.、Gravel-Bed Rivers edited by Habersack H.、Piegay
H. and Rinaldi M.、337-358、Elsevier、2008
◆◇◆ 研究テーマ・フィールド ◆◇◆
山から海まで、土砂はいかに流出するのか(セディメントウェーブ)
・山地河川地形、流域の地形地質、河川構造物と土砂流出
山から海まで、土砂はいかに流出するのか
台風が引き起こす撹乱は、その後山地にどんな影響を及ぼすのか
・気候変動、大規模台風の襲来が地表環境に与えるダメージ
・生態系の構造、水環境、土壌環境、災害環境
台風が引き起こす撹乱は、その後山地にどんな影響を及ぼすのか
海岸林は飛砂をどのように捉えるのか
・海岸砂丘における海岸林が飛砂の捕捉に及ぼす影響
水辺の生態系と河川の動態はどう関わっているのか
・河畔植生や流木が、洪水や土砂流出に及ぼす影響
・階段状河床地形(ステッププール)
水中・水辺の動植物と河川の動態はどうかかわっているのか
火山地域における水土砂災害(泥流、火砕流)と災害予知軽減
災害軽減のための革新的技術開発(イノベーション)
・ダムに頼らない土砂災害防止、摩擦型ダム、スリット、洪水制御
・新しい災害観予知測システムの構築
火山地域における水土砂災害ー泥流・火砕流ーと災害予知軽減
災害軽減のための革新的技術開発(イノベーション)