昆 虫 病 理 用 語 集

                (2009)



















     昆虫病理研究会




























〔A〕
acaricide 殺ダニ剤: 作物および人畜を加害するダニ類を駆除する殺虫剤の一つで,これを特に殺ダニ剤また単にダニ剤という。現在使われているものは,主にジニトロフェノール類および有機りん,有機塩素,有機硫黄などの化合物である。(YI)
acarine disease of silkworm カイコ・シラミダニ病: 主にシラミダニ'(Pyemotes ventricosus Newport) の雌虫が蚕の幼虫, 蛹に外寄生し,口吻を体腔内に刺して栄養を奪取する時に毒素を注入するために宿主が中毒を起こす病気。遅い春蚕,夏秋蚕に被害が大きい。中毒蚕は食桑を停止し,排糞不能となり, 胸部を激しくけいれんさせて苦悶し,吐液する。眠期に発病多く,発症は急性である。(YI)
acute 急性: 発病あるいは障害の現われ方が極めて急激な状態をいう。慢性(chronic)の対語。(HW)
acute paralysis  急性麻痺病: ミツバチ成虫やマルハナバチ類のウイルス病で自然界では不顕性感染として分布している。病原(Acute bee paralysis virus)はエンベロープを持たない一本鎖RNAウイルスで粒子の直径は28nm程度。ジシストロウイルス科の未帰属のウイルスで,2009年に本ウイルスを含む属の名称としてAparavirusが提唱された。感染した成虫は摂食や飛翔ができなくなり脚や翅を震わせて歩き回り,30℃条件では病徴発現から1,2日で死亡する。(CG)
acute toxicity 急性毒性: 薬物の1回の投与,摂取または接触によって,直ちに生体の機能または組織に障害を現わす毒性。(YI)
adhesion 付着: 昆虫の菌類病感染の最初の過程。昆虫病原菌類はふつう経皮的に感染し,最初に病原菌の胞子が昆虫のクチクラに付着する。付着は水生菌を除いて受動的なので,付着に有利になるよう胞子には粘液や特殊な表面構造を持つものが多い。(MS)
aflatoxin アフラトキシン: マイコトキシン(カビ毒)の一種で,Aspergillus flavus,A. parasiticusなどが産生する毒素。ほ乳類・鳥類に急性毒性と強い発ガン性があるが,昆虫にも注射と経口で毒性がある。8種類の類似体がある。(MS)
air pollution大気汚染: じんあい,一酸化炭素,亜硫酸ガス,ふっ素化合物,オゾン,エチレン類,窒素化合物など各種廃ガスの含有物によって大気がよごれること。(YI)
amastigote アマスティゴート: トリパノゾーマ科鞭毛虫類の生活環中に見られる1ステージで,鞭毛(flagella)が消失した球形または卵形の原虫細胞。(CY)
ambrosia fungi アンブロシア菌類: アンブロシアキクイムシと呼ばれるキクイムシ類の一群が餌として栽培する菌類の総称。アンブロシアキクイムシ類は成虫の体のマイカンギア(菌嚢)と呼ばれる部分にAmbrosiella属などの菌を貯蔵して,新しい木の坑道に持ち込んで生やし,幼虫はその菌を食べて育つ。(MS)
ambusher 待伏せ型: 昆虫病原性線虫の感染態幼虫の宿主探索行動の一つ。土壌中で動かず宿主昆虫を待伏せするタイプの線虫。(TY)
amebiasis (-osis) アメーバ症: アメーバ類の感染の結果生じる宿主の病気。(CY)
amensalism 片害作用(偏害作用)一: 個体群においてみられる生物間の相互作用の1種で,その結果一方が不利益をこうむるが,他方は有利不利の影響を受けない場合をいう。(HW)
american foulbroodアメリカ腐蛆病: Bacillus larvaeによってひき起こされるミツバチの細菌病である。ミツバチの若令幼虫がBacillus larvaeの胞子を食下すると,消化管内で胞子は発芽し,栄養型細胞となり,これが血体腔内に侵入,感染幼虫は敗血症でへい死する。(HI)
anadhesive spore 付着胞子:  昆虫疫病菌類のNeozygites属,一部のZoophthora属などの菌が形成する付着に特殊化した2次胞子の一種。これらの菌では1次胞子ではなく付着胞子が感染の単位となっている。一般の2次胞子は1次胞子から生じた太い分生子柄から射出され,1次胞子と似た形をしているのに対し,付着胞子は1次胞子から伸長した毛細管上の胞子柄に形成され,射出されない。形態は一般的に1次胞子と異なりアーモンド型で先端に粘液の付いた付着器を持つ。(MS)
anamorph アナモルフ,無性時代:  菌類の生活環で,無性胞子を生じる時期,すなわち不完全世代の形態のこと。反: teleomorph(有性時代)。(MS)
anamorphic fungi 不完全菌類:  有性生殖の胞子あるいは胞子を作る構造を欠く,あるいは未発見のため,本来の分類ができない菌をまとめ,無性世代の形態によって分類した菌群。有性世代が発見されればその多くは子のう菌類,一部は担子菌類となる。また,系統分類でも単系統ではなく,大部分は子のう菌類の様々な綱に対応する位置づけに別れる。かつてはImperfect fungiあるいはDeuteromycotinaと呼ばれて,他の菌群と並ぶ分類上の取り扱いを受けていたが,最近ではこの名称は使われなくなった。しかし有性世代をもたないものは形態的には分類のよりどころがなく,また有性世代があっても,めったに形成しないものは,やはり不完全菌類としての分類体系が必要である。昆虫病原菌では例えば,BeauveriaやIsariaなどの硬化病菌類がこれに含まれるが,そのうちの有性世代を持つものは子のう菌類のCordyceps属になることが知られている。(MS)
anchoring disk 固定板: 微胞子虫胞子の前端にある複数の膜構造。胞子垂直断面の電顕観察で雨傘形の円板として認められ,極糸の基部に存在する。胞子の発芽時に,スポロプラズム(芽体)が放出される時,極糸を胞子に固定するための構造と推察される。(CY)
anterior end 前極: 微胞子虫胞子で極糸が突出する方の極。(→後極)(CY)
anterior vacuole前極胞: 微胞子虫胞子を光顕で観察する場合に見られる,胞子前極部の明域。電顕の極膜層部に相当する。(→polaroplast)(CY)
antibody 抗体: 免疫反応において,抗原の刺激により生体内に作られ抗原と特異的に結合する蛋白質の総称。その化学的実体は免疫グロブリンである。抗体は血清中にもっとも多く含まれ,ある特定の抗体を含む血清を抗血清あるいは免疫血清と呼ぶ。(HW)
antigen 抗原: 抗原抗体反応・免疫応答を誘起しうる物質の総称。自然界では分子量が約1,000以上の蛋白質,多糖,それらの複合体,脂質との複合体などである。(HW)
antigen-antibody reaction 抗膜抗体反応: 抗原と抗体の特異的結合によって起こる現象の総称。実際の結合は,抗原の抗原決定基と抗体の抗原結合部位との問の非共有結合による。生体内で起こる抗原抗体反応の多くは試験管内でも再現され,これを利用して抗原あるいは抗体の定性と定量のテスト法が開発されてきた。(HW)
antiserum 抗血清(免疫血清): 抗体を含む血清をいう。多くは抗原をウサギやウシなどの動物に注射して十分抗体を作らせた後に採血し,血球・フィブリンを除き,適当な処置を加えたもの。血清学的実験や血清療法に使用する。(HW)
apicomplexa アピコンプレックス門: 原生動物(原虫:Protozoa)の1門で,生活環の一時期に認められるアピカルコンプレックス(先端複合体apical complex)と呼ばれる典型的な微細構造をもつことで特徴づけられる。球虫類および簇虫(種虫)類を含む。(CY)
apoptosis アポトーシス: 胚発生や成虫組織の維持に必要とされる生理的に正常な細胞死(計画細胞死とも言われる)。ウイルス感染においては,感染細胞が死ぬことによって宿主体内でのウイルス拡散を抑えられるためアポトーシスは防御反応としての役割を持つと考えられている。(CG)
aposymbiotic アポシンビオティック: 薬剤あるいはその他の処理によって生体から共生微生物を除去した状態をいう。(HW)
appressorium〔pl. -ria〕 付着器:  菌類が寄主体表から貫入する前に表面に形成する吸盤状の器官のこと。付着した胞子から伸長した発芽管の先端が大きくふくれて,寄主体表に密着する。貫入に際しては必ずしも付着器を形成するわけではない。また,寄主体表以外のスライドグラス上などで形成する場合もある。(MS)
aschersoni aleyrodis 黄いぼ虫生菌: 〔病原菌学名 Aschersonia aleyrodis Webber〕コナジラミやカイガラムシに寄生する不完全菌類の一種,分生子は分生子果の中に作られる特徴がある。防除に利用する研究もなされている重要な菌である。黄いぼ虫生菌という和名はほとんど使われることはなく,事実上は死語。(MS)
ascomycota 子のう菌門:  有性生殖で子のう中に子のう胞子を生じる菌類。昆虫寄生性のものでは,冬虫夏草類(Cordyceps属),Torrubiella属,ラブルベニア類(Laboulbeniales)等が主要。(MS)
ascospore 子のう胞子: 子のう菌類の有性生殖の結果,減数分裂に引き続いて子のう(ascus)内部に形成される胞子。子のう胞子を形成する昆虫寄生菌としては冬虫夏草菌や外部寄生性のラブルベニア菌類が代表的である。(JA)
ascus (pl. asci) 子のう:  子のう菌類が有性生殖で作る嚢状の器官,内部に通常8個の子のう胞子が形成される。(MS)
aseptic rearing無菌飼育: 動物を無菌条件下で飼育する方法。動物の病理学および免疫学的研究のために極めて有効な方法。(HW)
aspergillus disease こうじかび病: 不完全菌類のAspergillus属によって起こる病気の総称。感染虫は,他の不完全菌による病気のように硬化しない。野外で流行病を起こすことはほとんどないが,人工飼料で不潔にして育てるとしばしば発生する。カイコでは稚蚕の被害が多い。(MS)
aspergilosis→aspergillus disease
atrophy萎縮: 栄養不良あるいは生理機能低下による組織あるいは器官の容積減少。(HW)
attenuated infection不顕性感染: 何ら病徴が現われず,明瞭な発病を伴わない感染現象をいう。(HW)
attenuation弱毒化: 病原微生物を本来の宿主と異なる種類の生物体(個体あるいは細胞)で継代するか,または種々の条件下で培養すると,本来の宿主に対する病原性が減弱または消失する現象。(HW)
augumentation 放飼増強法: 天敵を増殖してそれを散布(放飼)する方法。散布(放飼)した当世代の害虫への効果を狙う大量放飼Inundative releaseと少量の天敵微生物を散布(放飼)して増殖させ,次世代の防除効果を狙う接種的放飼Inoculative releaseとに大別される。(MN)
autogamy オートガミー: 2個の娘細胞が融合し,合核(synkaryon)を形成する現象。(CY)
autoinfective spore 自己感染型胞子: 機能面で定義される胞子の種類。自発的に発芽し,宿主個体内で細胞から細胞への感染伝播に寄与する。微胞子虫Nosema bombycisの生活環中で早期に形成される胞子(早生型胞子primary spore,短極糸型胞子short-coiled spore)。(CY)
auxotrophy 栄養要求性: 微生物の遺伝形質として重要である。アミノ酸,ビタミン類,核酸加水分解物などの合成能を失った突然変異体の示す形質。これらの系統は合成できない栄養素を培地に加えてやらねば完全に生育できない。(HI)
avitaminosis ビタミン欠乏症: 不適当な食物摂取のため,1つあるいは複数のビタミン類が不足して起こる症状。(HW)
axenicculture 純粋培養: .ただ1種類だけしか存在しない状態で生物を培養すること。微生物・植物・動物のいずれについても行われ,高等植物や動物の無菌培養(無菌飼育)もその一種と考えてよい。(HW)
azygospore 単為接合胞子(亜接合胞子): 接合菌類の休眠胞子の一。厚膜をもち,配偶子の接合なしに形成される。亜接合胞子は普通無性が起源と考えられているが,この術語は発芽前に核の合一と有糸分裂が起こるか起こらないかという形成過程だけを参照している。Zygosporeも参照。(MS)



〔B〕
bacterial-feeding nematode (Bacteriophagous nematode) 細菌食性(食細菌性)線虫: 細菌を食物として摂取する線虫類。通常筒状の口腔を持ち,細菌を吸い込む。昆虫病原性線虫はその共生細菌と体内容物の細菌による分解物を主な食物とするため,細菌食性線虫に含められる。(MY)
baculovirus バキュロウイルス: バキュロウイルス科に属する棒状の粒子を持つ2本鎖DNA環状ウイルスでチョウ目昆虫に感染するものが多い。ウイルスのヌクレオカプシドは 30-100×200-450nmで,1本ずつあるいは数本の束になってエンベロープに包まれている。包埋体の形態によって核多角体病ウイルス(Nucleopolyhedrovirus (NPV):包埋体中に多数のウイルス粒子が存在)と顆粒病ウイルス(Granulovirus (GV):包埋体中に通常1個のウイルス粒子が存在)に分けられる。NPVの包埋体(多角体)は0.5-15μm,GVの包埋体(顆粒体)は300-500nm程度の大きさである。2008年にゲノム構造の解析結果に基づく分類の改定が行われ,NPVはアルファバキュロウイルス属 Alpahbaculovirus (チョウ目昆虫に感染),デルタバキュロウイルス属 Deltabaculovirus (ハエ目イエカ属昆虫に感染),ガンマバキュロウイルス属 Gammabaculovirus (ハチ目マツノキハバチ属昆虫に感染)の3属に分割され,GVはベータバキュロウイルス属 Betabaculovirus に改称された。(CG)
baculovirus expression vector バキュロウイルス発現ベクター: バキュロウイルスをもとにして開発された遺伝子発現ベクター。Autographa californica NPVとカイコNPVのそれぞれから開発されたベクターがあり,目的遺伝子を導入したNPVを昆虫培養細胞や幼虫に感染させることによってタンパク質を生産することができる。(CG)
basidiomycetes 担子菌類:  有性生殖で担子器を生じ,その上に担子胞子を外生する菌類。菌類の中では重要な門であるが,昆虫寄生性のものはわずかにカイガラムシに寄生するSeptobasidium属(Septobasidiales:Septobasidiaceae)があるのみ。しかし,これでさえもほとんど致命的ではなく逆に他の個体の保護に役立っているとも考えられており,病原菌としては重要ではない。(MS)
basipetal 求基性,求心性:  この語そのものは,内側に向かってという意味であるが,菌学では菌の胞子が外側から内側に向かう順番で形成される(外側より内側のものが新しい)ときに,求基的(求心的)に形成される,と表現する。(MS)
bassianolide バシアノライド:  Beauveria bassiana, Lecanicillium lecaniiその他の菌が産生するマイコトキシン。(MS)
beauvericin ボーベリシン: Beauveria,Fusarium等が産生するマイコトキシン。(MS)
beauverolide ボーベロライド: Beauveria属の昆虫病原菌が産生するマイコトキシン,寄主の免疫反応を抑制する。(MS)
bioassay生物検定: 生物学的定量ともいう。生物の生存維持,発育などのなんらかの機能にとり不可欠な,あるいは阻害的な物質の量をそれらの生活現象の計測により定めること。ビタミン,ホルモンなど微量で有効な物質につきよく用いられる。(HW)
biological assay→bioassay
biological control生物的防除: 害虫の繁殖を抑制する環境抵抗の一つである生物的因子,すなわち寄生性昆虫,捕食性昆虫,病原微生物,食虫鳥獣類などを利用して害虫を防除すること。(HW)
black larder beetleトビカッオブシムシ: 〔学名Dermestes atler Degeer〕鞘翅目カツオブシムシ科の害虫。1年2世代が普通であるが,発育経過は不斉である。成虫は家屋や倉庫などの暗所で行動し,動物質を食物とする。成虫,幼虫ともに繭や蝿の嗅に集まり,繭に穴をあけたり,乾燥繭を食害する。(YI)
black silkworm tachina flyカイコノクロウジバエ(カイコノヒメウジバエ): 〔学名Pales pavida Meigen〕双翅目ヤドリバエ科に属し,蚕の体内に寄生する。1年に5世代を経て蛹で越冬。翌年5月に羽化し,桑葉裏面に産卵する。蚕の中腸内で艀化し,絹糸腺を経て皮下に移り,気孔を作り尾端を接着し栄養を奪取し,更に諸組織を食餌して遂には蚕は死亡する。うじは繭外に脱出する力が弱く,多くは繭内で蛹化,成虫化する。多くの鱗翅目幼虫に寄生する。(YI)
blastoconidium〔pl. -dia〕→ blastospore
blastospore 出芽型分生子: (1)不完全菌類の分生子形成様式の一つで,出芽により形成されるタイプ。(2)→ハイファルボディ。(MS)
browntailmoth モンシロドクガ(幼虫名キンケムシ): 〔学名 Euproctis similis Fuessly〕鱗翅目ドクガ科,成虫は白色,幼虫は鮮黄色,黒斑があり,いずれも毒毛を有する。年3回の発生,幼虫体越冬。幼虫は春先と夏切後の発芽期に芽や若葉を食害する。毒毛が蚕に刺さると食欲減退,発育不良となる。甚だしい場合は吐液する。皮膚に多数の小黒斑が発現することで診断できる。(YI)
budding 出芽: 菌類における無性生殖の一つである。酵母等では,親細胞の端にできたちいさな膨らみが成長し,独立した細胞として親細胞から離れる。ウイルスにおける出芽は,感染細胞で増殖したウイルス粒子が細胞の外へ飛び出す過程をさす。(CG)
bundle virion (multicapsid virion) 多カプシドウイルス粒子: 核多角体病ウイルスで観察されるビリオンで,複数のヌクレオカプシドが単一のエンベロープに包まれている。(CG)
byssi 側糸,糸状付属肢: シヘンチュウ類では、Mermis属の卵に見られる特異的な構造物を指す。卵の両極に見られるタンパク質膜で,糸状に細かく分岐している。植物の葉などに産卵された卵はByssiにより植物体に付着し,本属線虫類の寄主となるバッタ類に葉と一緒に摂食される。(MY)



〔C〕
cabinet beetleヒメマルカツオブシムシ: [学名Anthrenus verbasci L.〕鞘翅目カツオブシムシ科に属し,幼虫は繭,生糸,毛織物,動物標本などの重要害虫。幼虫で越冬'し,年1回発生。成虫は食植性で,5〜7月頃に野外の菊などに集まるのがみられる。(YI)
capilliconidium 毛細管胞子:  昆虫疫病菌類の2次胞子の一つの型。1次胞子が発芽して毛細管状の胞子柄を作りその先端に形成されるタイプで,通常,形態は分生子(1次胞子)と大きく異なるアーモンド型で,先端が吸盤状で粘着しやすくなっていて,その上を歩く寄主昆虫に付着する役を果たしている。Neozygites,Zoophthoraなどの属が形成する。一般の2次胞子は,1次胞子が寄主に遭遇できなかった場合に形成されて感染の機会を延長するのに対し,毛細管胞子ははじめから生活環における通常の形態であり,感染力がとくに強いので感染単位となっていると考えられている。(MS)
capsid カプシド: ウイルス核酸を被うタンパク質の殻で,ウイルス粒子内部の核酸を分解酵素などから保護する役割を持つ。カプシドは,カプソメア(カプソマー)と呼ばれる小粒子(形態単位)から構成されており,基本形態としては正20面体対称型あるいは螺旋対称型のものがある。ウイルス核酸とカプシドの複合体はヌクレオカプシドと呼ばれる。(CG)
capsomere カプソメア(カプソマー): ウイルスのヌクレオカプシド上に配列する形態的単位で同じ構造を持つ小さなタンパク質から成る。カプシドの項を参照。(CG)
capsule 顆粒体: 顆粒病ウイルスに感染した昆虫細胞の核内あるいは細胞質内に形成される封入体。1個(まれに2個)の桿状ウイルス粒子を含む。大きさは0.15?0.35×0.2?0.5μmで普通は長楕円形をしている。(CG)
carbon deoxide sensitivity 炭酸ガス感受性: ショウジョウバエ成虫のウイルス病で,病原はラブドウイルス科の未帰属ウイルス(シグマウイルス)である。ウイルス感染による病的変化は通常全く認められないが,感染バエ(感受性ハエ)はごく短時間であっても炭酸ガスに曝露されると死亡する。自然条件下では伝染性がなく,垂直伝播により存続している。(CG)
catenulate 連鎖状:  元の意味は鎖のように連なること。菌学では,とくに胞子が同じ箇所から求心的に次々に形成されるか,あるいは,すでに伸長していた胞子形成細胞が分裂してそのまま胞子に転化した結果,胞子が連なっている状態を指す。(MS)
caterpillar fungi 冬虫夏草:  子のう菌類のCordyceps属の総称。冬に虫であったものが夏に植物(キノコ)になることが語源。ほとんどが昆虫病原菌で,わずかにクモや菌,高等植物に寄生するものもある。虫体から珍奇な色と形のキノコを生じ,昆虫病原菌の重要な一群。狭義として,とくに中国ではCordyceps sinensisだけを指す。俗称として昆虫からキノコ様の菌糸の束を生ずる菌類すべてを指す場合もあるが,この意味での使用は混乱を招くので不適当。(MS)
cell culture 細胞培養: 広義の組織培養の一様式。器官・組織片を解離し,これをガラス器内の培養に移すこと。(H.W)
cell line細胞系: ある初代培養から継代培養によって生ずるすべての細胞をいい,初代培養に存在した細胞または細胞群からの一連の系統を意味する。(HW)
cell strain→strain
cfu コロニー形成単位:  colony forming unitsの略。コロニー形成単位と訳すが,通常日本語でもCFUと言って差し支えない。平板培地上に形成された集落の数に基づく菌の密度。糸状菌の密度は個体数という概念が使えないが,形成された集落は元の菌密度を反映していると考え,培地上の集落数に希釈倍率を掛けて元の菌密度を表すのに用いる。(MS)
chalk broodチョークブルード病: 〔病原Ascosphaera apis (Maassen ex Claussen) Olive et Spiltoir〕不整子のう菌類のハチノスカビの経口伝染によるミツバチ幼虫の病気。腸内で分生子が発芽する。罹病虫の死体はミイラ化し,白色の菌糸におおわれ,チョークのように白く固まってしまうのでこの名がある。日が経って体表に分生子が形成されると,死体は暗灰色から黒色となる。わが国では北海道から丸州まで分称している模様。本菌の仲闇は2属8種が幼虫や巣から発見されている(JA)・
chemotherapy化学療法: 化学薬剤による疾病の治療法。(HW)
chlamydospore 厚膜胞子:  厚壁胞子とも呼ばれ,菌類の菌糸の先端または中間の細胞が硬膜化した耐久性の胞子。土壌性の不完全菌類の他,昆虫疫病菌類でも形成されることがある。(MS)
chronic 慢性: 病気の準行,あるいは障害の現われ方が極めて緩やかな状態。急牲acuteの対語。(HW)
chronic paralysis 慢性麻痺病: ミツバチ成虫やマルハナバチ類のウイルス病。罹病したハチは正常に摂食できるが,飛翔不能となり,翅や体を異常に震わす。急性麻痺病とは異なり,罹病個体は病徴発現後数日間生存し続ける。後腸上皮細胞に好塩基性の封入体が観察される。病原は,分節1本鎖RNAウイルス(Chronic Bee Paralysis Virus)で,これをタイプ種とする新たな科の創設が見込まれる。ウイルス粒子は27-45nm程度の卵型。(CG)
chronic stunt メイガ慢性萎縮病: クルミマダラメイガ(Amyelois transitella)のウイルス病。罹病幼虫は発育に遅れを生じ,体色がピンク色を呈する。病原 Amyelois chronic stunt virus は,カリシウイルス科(Caliciviridae)に属するとされているが未帰属である。直径30-38nm程度の正20面体の粒子を持つ1本鎖RNAウイルスで,エンベロープを持たない。(CG)
ciliate繊毛虫類: 繊毛をもつ繊毛虫鋼(Ciliata)に属する原虫。(CY)
cilium [pl. cila] 繊毛,線毛: 細胞表面または上皮全面を覆う微細な毛様構造で,リズミカルに動き,水環境中での移動に用いられる。(CY)
classical biological control: 伝統的生物的防除。導入天敵の永続的利用permanent release of introduced natural enemyとも言われる。侵入害虫に対する天敵を他の地域から導入し永続的な効果を狙う方法。北米のマイマイガの防除に対するEntomophaga maimaigaやヨーロッパハバチに対する核多角体病ウイルスが有名な成功例である。(MN)
clone クローン(栄養系): 単一の細胞または個体から無性的な増殖によって生じた遺伝的に同一な細胞群ないし個体群。ウイルスの場合にも1個の粒子に由来すると考えられる子孫の集団を慣用的にクローンと呼ぶ。(CG)
coelomomycetaceous fungus〔pl. fungi〕ボウフラ菌: ツボカビ門のCoelomomyces属の菌の総称。約40種があり,主としてカの幼虫に寄生するのでボウフラ菌と呼ばれる。中間寄主としてケンミジンコにおける生活環をもつ。(MS)
coenocytic 多核体:  多核細胞と同じで,原形質に2個以上の核をもつもの。菌糸に隔壁をもたない接合菌類などの菌糸では普通の状態。(MS)
coilingコイル化: 線虫が乾燥や高い浸透圧に曝された場合に見られる状態。腹部側を内側にして丸くなる。(TY)
commensalism片利共生: 共生の一形態で,それによって共生者の片方が何らかの生活上の利益を得,他方は利益も不利益も受けていな状態をいう。(HW)
communicable disease伝染病: 病原微生物の感染によって起こる病気,すなわち感染病のうち,比較的伝播力の高い病気の総称。感染病は病理学的用語であるが,伝染病は伝播性に重点をおいた疫学的用語である。(HW)
congenital disease先天性疾患: 動物が生まれつきもっている病気。必ずしも遺伝病であるとは限らない。(HW).
conidiogenous cell 分生子形成細胞:  菌類が分生子を直接産出する細胞。とくに不完全菌類ではこの形と分生子形成様式が分類の重要なポイントとなる。(MS)
conidiophore 分生子柄:  分生子形成細胞を作る菌糸,単一または分岐する。分生子形成細胞そのものを分生子柄と呼ぶ例も古い文献にはあるが,そのような使い方はしないことが望ましい。(MS)
conidium〔pl. conidia〕分生子(分生胞子): 菌類の無性胞子で,胞子のう胞子(遊走子,不動胞子)や厚膜胞子(芽子)以外のものをさす。形成法の型の区別が分類上重視される。繁殖器官として有性胞子を作らず,分生子だけを形成する菌類を不完全菌類と呼ぶ。硬化病菌をはじめ,多くの昆虫寄生菌は不完全菌類に属している。(JA)
contact insecticide接触剤(接触殺虫剤)害虫の体表面に接触することによって,経皮的に中毒死させる機能を有する殺虫剤。除虫菊剤・ニコチン剤・デリス剤・機械油乳剤・多くの有機塩剤・有機燐剤・DN剤・カーバメイト剤などがある。(YI)
contagious disease接触伝染病: 生物個体が直接的あるいは間接的に接触することにより伝播する病気。伝染病(communicable disease)と同意語。(HW)
contamination汚染: 試料に不純物や異なる微生物が混じること。(HW)
cordycepinコルディセピン: 冬虫夏草菌が昆虫に寄生した場合,菌糸が分泌する抗生物質の1種で,病死した寄主体の分解を妨げる。アデノシンのアナログでC10H13N5O3の分子式を持つ。DNAからRNAへの転写に伴う過程の阻害作用があり,細胞の生育やある種のウイルスの増殖を抑制する。現在,哺乳勲物の腫瘍研究に関連して,その作用機構の解析が進められている。(JA)
coremium (pl.: -emia) → synnema (MS)
cruiser探索型: 昆虫病原性線虫の宿主探索行動から分類される行動型の一つ。常に動いて宿主昆虫を探索するタイプの線虫。(TY)
cross infection 交差感染: ある種(species)を本来宿主とする病原が,他種に属する個体にも感染する現象。宿主になり得る種の範囲を宿主域(host range)という。(HW)
cross transmission→cross infecton
crystal toxin結晶性毒素: Bacillus thuringiensisの産出する結晶性物質(parasporal body)の中で昆虫に毒性をしめすものであり,δ-endotoxinといわれることもある。その形態はダイヤモンド型,長方体,立方体,顆粒状型など, B. thuringiensisの変種によって異なることがある。(HI)
cyst嚢子: ある原虫の生活環中に見られる1ステージで,耐久性の膜または壁で覆われた一時的な休止状態にあるもの。(CY)
cystidium〔pl. cystidia〕 シスチジア(剛毛体):  もともと担子菌類が子実体表面に形成する特徴的な不稔性の細胞(のう状体)のこと。しかし,昆虫病理では剛毛体と訳し昆虫疫病菌類が分生子柄形成と同時に生じる不稔の菌糸の突起を指す。これの有無や形態が昆虫疫病菌類の同定の識別点となる。(MS)
cytoplasmic polyhedrosis〔pl. -ses〕 細胞質多角体病(中腸型多角体病): サイポウイルスによってひき起こされる昆虫の病気で,中腸皮膜細胞の細胞質中に多角体が形成されるのがその特徴である。(CG)
cypovirus  サイポウイルス: レオウイルス科のサイポウイルス属に属するウイルスで,分節2本鎖RNAを含む正20面体のウイルス粒子を持ち,主にチョウ目の幼虫に感染する。以前は,分節RNAの電気泳動パターンをもとにCypovirus 1からCypovirus 12 までの12種に分類されていたが,現在は16の種に分類されている。Cytoplasmic polyhedrosis virus。(CG)



〔D〕
dauer juvenile 耐久型幼虫: 生育環境の悪化に伴って出現する線虫の発育ステージで,Rhabditida目線虫では2期幼虫から脱皮して耐久型幼虫になる。耐久型幼虫は口および肛門は閉じ,摂食せずに体内に蓄積した脂質などを利用し,代謝を抑制することで長期間生存が可能である。昆虫病原性線虫では耐久型幼虫が昆虫に感染する際のステージである。dauer larvaと記すこともある。(TY)
deficiency disease 欠損症: ビタミンあるいはミネラル不足などからくる栄養の欠損症。(HW)
densonucleosis 濃核病: デンソウイルスによってひき起こされる昆虫の病気で,感染細胞の核がフォイルゲン反応で濃染するので,この名がつけられた。ハチノスツヅリガ(ハチミツガ)では中腸以外の諸組織が侵されるが,カイコでは中腸皮膜の円筒細胞が特異的に侵される。病原ウイルスは,パルボウイルス科,デンソウイルス亜科に属し,主にチョウ目昆虫から見つかっているが,ハエ目,バッタ目,コウチュウ目等でも知られている。(CG)
densovirus  デンソウイルス: パルボウイルス科デンソウイルス亜科に属する小型の球形ウイルスの総称。デンソウイルス亜科には4つの属がある。ウイルス粒子には直径18-22nmのものと20-26nmのものがある。1本鎖DNAウイルスで,エンベロープは持たない。カプシドは60個のカプソメアから形成され,正20面体構造を持つ。(HB)
denticle 小歯:  一般的には小さな歯のような突起構造のこと。菌学では,分生子形成細胞から分生子が離脱した後に残る小さな鋸歯がならんだような突起を指し,同定の際の特徴に用いる。(MS)
denticulate 小歯状:  小歯を有していること。Beauveria属などの分生子形成細胞に見られる。(MS)
dermal toxicity 経皮毒性: 皮膚に接触した薬物が体内に吸収移行して,生体の機能に障害をきたし,または器官・組織に変化を引き起こす毒性。(YI)
destruxin デストラキシン:  Metarhizium等の菌が産生するマイコトキシン。β一アラニン,N一メチルアラニン,N一メチルバリン,イソロイシンおよびプロリンの5種アミノ酸とdーαハイドロキシ吉草酸誘導体から構成されたシクロデプシペプチドで,現在酸部分の構造の異なる6種が分離されている。デストラキシンに対する反応は昆虫の種類により異なる。鱗翅目幼虫の多くはけいれんやまひを起こし,時には軟化する。直翅目や鞘翅目昆虫は感受性があるものの,けいれんは起こさない。(MS)
detoxication 解毒: 生体内にとり込まれた有毒物質を無毒物質に変化させて,これを排泄物と一緒に体外に排出することをいう。(HW)
deutero parasite→secondary parasite (MS)
deuteromycetes→mitosporic fungi (MS)
diagnosis 診断: 病気の種類を決定すること。病徴,病原,組織病理,病態生理などの諸点から病気の種類を明らかにする。(HW)
diplokaryon [pl. diplokarya〕連核: 電顕観察時,2個の単相核がその核膜のかなりの部分を相互に密接させた形態で存在する状態。(CY)
disinfectant消毒剤: 病原微生物を死滅させ,またはその繁殖を抑制する薬剤の総称。(HW)
disinfection 消毒: 本来は感染を防止するため,目的とする病原微生物を殺滅することをいうが,一般に広く微生物を殺すこと。または殺菌の意にも使う。(HW)
dispersal juvenile 分散型幼虫: 狭義の昆虫嗜好性線虫において虫体に便乗するためのステージを指す。耐久型幼虫(dauer juvenile)とほぼ同義。(NK)
disporous 二胞子形成性: 微胞子虫類の生活環において,1個のsporont(胞子芽母細胞)から2個のspore(胞子)を形成する性質。(CY)
dissemination 伝播: 病原微生物の所在が変ったり,分布が拡がること。風,水,人畜や器物への付着,感染生物の移動などにより伝播が起こる。(HW)
divergent 散開した:  菌学では不完全菌類などの連鎖した分生子鎖の形態の表現に用いる。例えば,IsariaとNomuraeaはいずれも輪生したフィアライドから分生子が連鎖して形成されるが,Isariaは散開しているのに対し,Nomuraeaは散開しない。(MS)
dorsal tooth (Proximal tooth,Dorsal hook,Dorsal protrusion)背方突起: 通常,Heterorhabditis属昆虫病原性線虫の感染態幼虫の頭端部の突起のことを指す。本属線虫のある種で,Dorsal toothを使って節間膜を破る行動が観察されている。このため,本属線虫類の感染方法の一つとして,クチクラ感染が挙げられることがある。このような突起はSteinernema属のbiconutum群にも存在し,Double horn-like structuresと呼ばれている。しかし,クチクラ感染との関連は知られていない。(MY)



〔E〕
eclipse period 暗黒期(エクリプス期): ウイルスが宿主細胞に吸着してから感染粒子がふたたび細胞内に現われるまでの期問。感染後の一連の反応によってウイルスの感染粒子としての機能と形態は失われるが,これにつづく一連の反応によってウイルス粒子の構成成分が合成され,それが組立てられて感染粒子がつくられる。(TH)
ectoparasitism 外部寄生: 寄生者が宿主の体表面に住みついて,宿主から栄養を摂取する寄生様式。蚕の体表に寄生するシラミダニはその一例である。(YI)
eelworm (see Threadworm,Roundworm)線虫類 : 線虫類の俗称,特に,自由生活性および植物寄生性線虫類に対して使われる。(MY)
emergence 遊出: 寄主体内で成長または増殖した線虫が寄主体内から外部へ脱出すること。卵から孵化する時にも使われる。(MY)
endogenous virus 内在性ウイルス: 主に親から子への垂直感染によって伝染するウイルス。内在性ウイルスは, それぞれの宿主の染色体に組み込まれており,その一部として増幅するとされている。内在性ウイルスを持つ個体には常にウイルスの増殖能力が保持されているが,健全個体においては,細胞の制御によってウイルスの増殖は抑制されている。(CH)
endoparasitisn 内部寄生: ある生物が宿主となる他の生物の体内に住みつき,その体液または体組織を栄養源として生活をする寄生現象。(YI)
endospore 胞子殻内層: 微胞子虫類の胞子殻の内層を構成する部分。キチン質を含んでいる。(CY)
δ-endotoxin δ−内毒素: Bacillus thuringiensisが産出する結晶性物質の中に含まれ,結晶性物質が鱗翅目昆虫の消化液で分解されると,毒性を発現するようになる蛋白毒素である。(HI)
endotokia matricida 母体内幼虫発育: 線虫においてみられる幼虫の発育形態の一つ。通常は,母体外に産卵された卵から幼虫は発育するが,環境の悪化などによって生きた母体の卵巣内で幼虫がふ化し,発育すること。Heterorhabiditis属線虫では,産卵されたものより母体内幼虫発育によって発育する幼虫の方が多い。(TY)
ensheathed 被鞘した: 脱皮した表皮が新たな表皮上に残っている状態。耐久態幼虫や感染態幼虫でよく見られる現象で,耐久能力を付与する機能を持っているとされている。しかし,昆虫病原性線虫類では遊出直後の感染態幼虫は被鞘しているが,多くの種でその分散行動中に脱鞘(exsheathed)する。昆虫病原性線虫の感染態幼虫では第二期幼虫の表皮が被鞘(Sheath)となる。昆虫病原性線虫では被鞘と耐久能力は関係がないと考えられている。昆虫病原性線虫の同定では,感染態幼虫の体長などの計測値が重要な形質となるが,Steinernema属では脱鞘した個体,Heterorhabditis属では被鞘した個体の計測値を使うことが多い。(MY)
entomogenous 昆虫寄生性: 昆虫の体表上あるいは体内で生育する性質。(HW)
entomogenous Entomophthorales 疫病菌類(昆虫の): 接合菌類ハエカビ目に属する昆虫やダニの病原菌の総称。長らくまとめてEntomophthoraという1属とされていたが,現在は,Conidiobolus,Entomophaga等の15ほどの属に分けられる。全部で200種近くある。伝染のための分生子と不良環境に耐久性の休眠胞子という2種類の胞子を形成する。分生子は通常寄主の死体から周囲に射出される。昆虫にしばしば激しい流行病を起こす。(MS)
entomogenous fungi 虫生菌:  昆虫寄生菌,共生菌など昆虫となんらかの関わりをもつ菌類の総称。(MS)
entomoparasitic fungi 昆虫寄生菌:  昆虫に寄生する菌類の総称。昆虫病原菌の他に,トリコミケテス菌類やラブルベニア菌類など昆虫に致命的な被害を与えずに寄生する菌類を含む。(MS)
entomopathogenic fungi 昆虫病原菌:  昆虫に病気を起こす菌類の総称。昆虫病原性糸状菌,昆虫病原糸状菌という言葉もほとんど同じ意味。(MS)
entomogenous nematode 昆虫嗜好性線虫: 〔広義〕.生活史において昆虫と何らかのかかわりを持つ線虫の総称。〔狭義〕.昆虫とのかかわりを持つ線虫のうち,昆虫と直接の栄養関係を持たないものの総称。便乗線虫(phoretic nematodes)や片利共生線虫(commensal nematode)とも呼ばれる。(NK)
entomopathogenic nematode 昆虫病原性線虫: 広義には昆虫に感染して病気を引き起こす線虫全般を示すが,通常は,Steinernema属およびHeterorhabditis属の線虫を示す。昆虫寄生性線虫は生きた宿主内で発育するため,感染して宿主昆虫が死亡するまでには比較的長い時間がかかるが,Steinernema属およびHeterorhabiditis属の線虫が感染した場合は,共生関係にある細菌の働きによって感染後2日程度で宿主は死亡し,死体内で増殖する共生細菌や分解された昆虫組織を餌に発育,増殖する。(TY)
entomophagous 食虫性: 昆虫体あるいは昆虫の器官・組織を食害する性質。(HW)
entomophilic 昆虫し(嗜)好性: 他の動物あるいは植物に対するよりも,主に昆虫に対して寄生性あるいは食害性を示す性質。(HW)
entomopoxvirus 昆虫ポックスウイルス: ポックスウイルス科,エントモポックスウイルス亜科に属するAlphaentomopoxvirus,Betaentomopoxvirus,Gammaentomopoxvirusの3つの属の総称。上記3属はそれぞれコウュウ目,チョウ目,ハエ目を宿主とするポックスウイルスで構成される。宿主域は狭く,科を超えた感染は起こらない。2本鎖DNAウイルスで,エンベロープを持つ。ウイルス粒子は短径170-250nm,長径300-400nmの楕円あるいはレンガ形。ウイルス粒子には,出芽により細胞外に放出されて細胞間感染を担うものと,細胞質中で包埋体に封入され個体間の感染を担うもの,の2つのタイプが存在する。(CG)
enzootic 地域流行性(常在性): 一つの地域集団の中で頻度は低いが恒常的に病気が発生している状態。そのような病気をenzootic diseaseという。(HW)
enzootic disease 地域流行病: 発生頻度も低く病勢も弱いが,常時集団内に発生する病気。(HW)
envelope  エンベロープ: 一部の種類のウイルスが持つ,ヌクレオカプシドの外側を被う膜状の構造のこと。エンベロープを持つ種類のウイルスは,感染細胞で増殖後,細胞外に粒子として出芽する際に宿主細胞の脂質二重膜に由来する膜をまとって完成ウイルス粒子となる。(CG)
epimastigote エピマスティゴート: トリパノゾーマ科鞭毛虫類の生活環中に見られる1ステージ。波状膜が短くなり,アクソネマ(axoneme軸糸)およびキネトプラストが核の前方に位置する原虫細胞。(CY)
episome エピソーム: 細菌の細胞質内に存在して染色体とは独立に増殖できるプラスミドのうち,特に細菌の染色体に挿入されて染色体とともに増殖する場合のある因子の総称。大腸菌の性因子・コリシン因子・溶原性ファージなどがその例である。(HW)
epizootic 流行性: 集団内に病気が大発生すること。大発生し易く,しかも病原性の高い病気を流行病(epizootic disease)という。(HW)
epizootiology 疫学: 病原微生物の伝播の条件,あるいは生物集団内での病気の発生過程を研究する学問分野。病気の生態学あるいは集団病理学とも定義される。(HW)
etiology 病因学: 特に病気の原因を研究する学問分野。(HW)
european foulbrood ヨーロッパ腐蛆病: Streptococcus plutonによってひき起こされるミッバチの細菌病。この細菌はグラム陽性の嫌気性球菌であり,ミツバチ幼虫がこの細菌を食下すると,消化管内で細菌は増殖する。しかし,血体腔内に侵入することはない。消化管内に細菌が充満してへい死する。(IH)
exogenous virus 外来性ウイルス: 宿主の個体間で伝染するウイルス。内在性ウイルスを比較参照。(CG)
exospore 胞子殻外層: 微胞子虫類の胞子殻の最外層を構成する部分。蛋白質で構成される。(CY)
β-exotoxin β−外毒素: Bacillus thuringiensisの中の特定の菌株が産生する耐熱性で水溶性の低分子物質(MW700,アデニン・ヌクレオチド)である。これは種々の昆虫に毒性を示す。この毒素はflytoxin, heat-stable toxinともよばれ,これを接種された昆虫は変態の過程で奇型が生じ,輌化,羽化が阻害される。(HI)
extracellular virus  細胞外ウイルス: 出芽などによって細胞外に放出されたウイルス。(CG)
extrusion apparatus 突出器官: 微胞子虫胞子で,発芽して芽体(sporoplasm)を宿主細胞へ注入する際に機能する小器官の複合体をさす。傘状部(polar sac),極膜層(polaroblast),極糸(polar tube)および後極胞(posterior vacuole)が含まれる。(CY)



〔F〕
flacherie 軟化病: 発病の際に縮小,吐液,空頭,下痢などの症状を伴って蚕体が軟化し,死後速やかに腐敗黒変するような病気の総称。軟化病には単なる生理疾患をはじめ,伝染性軟化病,濃核病,細菌性消化器病,敗血症などが含まれる。(HW)
flagellate 鞭毛虫類: 鞭毛(flagella)をもつ鞭毛虫亜門(Mastigophora)に属する原虫。(CY)
flagellosis 鞭毛虫症: 鞭毛虫類の感染の結果生じる宿主の病気。(CY)
fluorescent antibody technique 蛍光抗体法: 抗原の検出に,抗体を蛍光色素で標識したもの(=蛍光抗体)を用いる方法で,ウイルスの検出など病原の検出・確認に利用されている。抗原抗体反応の後に,色素の励起波長を照射し蛍光発色させる蛍光顕微鏡を使用して観察する。(CG)
FP variant (few polyhedra variant/mutant)  FP変異株: 培養細胞を用いたプラーク純化で得られる核多角体病ウイルスの変異株で,感染細胞の核内に形成される多角体の数が極端に少ない株や多角体を形成しない株などがある。これらの表現型の変化は培養細胞での増殖を繰り返すことによって誘発され,主にウイルスゲノム上に存在するfp25遺伝子に生じた変異に起因することが知られている。(CG)
free-living (female) adult 自由生活性(雌)成虫: .昆虫寄生,もしくは病原性線虫において虫体外で生存している成虫ステージ。虫体外では生活環が完結しない絶対的昆虫寄生種では感染態雌成虫(infective female adult)と同義。虫体外で増殖をする種類では増殖型成虫(propagative adault)と同義。(NK)
fungal-feeding nematode (Fugivorous nematode,Mycophagous nematode) 糸状菌食性(菌食性,食菌性)線虫: 糸状菌の菌糸の外部寄生者。口針を持っており,口針で菌糸を刺し,細胞内容物を摂取する。昆虫寄生性線虫の中には,昆虫寄生性世代と糸状菌食性世代の2つの生活環を持つ種類がある。オセアニアにおいてキバチ類防除に利用された昆虫寄生性線虫Beddingia siricidicolaでは,糸状菌食性世代の大量培養および散布技術が開発され,キバチ類の防除に成功した。本種の昆虫寄生性世代はキバチ類の卵巣に寄生し,寄主を不妊化する。(MY)
fungi imperfecti→anamorphic fungi (MS)



〔G〕
gametangium (pl.: -ia)  配偶子のう:  菌類の,配偶子または配偶核の入った細胞,核相は減数分裂する二倍体または半数体。(MS)
gamete ガメート,配偶子,生殖体: 分化した生殖細胞で,マクロガモント(雌性配偶子母細胞macrogamont)およびミクロガモント(雄性配偶子母細胞microgamont)からでき,ガメートは融合してザイゴート(接合子 zygote)を形成する。(CY) 
gametocyst ガメトシスト: 簇虫類の生活環中に見られる,内部で有性生殖が行われるシストで,最終的に多数のオーシスト(oocyst)を含む。(CY)
gametocyte→gamont
gametogony 配偶子形成期: ガモント(gamont)よりガメート(配偶子gamete)が形成される過程。(CY)
gamont ガモント,ガメトサイト,配偶子母細胞,生殖母体: 有性生殖期の細胞で,マクロガモント(雌性配偶子母細胞macrogamont)およびミクロガモント(雄性配偶子母細胞microgamont)の2種類がある。これらからそれぞれ,マクロガメート(雌性配偶子macrogamete)およびミクロガメート(雄性配偶子microgamete)が形成される。(CY)
galleria trap (Galleria baiting trap) ハチノスツヅリガトラップ: ハチノスツヅリガ(Galleria mellonella)幼虫を使って,昆虫病原性線虫等昆虫病原微生物を土壌中から分離する方法。(MY)
genetic control 遺伝的防除: 有害遺伝子保持個体や不妊雄虫を大量に野外に放飼し,野外における健全個体との交雑によって生れた子孫に生活力を失わせて,個体数を減少させる防除法。フロリダにおけるラセンウジバエ,久米島におけるミカンコミバエ撲減のための不妊雄虫の大量放飼はこの一例。(YI)
genome ゲノム: 配偶子に含まれる染色体あるいは遺伝子の全体を呼称する語として広く使われる。ウイルスや細菌などの原核生物の染色体は,それぞれの種に特有の大きさをもつ単一のDNA(またはRNA)の巨大分子である。従って一つの種を規定する遺伝情報は,すべて一組の核酸分子の中におさめられているので,その染色体核酸分子をゲノムという。(HW)
germ→sporoplasm
germ conidia 発芽胞子:  昆虫疫病菌類の休眠胞子が発芽して形成する胞子で昆虫に感染性をもつ。形態は分生子に似ている。休眠胞子は発芽しても直接昆虫に感染することはなく,発芽管から発芽胞子を飛散させて昆虫に感染する。(MS)
gnotobiotic ノトバイオテイック: 特定の細菌寄生あるいは共生のみを可能にした条件をいう。(HW)
granulin  顆粒体タンパク質: 顆粒病ウイルスの封入体を構成するタンパク質。ウイルス粒子を取り囲み顆粒体を形成する。グラニュリンとポリへドリンのアミノ酸配列には高い相同性がある。(CG)
granulosis  顆粒病: 2本鎖DNAを含む桿状ウイルスによってひき起こされるチョウ目幼虫の病気で,1個(まれに2個)のウイルス粒子を含む包埋体(顆粒体;capsuleあるいはgranuleと称される)が感染細胞内に形成されるのがその特徴である。過去には楕円小体病と呼ばれたこともある。病原ウイルスはBaculovirus科Betabaculovirus (旧属名 Granulovirus)属に分類される。(CG)
grasserie  カイコ核多角体病: カイコの核多角体病。Jaundiceを参照。(CG)
grassery juice 膿汁: 核多角体病蚕の体液で,特に多角体の混入によって白濁しているものをいう。(TH)
gravid female 抱卵雌: 体内に卵を持った状態の雌成虫のこと。(TY)
green muscardine 黒きょう病:  硬化病の1種。Metarhizium anisopliaeによって引き起こされる。宿主域が広く各種害虫の微生物的防除に利用される。土壌中にも普通に存在する。緑色がかった分生子を形成するところから,欧米では本病をgreen muscardine,中国でもこの菌を緑きょう菌と呼んでいる。日本語で緑きょう病はNomuraea rileyiによる病気を指すので注意。(MS)



〔H〕
hakkyo disease 白きょう病: (1) →white muscardine,(2) Beauveria bassianaのうち,カイコに特異的に強い病原力を有し,純白の分生子を形成する系統によって引き起こされる病気。(MS)
hemocoel 血体腔:  昆虫など開放血管系をもつ無脊椎動物の組織・器官の間の空隙,血液(血リンパ)で満たされている。(MS)
himekyoso disease 姫きょうそ病: カイコノクロウジバエ(Pales pavida Meigen)の幼虫が蚕の体内に寄生して起こる病気。寄生幼虫は皮下に気孔を作って定着するため,その局部は黒点状病斑として認められる。数匹の幼虫に寄生を受けると上蔟前に死亡する。一部の地域に集団的に発生することがあるが,大きな被害はない。(YI)
hermaphrodite 雌雄同体: 線虫で見られる性の一つ。通常,4期幼虫で精子を作った生殖腺が成虫になると卵を作るように変化する。雌雄同体は雄と交尾した場合,雄の精子が優先的に利用される。Heterorhabditis属線虫では第一世代はすべて雌雄同体になるが,第二世代では雄,雌,雌雄同体の3つのタイプの成虫が出現する。(TY)
histopathology 病理組織学: 生体の組織構造の異常を光学顕微鏡あるいは電子顕徴鏡のレベルで研究する学問。(HW)
homothallic 全葉状体型:  菌類が生殖にあたり,二つの型が交互作用することなしに完遂する状態,すなわち1胞子に由来する細胞間でも有性生殖が起る。(MS)
horizontal transmission 水平伝播: 病原が個体から個体へ,集団から集団へと伝えられ,地域的に広がること。(HW)
host 宿主(寄主): 寄生者が寄生する相手の生物。細菌,糸状菌,カイコノウジバエ,シラミダニなどに対して蚕は宿主である。また食植性昆虫の場合の主として食物となる植物や実験的に移植をうけた個体も宿主という。(YI)
host range 宿主域(寄主範囲): 病原微生物が感染し増殖しうる宿主生物種,もしくは細胞の種類の範囲。(YI)
host selection 宿主選択(寄主選択): 動物が世代をくり返し,種として維持,発展しうるような食物を宿主(=寄主)として選択すること。昆虫の宿主選択には食物の発見,摂食の開始や継続,完全な成長,発育産卵場所の選択などが含まれている。
hypha (pl. hyphae)  菌糸:  菌類の体を構成する本体で,糸状の細胞が連なったもの。通常,ツボカビ類と接合菌類の菌糸には隔壁がなく,子のう菌類,担子菌類,およびこれらの無性世代である不完全菌類の菌糸には隔壁がある。hyphaの集合体がmycelium(菌糸体)と呼ばれる。(MS)
hyphal body 短菌糸(分節菌体):  菌類が昆虫の血液中で作る酵母様の細胞のこと。昆虫の血液中に入った昆虫病原菌類は,寄主昆虫が生きている間は,楕円体ないし円筒形の状態になり,分節または出芽で増殖する。これにより菌は,寄主体内での分散や栄養の獲得が容易になる,と考えられている。(MS)
hyperaminoacidemia アミノ酸過剰症: 体液中のアミノ酸含量が異常に高くなる症状。(HW)
hyperplasia 増生(過生,過形成): 頻繁な細胞分裂が起こり,しかも細胞の容積増大や正常な分化を伴わずに組織の容積が増加する現象。(HW)
hyperprcteinemia 蛋白質過剰症: 体液中の蛋白質含量が異常に高くなる症状。(HW)
hypertrophy 肥大: 生体の細胞・組織・器官の体積が増加すること。(HW)
hypoplasia 減生: 1.組織や器官の成長停止。2.構造細胞数の減少によって起こる組織や器官の大きさの減少。(HW)
hypoproteinemia 蛋白質欠乏症: 体液中の蛋白質含量が異常に低くなる症状。(HW)
hypovitaminosis→avitaminosis



〔I〕
immune response 免疫応答: 免疫に関与する細胞が外来性および内因性ρ異物(抗原)に対して行う反応。脊椎動物で特に発達している。広義には先天性免疫すなわち食細胞による抗原除去も含まれるが,狭義には抗原に対して特異的に応答する獲得免疫をいう。(HW)
immunity 免疫: 本来はある特定の病原,または毒素に対して個体が強い抵抗性をもつ状態をいう。広義には,生体の内部環墳が病原やその他の異物によって撹乱されるのを防ぎ,生体の統一性と恒常性を維持するための機構をいう。(HW)
immunization 免疫化: 動物体に,ある抗原に対する特異免疫反応力を賦与すること。単に"免疫する""ということもある。(HW)"
immunogen 免疫原: 抗原を動物に何らかの方法(注射・塗布・経口投与・噴霧)で与えて免疫応答が誘起された場合,その抗原を免疫原という。(HW)
imperfect fungi→anamorphic fungi (MS)
in vitro 生体外(の)(インビトロ,試験管内): 灌流された器官,組織切片,組織培養細胞,ホモジェネート,粗抽出物あるいは細胞下分画を用いた生体外の実験あるいは条件を意味する。(HW)
in vivo 生体内(の)(インビボ): 動物全体,無傷の植物,無傷の器官,あるいは微生物細胞の集団を用いた実験あるいはそれらの条件を意味する。(HW)
inactivation 不活化: 高温,紫外線,薬物などによって病原を処理し感染力を消失させること。(HW)
inapparent infection→attenuated infection
incidence (of a disease) 発病数: 与えられた期間に,集団内で発病した個体数。(HW)
inclusion→inclusion body
inclusion body 封入体(細胞封入体): ウイルスに感染した細胞内に光顕観察によって認められる異常な構造。封入体には核内にできるものと,細胞質内にできるものとがある。(TH)
incubation period 潜伏期: 病原微生物が生体に侵入してから病徴が現われ発病するまでの期間。(HW)
induction 誘発: 潜在ウイルスが活性化され,病気が起こること。特に,プロウイルスにおける感染性ウイルスへの変化を引き起こすこと。(CG)
infection 感染: 病原微生物が宿主内に侵入し,増殖すること。(HW)
infection cushion 侵入座: 菌が寄主体に侵入する際,寄主体表面に付着器細胞,分生子,発芽管などが集積してできる物体。例えば黒きょう病菌がコメツキムシ幼虫に侵人する際にみられる。(JA)
infection peg 侵入糸(感染糸): 菌が昆虫に経皮侵入する際,分生子から伸びた発芽管は寄主体との接触部にまず付着器を形成する。侵入糸はこの付着器の真下から伸びて,昆虫のエピクチクラに小孔をうがつ針状の器官をいう。(JA)
infectious disease 感染病: 微生物の感染によって起こる病気の総称。(HW)
infectious flacherie 伝染性軟化病: 中腸皮膜,特に盃状細胞が侵される蚕のウイルス病で,包埋体は形成されない。病蚕は軟化症状を呈するのみで,特徴的な症侯を示さないので,確実な診断には血清学的手法を用いる。本病末期には円筒細胞の細胞質中にしばしば球状の封入体が認められる。病原は単鎖RNAウイルスで,直径約28nmの正20面体のキャプシッドを有する。本病はウイルス性軟化病と呼ばれたこともある。(TH)
infectious hatch(stimulated hatch) 感染孵化: 動物寄生性線虫や植物寄生性線虫で見られる孵化形態。形態的に孵化できるまで成長した幼虫が,好適な環境になるまで卵内にとどまり,寄主による摂食等が刺激となり孵化する。(MY)
infective phase  感染相: ウイルスあるいは病原微生物がその生活環のなかで感染性を持つ状態にあること。ウイルスの場合は,ウイルス核酸(ゲノム)と構造タンパク質から構築されたウイルス粒子が完成し,感染力を保持している状態。(CG)
infective female, infective juvenile 感染態雌,感染態幼虫: 昆虫寄生,病原線虫において虫体に侵入するステージ。感染態幼虫では通常の増殖型幼虫とは形態的に異なる,虫体への侵入に適したものになることが多い。(NK)
Infective third stage juvenile (third stage infective juvenile)(see infective juvenile, dauer juvenile) 感染態第三期幼虫: 感染態幼虫に対してInfective juvenileが使われる。分類群によって感染態になるステージが異なるので,昆虫病原性線虫では感染態のステージが三期幼虫であることから,正式にはInfective third stage juvenileまたはThird stage infective juvenileが使われる。(MY)
infective titer 感染価: 病原の感染性の程度を示す価。感染率,ID50(50%感染量)IC50(50%感染濃度)などで示す。(HW)
infectivity 感染性: 微生物が細胞・組織あるいは個体としての宿主に侵入し増殖することのできる性質ないしは能力。(HW)
injurious insect→insect pest
injury 障害: 広義には病原微生物の感染以外の外因によって生ずる,生体の形態ならびに生理異常をいう。障害は,外傷といわれる機械的障害,火傷・凍傷・X線障害,などの物理的障害,中毒症といわれる化学的障害,栄養欠乏による栄養障害などに分類される。(YI)
injury to silkworm by tobacco poisoning →tobacco poisoning of silkworm
inoculative release 接種的放飼: Augumenation放飼増強法の一つで散布(放飼)した当世代の害虫に,天敵微生物が感染(捕食者や捕食寄生者の場合には,捕食や寄生)することにより増殖し,次世代以降に害虫密度を低下させる方法。ハマキガ類に対する顆粒病ウイルスの散布などが,これにあたる。(MN)
insect-parasitic nematode 昆虫寄生性線虫: 昆虫とのかかわりを持つ線虫のうち,生きた昆虫と直接の栄養関係を持つものの総称。通常,積極的に寄主を殺すことはないが,絶対寄生性であるシヘンチュウ類では,遊出後寄主が死亡することが多い。(see Postparasite,Entomogenous nematode,Entomopathogenic nematode)(MY)
insect pest 害虫: 人問に直接,間接に害をもたらす昆虫。すなわち,人間本位にみた便宜的な呼称で,ある発育態では害虫であるが,他の発育態では益虫の性格をもつ場合,人間の生活様式の変化によりその性格が変わる場合などがある。(YI)
insecticide 殺虫剤: 殺虫効果を有する薬剤で,作用機構から,毒剤・接触剤・燻蒸剤・浸透殺虫剤に大別される。なお広義には誘引剤・忌避剤・性誘引物質・化学不妊剤なども包含される。(YI)
integrated control 総合防除: 薬剤防除法と他の防除法,たとえば生物的防除や生態的防除法などを適時組合せて総合的に行う害虫防除をいう。(HW)
intestinal bacterium〔pl -ia〕 腸内細菌: 昆虫の消化管内に常在する細菌(HI)
intoxication 中毒: 動物が薬物の毒性によって機能障害を起こすこと。(HW)
intrahemocoelic injection体腔内注射: 皮膚を通して直接体腔内の血液中に注射すること。(HW)
inundative release 大量放飼: Augumenation放飼増強法の一つで散布(放飼)した当世代の害虫への効果を狙う方法。天敵の農薬的利用ともいう。Bacillus thuringiensisの散布などがこれにあたる。(MN)
invasion 侵入: 病原が宿主の皮膚や他の上皮性組織より成る防壁を貫通して体内に入ること。(HW)
iridescent virosis→Iridescent virus disease
Iridescent virus disease 虹色ウイルス病: イリドウイルス科の複鎖DNAを含む大型の20面体ウイルスによるハエ目,チョウ目,コウチュウ目の病気で,感染組織,特に脂肪体はオパールのような乳発光色を呈する。イリドウイルス科には4つの属があり,このうちIridovirus 属とChloriridovirus属が昆虫病原性ウイルスである。ウイルス粒子は,Iridovirus 属では直径約130nm,Chloriridovirus属では,180nm程度で,これが細胞内で結晶状に配列してブラッグ反射が成立するため強い真珠光沢が観察される。(CG)
Isolatie 分離株: 病組織から病原体だけを培養基の上に純粋に移して繁殖させることを分離といい,こうして得られた病原体を分離株あるいは株という。細菌学では,分離株と菌株は同義である。ただし,医学細菌学では殆ど用はない。(TH)



〔J〕
jaundice 膿病,うみこ: 蚕の核多角体病を指す慣用語。jaundice larva (CG)
jaundice larva うみこ: 核多角体病蚕を指す慣用語。(TH)
juvenile 幼虫: 線虫においては,幼虫を示す単語としてlarvaおよびjuvenileの両方が使われる。線虫のほとんどの種では、1期、2期、3期、4期幼虫を経た後、成虫になる。(TY)



〔K〕
karyogamy 核合体,核融合:  二つの細胞が細胞質融合した後に二つの有性の核(半数体)が合一すること。(MS)
kinetoplast キネトプラスト(動原核): 鞭毛無視亜門(Mastigophora)に属する原虫で,kinetoplastide(動原核目)原虫の鞭毛基部に見られるDNAに富む構造物。高塩基性で核染色により染色される。 (CY)
kinetoplastida 動原核類(目): トリパノゾーマ科の原虫に代表される動物性鞭毛虫類。細胞質内にkinetoplast(キネトプラスト)をもつ。(CY)
kokkyo disease→green muscardine.
kyoso disease きょうそ病(蚕蛆病): カイコノウジバエ(Blepharipa zebina Walker)が桑葉裏面に産みつけた卵を蚕が嚥下することにより寄生を受けて起こる病気。寄生幼虫は気門の裏側に定着するため,その気門周辺は黒斑となって見られる。また寄生部の環節が一方に曲がる病蚕が多く,外部病徴で診断できる。養蚕,特に蚕種製造で被害が大きいので,歩桑桑園の設定,蛆の土中潜入防止,桑園害虫の防除などの予防駆除対策が必要である。(YI)



〔L〕
lag phase 誘導期: 新たな環境に移された微生物が増殖を開始するまでの期間。細胞数は増加しないが,細胞内では増殖に向けた変化が起きている。(CG)
latent infection 潜伏感染: 病原が宿主内への侵入を完了してはいるが,病原-宿主間に何らかの平衡状態が保たれて,病原がほとんど増殖せず,疾病が明らかになっていない状態。"a latent infection"(潜伏感染)は可であるが,"a latent virus"という表現は不可。潜在感染(Occult virus)を参照。(CG)
leaping 跳躍: 線虫の宿主探索行動の一つ。線虫の耐久型幼虫が宿主昆虫などに跳び移る際の行動。(TY)
leather beetle ハラジロカツオブシムシ: 〔学名Dermestes maculatus Degeer〕鞘翅目カツオブシムシ科に属する。1年に3回発生し,成虫で越冬する。成虫は大型で体長約9mm,全体黒色である。成虫,幼虫ともに繭を加害し,これに孔をあけるため,被害繭は繰糸不能となる。(YI)
lesion 傷害: 機能の消失・減退を伴う組織の病的変化。(SK)
life cycle→life history
life history 生活史: 生物の経過の季節的配置をいう。経過習性と称することもある。(YI)
locust fungus バッタカビ: 〔病原菌学名Entomophaga grylli (Fressenius) Batko〕昆虫疫病菌の1種。バッタ,イナゴなど直翅目昆虫に寄生する。感染した昆虫は植物の茎の上方に登り,午後遅くから夕方にかけて死ぬ。死後1時間ほどで本菌の分生子が死体表面に形成され,周囲に飛散する。そのため,夜間に植物体に集まってきた健全虫が感染を受ける。このようにして,しばしばその個体群を短期間に全滅させるほどの流行性を示すことで有名な菌である。(JA)



〔M〕
macroconidium (plural: -ia)  大胞子:  一つの菌が形態的に異なる2種類以上の分生子を作る場合,大型の分生子をmacroconidiumとよぶ。(MS)
macrogametocyte→macrogamont
macrogamont マクロガモント,雌性配偶子母細胞,雌性生殖母体: アピコンプレックス門の原虫に見られる,有性生殖期にできる雌性の配偶子母細胞。成熟してマクロガメート(雌性配偶子macrogamete)となる。(CY)
maggot-free mulberry field  歩桑桑園(ぶぐわそうえん): カイコノウジバエの産卵のない桑を歩桑といい,歩桑桑園は特に種繭養蚕用として必要である。(YI)
Malaya disease  マラヤ病: タイワンカブトムシ(Oryctes rhinoceros)などのカブトムシ類の幼虫と成虫を侵すウイルス病。マラヤではじめて発見されたことに因んで名づけられた。病原はエンベロープを持つ二本鎖DNAウイルスで,長く包埋体非形成性のBaculovirusとして扱われていたが,現在はBaculovirus科から外され未帰属ウイルスとなっている。本ウイルス(Gryllus bimaculatus nudivirus)とフタホシコオロギ由来のウイルス(Gryllus bimaculatus nudivirus)とタバコガ近縁種由来のウイルス(Heliothis zea nudivirus 1 に対してNudivirusという新たな属が提案されているが,科レベルの分類は検討中である。(CG)
Manubrium 極糸棒状部: 微胞子虫胞子で,polar filament(極糸)の基部が肥厚して棒状になった部分。(CY)
matrix protein→polyhedron protein
maturation phase  成熟期: ウイルス感染において暗黒期の後に来る,感染力を持つウイルス粒子が形成される期間。(CG)
median effective dose (concentration, time) 中央効果量(濃度・時間): 供試した動物の50%に効果があったと推定される薬量(または微生物量),濃度または時問。(SK)
median lethal dose (concentration, time) 中央致死量(濃度,時間): 薬剤,病原微生物などの急性毒性または宿主に対する病原の強さを表わす。所定条件下で,供試した動物の50%が死亡すると推定される薬量,濃度ま'たは時葡で,薬量の場合は一般に動物の体重当たりの量(mg/kg)で示される。(SK)
meiospore マイオスポア: 胞子形成期に,減数分裂によって形成される単相の胞子。(CY)
melanosis メラノーシス: 1)昆虫の血液,組織などが病原の侵入や傷害によって黒色化する現象。2)ミツバチの卵が黒化する病気。(SK)
mermithid (Mermithidae) シヘンチュウ(糸片虫)類(シヘンチュウ科): 無脊椎動物の絶対寄生性線虫で,多くは昆虫類を寄主とするが,クモ類,甲殻類,ヒル類,軟体動物,線虫類等と多岐にわたる。わが国では,ウンカシヘンチュウ(Agamermis unka)およびズイムシシヘンチュウ(Amphimermis zuimushi)が稲作害虫の天敵として,スキムシシヘンチュウ(Hexamermis microamphidis)が養蚕における有害生物として古くから知られている。寄生が寄主にもたらす直接的な影響としては,一般的には脂肪体,生殖巣(しばしば不妊化する),飛翔筋などへの影響が知られているが,形態や行動の変化を伴うこともある。とくに,本線虫類の寄生によって起こるアリ類のインターカーストは有名で,Mermithaner(寄生されたオス),Mermithergate(寄生されたワーカー),Mermithogynes(寄生されたクイーン),Mermithostratiote(寄生されたソルジャー)等の用語が知られている。また,寄生によりバッタ類やウンカ類で短翅型が出現する例が知られている。本線虫類の寄生による死亡は,寄主からの遊出に伴って起こる体液の流出に起因する。(see Preparasite,Postparasite)(MY)
mermithid parasite of silkwarmスキムシノシヘンチュウ: 袋形動物,線虫綱,糸片虫科に属する線虫(学名Hexamermis microamphidis Steiner)である。クワノメイガの天敵で,成虫は桑園土壌中に生息する。艀化した仔虫は曇天,雨天の早朝に桑樹を登り,宿主に達し口針をもって皮膚を穿孔し侵入寄生する。宿主の栄葦を奪取して約15cmに成熟し仔虫は宿主を脱出,土中に入って成虫となる。クワノメイガが大発生した時に大量発生して,初秋,晩秋蚕期の蚕に寄生して大きな被害を与えることがある。(YI)
merogony→schizogony
meront→schizont
merozoite メロゾイト,娘虫: アピコンプレックス門(Apicomplexa)に属する原虫の生活環中で,無性生殖期にスポロゾイトの多分裂(シゾゴニー)によって生じる娘虫体。(CY)
metula メトレ:  不完全菌類のAspergillusやPenicilliumなどがフィアライドを形成するために生じる,分岐した分生子柄。菌の種類によっては2段以上に分岐する。同定に当たっての識別点となる。(MS)
microbial control 微生物的防除: 生物的防除法の一つで,微生物(ウイルスを含む)の侵入,毒素,酵素などによって害虫を駆除する方'法。(SK)
microbial insecticide 微生物殺虫剤: 害虫駆除のための病原微生物或はその産物(毒素など)。(SK)
microbiological control→microbial control
microbivorous nematode 微生物食性線虫: 細菌,真核単細胞生物および糸状菌(菌糸)等を食物として摂取する線虫類。ただし,糸状菌食性線虫は糸状菌の外部寄生性線虫としてここに含めないこともある(see Fungal-feeding nematode)。(MY)
micro-conidium〔pl. -dia〕 (1) 小胞子,(2) 微小分生子:  (1) 小胞子,一つの菌が形態的に異なる2種類以上の分生子を作る場合,小型の分生子をmicroconidiaとよぶ。(2) 微小分生子,昆虫疫病菌類のConidiobolus属の菌が形成する2次胞子の一種。一つの1次胞子から同時に多数形成される。この形成の有無は菌種識別の手がかりの一つになる。(MS)
microfeeding 微量摂食: 昆虫あるいは小動物に微量の溶液あるいは懸濁物を強制的に食下させること。(SK)
microgametocyte→microgamont
microgamont ミクロガモント,雄性配偶子母細胞,雄性生殖母体: アピコンプレックス門の原虫に見られる,有性生殖期にできる雄性の配偶子母細胞。成熟してミクロガメート(雄性配偶子macrogamete)となる。(CY)
Microsporida 微胞子虫目: 微胞子虫目はPansporoblastina(多胞子芽膜類)およびApansporoblastina(無多胞子芽膜類)の2亜目から構成されている。(CY)
microsporidian spore 微胞子虫胞子: 微胞子虫類の形成する耐久型細胞。fungus spore(糸状菌胞子),bacterialspore(芽胞)に対応する語。(CY)
microsporidiosis 微胞子虫病: 微胞子虫の感染の結果生じる宿主の病気。(CY)
microsporidium〔pl. -dia〕微胞子虫(類): Microsporida(微胞子虫目)に属するものの総称。微胞子虫(類)は偏性細胞内寄生性の真核生物であり,単細胞性であること,ミトコンドリアを欠くこと,リボソームの性状などから,ミトコンドリア共生以前に分岐した祖先型真核生物として,これまで原生動物(原虫)に分類されてきた。しかし近年,新たな生化学的知見や分子系統解析から,進化の過程でミトコンドリアを失った異例な菌類とみなされている。(CY)
midgut nuclear polyhedrosis 中腸核多角体病: 家蚕細胞質多角体病ウイルスの変異系統による病気で,タンパク結晶体が主として中腸皮膜細胞の核内に形成されるのがその特徴である。細胞質内にもタンパク結晶体が形成されるが,これはウイルス粒子を包埋しているのに対し,核内の結晶体はこれを含んでおらず,多角体の定義に合わない。英名は和製英語で欧米の研究者には誤解され易い。たとえば,ハバチ類の核多角体病と同様な病気と理解されることがある。従って,この病名は使わないことが望ましい。(TH)
midgut polyhedrosis〔pl. -ses〕→cytoplasmic polyhedrosis
milky disease 乳化病: Paenibacillus popilliaeによってひき起こされるマメコガネなどのコガネムシ類の幼虫の細菌病である。P. popilliaeの胞子は,コガネムシ幼虫の消化管内で発芽し,栄養型細胞になる。これが血体腔内に侵入すると,そこで増殖し,胞子をもった栄養型細胞で体液は充満し,体色は乳白色を呈する。P. popilliaeに起因するmilky diseaseをtypeAとし,Paenibacillus lentimorbusによるものをtypeBとする場合があるが,P. lentimorbusをP. popilliaeの変種とする研究者もある。(HI)
mitosporic fungi →anamorphic fungi (MS)
mixed infection 混合感染: 2種またはそれ以上の病原微生物の併存により同時的に起る感染。(SK)
monoxenic culture 二者培養: 無菌化した培地上で2種の生物を同時に培養すること。昆虫病原性線虫を大量培養する場合には,共生細菌を接種した人工培地上に無菌化した線虫を加え,二者培養を行う。(TY)
mortality (rate) 死亡率: 与えられた集団内に発生した死亡個体の割合。(SK)
MP variant (many polyhedra variant) MP変異株: 多角体を多数形成する変異株。培養細胞を使ったプラーク純化で得られる変異株で,感染細胞の核内に通常よりも著しく多数の多角体を形成する。FP variantを参照のこと。(CG)
multicapsid virion 多カプシドビリオン: ある種の核多角体病ウイルスにおいて形成される,複数ヌクレオカプシドが単一のエンベロープに包まれた状態の粒子。Multiple-capsid virion あるいは Bundle virionとも称される。(CG)
multiple-capsid virion → Multicapsid virion
multivoltine tachina fly クワコヤドリバエ(多化性蚕そ蝿,多化性きょうそ蝿,野蚕そ蝿): 〔学名Exorista sorbillans Wiedemann) 双翅目,ヤドリバエ科に属し,年に5〜6世代を経過し,最終世代の蛹で越冬する。翌年5月以降に羽化し,雌成虫が宿主昆虫に飛来して体表に産卵する。寄生幼虫は宿主体腔内で急速な成長を逐げ5,6日目に宿主から脱出する。蚕のほか多くの鱗翅目昆虫に寄生する。(YI)
muscardine 硬化病:  Beauveria,Metarhiziumなど,不完全菌類の昆虫病原菌によって起こる病気。硬化病菌類とは菌群の分類上の名ではないが,罹病虫は死亡すると硬化するので,養蚕業では昔からこれらの菌による蚕病を総称して硬化病と呼んできた。現在では英語のmuscardineはあまり使用されないが,その語源はイタリア語のmuscardino,フランス語のmuscadinで,果物やクルミ入りの糖菓を意味し,硬化病による昆虫の死体が糖菓に似ているので使われるようになった。(MS)
mutualism 相互共生(相利共生): 共生の一形態で,それによって共生者の双方が共に何等かの利益を得ているもの。(SK)
mycetocyte 菌細胞: 細胞内共生を行う微生物を宿す細胞。(SK)
mycetome 菌細胞塊: 菌細胞が一定の大きな塊状組織となって存在するものをいう。(SK)
mycosis 真菌症:  菌類による病気。 (MS)
mycotoxicosis マイコトキシン中毒:  マイコトキシンによる病気。(MS)
mycotoxin マイコトキシン:  菌類の作る毒素。 (MS)



〔N〕
natural host 自然宿主: 自然界にみられる寄生微生物の寄生対象となる生物。(SK)
nematoda disease of silkworm 蚕の線虫病: 蚕が主にスキムシノシヘンチュウ(Hexamermis miroamphidis Steiner)の寄生を受けて起こる病気。蚕に侵入した約2.5mmの仔虫は体腔内で栄養を奪取して成長し,熟蚕期の体壁を破って脱出する。平均長約30cmに達する。脱出された蚕は失血死亡する。本病の予防には桑園のクワノメイガの駆除が必要である。(YI)
nematomorpha (Gordian worm,Horsehair worm) 類線形動物門: ハリガネムシ類,外見上シヘンチュウ類に類似しているが,雌雄ともに体末端部に消化管および生殖輸管が開口する総排泄腔があること,幼虫頭部の形態等で,センチュウ類(線形動物門 Nematoda)と区別できる。ハリガネムシ類は主としてカマキリやカマドウマ等の肉食性の直翅目昆虫に寄生する。(MY)
neoplasm 新生物: 正常組織から逸脱した異常組織。一般に腫瘍または癌を意味する。(SK)
nictation ニクテイション: 線虫の行動の一つ。尾部を土壌表面などに着け,地面に対して体を垂直に立ち上げた状態。この状態で体を揺らした行動はウエービングと呼ばれる。また,ニクテイションからリーピングと呼ばれる跳躍に移る場合もある。昆虫嗜好性線虫の耐久型幼虫や昆虫病原性線虫の感染態幼虫においてよく観察され,宿主に付着する際に役立つ。(TY)
nodule formation ノジュール形成:  体に異物が侵入すると形成される小結節。血球細胞と破片の塊が血中で形成され,最終的には,血球,異物片としばしばメラニン化した他の破片により被嚢化される。(MS)
noninclusion → nonoccluded.
nonoccluded 非包埋(型): タンパク質結晶に包埋されていない状態のウイルス粒子を示す言葉。(CG)
non-occluded viruses 包埋体非形成ウイルス: 包埋体を形成しないウイルス。昆虫病原性ウイルスでは,イリドウイルス,ピコルナウイルス,ポリドナウイルス,ラブドウイルスなどさまざまなウイルスがある。(CG)
nonpermissive cells 非許容細胞: ウイルスにとって,核酸の細胞内への侵入と増幅は可能であるが,感染性を持つビリオンの形成ができない細胞。(CG)
nosematosis ノゼマ症: Nosema属微胞子虫類によって引き起こされる病気の総称。(CY)
nuclear polyhedrosis → nucleopolyhedrosis.
nucleocapsid ヌクレオカプシド: ウイルス核酸とそれを取り巻くカプシドから成る構造をヌクレオカプシドと呼ぶ。ヌクレオカプシドはウイルス粒子(ビリオン)の基本となる構造であり,エンベロープを持たないウイルスではヌクレオカプシドはビリオンと同一である。核酸のほかに,ポリアミンやRNAポリメラーゼなどの酵素をもっているものもある。(CG)
Nucleopolyhedrosis 核多角体病: 感染細胞の核内に多角の包埋体が形成されることを特徴とする昆虫のウイルス病で,主にチョウ目幼虫に感染するが,ハチ目やハエ目に感染するものも見つかっている。チョウ目幼虫では,上皮細胞,気管,脂肪体,血球細胞などで増殖するが,ハバチ幼虫では主に中腸上皮細胞で増殖する。感染個体は通常致死する。病原はバキュロウイルス科Nucleopolyhedrovirus属のウイルスである(2008年の分類改定によりNucleopolyhedrovirus属は3つの属に分割された。分類名についてはBaculovirusの項を参照)。核多角体病ウイルスを示す言葉としては,nuclear polyhedrosis,grasserie, jaundice, polyhedrosis, wilt disease, wipfelkrankheitなどがある。(CG)



〔O〕
occlusion body 包埋体あるいは封入体: ウイルス感染細胞内で合成されるタンパク質結晶体のうち,ウイルス粒子を内包し,光学顕微鏡での観察が可能な大きさのものをいう。ウイルスの種類によって,包埋体中に含まれるビリオンの数が異なり,例えば顆粒病ウイルスでは1個であるが核多角体病ウイルスでは多数である。包埋体を形成するウイルス病には,核多角体病および細胞質多角体病,顆粒病,昆虫ポックス病などがある。(CG)
occult virus 潜伏性ウイルス(オカルトウイルス): 潜伏感染した昆虫体内においてある種のウイルスが取る特別な状態。ウイルス核酸は検出されるが,ウイルス粒子やウイルス粒子を構成するタンパク質が検出されず,ウイルスの存在状態が不明の場合に,生体内のウイルスをオカルトウイルスと呼ぶ。通常のウイルス感染で認められる現象である暗黒期(感染したウイルスは細胞内で一度分解されるため、感染初期に見かけ上ウイルス粒子の存在しない期間が存在する)は,オカルトウイルスである状態とは異なる。(CG)
occluded viruses 包埋体形成ウイルス: 光学顕微鏡で容易に観察できる大きさのタンパク性結晶(包埋体)を形成するウイルス。この内部にビリオンが内包されている。包埋体形成ウイルスとしては,バキュロウイルス,細胞質多角体ウイルス,昆虫ポックスウイルスがある。(CG)
octosporous 八胞子形成性: 1個のsporont(胞子芽母細胞)から,または胞子形成過程で,8個のspore(胞子)を形成する性質。(CY)
okyo disease→white muscardine
oocyst オーシスト: 球虫類や簇虫類の生活環中に見られる耐久型ステージ。ザイゴート(接合子zygote)を含有し,好条件下で感染性のある成熟オオシストとなる。(CY)
oomycota 卵菌門:  広義には菌であるが,現在の分類学では菌類界から外され,クロミスタ界に所属するとされている(最新の系統分類ではクロミスタをさらに2界に分け,その中のストラミニパイル界に卵菌を含める提案がなされている)。しかし昆虫病理学では便宜上菌類と同様に扱われている。昆虫寄生性のものとしてはカに寄生するLagenididum giganteumがよく知られている。(MS)
oospore 卵胞子: Lagenidium属など卵菌類が形成する有性胞子。菌糸の先端が膨大して生じた造卵器(oogonium)に,他の菌糸の先端に生じた造精器(antheridium)が接触して授精管を出し,造卵器内にl個の雄核を送り込む。この雄核は卵球の卵核と合着し,厚い細胞膜を形成して卵胞子となる。(MS)
oosporein オオスポレイン: Beauveria属菌の分泌する赤色色素でC14H10O8の分子式を持ち,ブロンズ様の板状結晶を呈する。Beauveria属菌に侵された昆虫の死体が赤味がかるのはこの色素によるものと考えられている。しかし,昆虫に対する作用は明らかにされていない。菌を継代培養するにつれて,この色素の産生度は減少する傾向がある。(JA)
ophiocordin オフィオコルディン: 冬虫夏草菌が昆虫に寄生した場合,菌糸が分泌する抗生物質の1種で,病死した寄主体の分解を妨げる。C21H22N2O8の分子式を持ち,菌類の発育阻害作用を示す。(JA)
organ culture 器官培養: 器官全体またはその一部を培地で培養する方法。(SK)
outbreak 大発生: 病害虫などの密度が平年の変動幅を著しく超過し,発生が激増することをいう。ただし,どの程度以上の場合に大発生とよぶのかについては不明確である。これには1世代でピークに達する突発的大発生(sudden outbreak)と数世代かかって徐々にピークに達する漸進的大発生(gradation)とがある。(YI)



〔P〕
pansporoblast 多胞子芽: 胞子形成期にplasmodium(多核体)が形成され,多数の胞子芽(sporoblast)が共通の限界膜で包まれた形式の胞子芽(sporoblast)。(CY)
paralysis〔pl.-ses〕 麻庫(病): 昆虫体が麻庫する病気の通称。(SK)
parasite 寄生者: 寄生生活をおくる生物の総称で,原生動物や節足動物,線形動物などの他に,糸状菌,細菌,ウイルスまで含める場合もある。(SK)
parasitic female 寄生態雌成虫.: 昆虫寄生線虫において昆虫体内に寄生して栄養摂取,産卵を行っているステージの雌成虫。多くの場合,通常の感染態(菌食態/自由生活性)雌成虫とは形態的に異なっており,繁殖に特化した形状をとる。(NK)
parsitic juvenile 寄生態幼虫: 昆虫寄生線虫において昆虫体内に寄生して栄養摂取を行っているステージの幼虫。(NK)
parasitism寄生: ある生物が栄養を摂取する目的で,より大形の生物の体表または体内に住みついて生活する現象。(YI)
parasitoid 捕食寄生者:  幼虫時代に寄生生活を送り,寄主を殺した後は成虫となって自由生活を行う。真正寄生者と異なり,寄主を殺してしまうことから,生態的機能は捕食者に近い。(MS)
pathogen 病原体: 普通の宿主抵抗性のある条件下で宿主を発病させることのできる微生物。広義には,直接・問接にかかわらず病気をおこす微生物(ウイルスを含む),物質,さらに要因をさすこともある。(SK)
part spore 部分胞子,分裂子: 2細胞以上の子のう胞子が分裂してできる1細胞の胞子。Cordyceps属などが形成する。冬虫夏草図鑑などでは2次胞子という呼称を用いている。(MS)
pathogenicity 病原性: 微生物の宿主に病気を起こす性質ないしは能力。病原性は「ある特定病原の特定動物種または細胞に対しての発病能力」あるいは「遺伝的に確立された病原の発病能力」として毒力と使いわけられている。(SK)
pathology 病理学: 疾病の発生原因の解明や組織の形態的・機能的障害を調べる学問。(SK)
pathophysiology→physiopathology
pebrine(Fr.) 微粒子病: Nosema bombycisの感染に起因する微胞子虫病。本病に感染したカイコ幼虫体表に現れるこげ茶色のスポット状病斑(欧州蚕において顕著な病徴)が,胡椒(プロヴァンス語でpebre=pepper)を塗したようであることに由来する。(CY)
penetration 貫入:  糸状菌の感染過程において,クチクラ,真皮を貫いて血体腔の中に入ること。(MS)
penetration peg→infection peg
penetration plate 侵入板: 菌が昆虫に侵入する際,侵入糸が昆虫のエピクチクラを貫通した後に,プロクチクラ中に形成する平板状の物体。黒きょう病菌がコメツキムシ幼虫に侵入する過程で観察されている。(JA)
per os →peroral
percutaneous infection 経皮感染: 病原微生物が宿主の皮膚を経由して侵入し感染を起すこと。非経口感染または腸管外感染(parenteral infection)の一種。蚕の硬化病や,こうじかび病における感染経路はこれである。(YI)
percutaneous inoculation 経皮接種: 皮膚上に病原微生物を与えること。塗布,散布などの接種方法や,局所施用(topical application)の場合と全身施用(systemic application)の場合がある。(YI)
perithecium (pl.perithecia)  子のう殻:  子のう菌類が形成し,子のうを内蔵する亜球形ないしフラスコ形の器官。昆虫病原菌ではCordyceps,Torrubiellaなどの属が形成し,形態が分類上の特徴となる。(MS)
permissive cells 許容細胞: 個々のウイルス種にとって,増殖ならびに感染性を持つウイルスの構築を全うすることが可能な細胞。(CG)
peroral infection 経口感染: 病原が口から消化管に入り,そとから体内に侵入して感染すること。(SK)
peroral inoculation 経口接種: 口を通して病原を与えること。昆虫では病原を食草に添食する場合と,病原液を直接飲ませる方法がある。(SK)
pest control害虫防除: 害虫の発生を予防または発生した害虫を駆除し,その加害から回避またはそれによる被害を軽減させることをいう。これには化学的防除・生態的防除・生物的防除および遺伝的防除などがある。(YI)
pest management 害虫管理: 害虫の総合防除の基本概念。原則として害虫の絶滅を目的とせず,害虫個体数の自然制御機構を効率的に利用し,経済的損害が許容水準以上に達することが予想される時にのみ,殺虫剤散布等の人為操作を用いる防除体系。(YI)
phagocyte 食細胞: 動物体内で異物体を処理する細胞の総称。(SK)
phagocytosis 食細胞活動(食作用): 細胞が異物体を取り入れる活動をいう。異物と認識されると,異物は膜に包まれて細胞内に入り,リソゾームと合体して消化胞となり消化される。(SK)
phase 型: 昆虫病原性線虫と共生関係をもつXenorhabdus属およびPhotorhabdus属細菌が示す表現型の種類。感染態幼虫の腸内から単離した共生細菌は,PhaseT(T型)であり,高い殺虫活性,抗菌活性,NBTA培地上での色素吸着能などや細胞内にタンパク質の結晶構造物を有するなどの特徴を示す。一方,継代培養などを続けるとこれらの特徴を示さないPhaseU(U型)が出現する。PhaseUが出現する生態的な意味はまだ分かっていない。(TY)
phialide フィアライド:  フィアロ型分生子を形成する分生子形成細胞。(MS)
phialoconidium〔pl.-dia〕フィアロ型分生子:  不完全菌類の分生子の形成様式の一つで同定の重要な決め手となる。分生子形成細胞がその頂端開口部から分生子を次々に外に押し出すように形成し,分生子は連鎖するかあるいは粘液中に塊状となる。分生子形成に当たり,分生子形成細胞の長さは変化しない。Isaria,Lecanicillium,Merarhiziumなど,多くの昆虫病原菌がこの様式の分生子を形成する。この方式で分生子を生み出す分生子形成細胞をphialide(フィアライド)と呼ぶ。(MS)
phialospore→phialoconidium
physiopathology 病態生理学: 病的機能について生理学的に研究する学問。(SK)
plant worm→vegetable wasp
plasmid プラスミド: 細胞内で世代を通じて安定に子孫に維持伝達されるにもかかわらず,染色体とは別個に存在して自律的に増殖する遺伝因子の総称。その因子の存在は,通常,細胞の生存にはあっても無くてもよい。主に細菌細胞内にある因子に対してこの名称が用いられる。プラスミドのうちで宿主染色体の上に挿入された状態に変化できる特殊なものを特にエピソームと呼ぶ。(HW)
plasmodium [pl. -dia] 多核体: 多核性の原虫細胞。多胞子芽(pansporoblast)細胞の母細胞。核の分裂が先行し,最後に細胞の分裂が起こる。(CY)
poison 毒物: 薬局方では,医薬晶中の劇薬と毒薬のこと。広義には,生体の生産する毒素や毒液も含め,さらに比較的強い薬害のある物質すべてを含めて用いられる。(YI)
poisoning→intoxication
poison insecticide 毒剤(消化中毒剤): 口器から消化管内に入って毒カを現わし,中毒死させる殺虫剤で,砒酸鉛砒酸石灰などはその代表的なものである。毒剤は咀嚼口,舐食口を有する害虫に対して使用するのが普通である。(YI)
polar cap 胞子のPAS反応陽性部: 微胞子虫胞子前極部に存在するPAS反応陽性部分。(CY)
polar filament→polar tube
polaroplast 極膜層: 微胞子虫胞子の前端部にある極糸(polar tube)基部を取り巻く薄膜層状構造で,電顕により層状または小胞状に観察される。光顕ではanterior vacuole(前極胞)に相当する。(CY)
polar sac 傘状部: polar capを含む固定板(anchoring disk)で,中央の膨張した部分。光顕で観察した場合,胞子の前端部分が傘状に見えるためpolar sacと呼ばれる。(CY)
polar tube 極糸,極管: sporoplasm(芽体)の送り出し小器官。基部は胞子前極(anterior end)に固定され,本体の細長い管は胞子内で螺旋状に格納されている。(CY)
polyhedral protein→polyhedron protein
polyhedrin ポリヘドリン(多角体タンパク質): ウイルス粒子を取り囲み多角体を形成しているタンパク質のうち最も多くの割合を占めるタンパク質。polyhedrinは核多角体病ウイルスの多角体タンパク質の正式名称となっており,細胞質多角体病ウイルスの多角体タンパク質はこれと区別してCypovirus polyhedrinと呼ばれる。同義語: polyhedron protein, matrix protein, inclusion-body protein, proteinic crystal. (CG)
polyhedron 〔pl.-ra〕 多角体: 包埋体の一種で数多くのウイルス粒子を含んでいる。形状は三次元的には多面体で,1〜15μmの大きさである。多角体タンパク質の合成はウイルス遺伝子に支配されている。感染細胞内に大量に合成されたタンパク質は,ウイルス粒子を包埋しながら結晶化し,多角体を形成する。(CG)
polyhedron protein 多角体蛋白質: 多角体の構成成分のなかで,ウイルス粒子を除いた部分を構成する蛋白質。多角体をアルカリで溶解した後高速遠心分離によってウイルス粒子を沈澱させると,上清に多角体蛋白質が残る。核多角体病ウイルスの多角体蛋白質をpolyhedrinと呼ぶことがある。(TK)
polyhedrosis〔pl.-ses〕 多角体病: 感染細胞内に多角体を形成する昆虫のウイルス病の総称で,核多角体病と細胞質多角体病がある。(TH)
posterior end 後極: 微胞子虫胞子で,前極(anterior end)に対する語。極糸(polar tube)が突出しない方の極。(CY)
posterior vacuole 後極胞: 活性のある微胞子虫胞子や染色した胞子,または微胞子虫胞子の電顕観察の際に顕著な,後極(posteror end)付近に存在する広く透明な部分。(CY)
postparasitic stage後寄生態: シヘンチュウ類における自活生活幼虫。寄生態幼虫は遊出する前に栄養摂取を停止し,新たな表皮を形成する。寄生態幼虫の表皮はそのまま保持され,後寄生態幼虫に環境耐性を付加する。後寄生態幼虫は寄主の節間膜などに,物理的に穴をあけ寄主から遊出する。シヘンチュウ類の寄生による寄主の死亡は後寄生態幼虫の遊出時に起こる体液の流出に起因する。(MY)
pouch ポーチ: Steinernema属線虫の感染態幼虫の腸内に特異的に存在する袋状の構造物。食道のすぐ後ろに位置し,共生関係にあるXenorhabudus属細菌が収納されている。昆虫血体腔内に侵入した感染態幼虫はポーチ内の共生細菌を放出し,共生細菌の産生する殺虫タンパク質などによって宿主昆虫は死亡する。(TY)
predaceous fungi  捕食生菌類: 線虫または他の小無脊椎動物を捕捉し殺す菌類。特殊な捕捉器官,例えば締まるリング,付着性のネット,あるいは付着性のpegなどを形成する。(MS)
predation 捕食: ある昆虫が他の動物を直接に捕えて摂食し,これを栄養源として生活を営む現象で,捕食虫は天敵としての性格をもつのが普通である。捕食虫は,一般に運動が活発で,形態的には,口器や前肢が捕食行動に適するようによく発達している。(YI)
predator 捕食者(=動物,虫): 他の動物を捕えて食う動物。自然界における食物連鎖の中で,小形の食植性動物を食う動物,さらにこれを捕食するより大型の動物へと順次進む関係を捕食連鎖predator food chainとよぶことがある。(YI)
predatory nematode (Predacious nematode) 捕食性線虫: 線虫類,ワムシ類,小型のミミズ類等の無脊椎動物を捕食する線虫類で,口針で刺して体液を吸収するタイプと広い口腔を持ち餌を飲み込むタイプがある。(MY)
preparasite(Preparasitic stage,Infectious stage,Infective stage) 前寄生態: シヘンチュウ類における昆虫へ感染するステージの呼称。卵から孵化した幼虫で,卵内で1期幼虫から2期幼虫への脱皮が起こるため,前寄生態幼虫は二期幼虫。卵内で1期幼虫から2期幼虫への脱皮が起こり,孵化した幼虫が通常,感染期幼虫である。孵化した幼虫が積極的に寄主昆虫を探索して感染するタイプ,成虫が寄主昆虫の食草等に産卵した卵が摂食されて感染するタイプ,中間寄主を利用するタイプなどが知られている。(MY)
prespore  前胞子: 昆虫疫病菌類が形成する球形の細胞。ハイファルボディから出芽で形成され,これがやがて多層の壁をもった休眠胞子に変化する。(MS)
prey 被食者(=動物,虫)(餌動物): 自然界における食物連鎖の中で,捕食動物の食物となる動物。
primary cell T型細胞: PhaseTと同義。現在はPhaseTの方が一般的に使われる。(TY)
primary conidium  1次胞子: 昆虫疫病菌類の形成する胞子の一つ。分生子柄から直接最初に形成される。通常は寄主体表の外側に生じた分生子柄から射出され,病気の伝染の役割を担う。1次胞子が発芽すると発芽管が伸長して菌糸となる場合と,発芽管が伸長せず2次胞子を形成する場合がある。(MS)
primary culture 初代培養: 生体から分離した細胞,組織,器官などを培地に植えこみ,第1回目までの継代をおこなう培養。(SK)
primary parasite 第一次寄生者(=虫): 非寄生性動物に寄生する生物をいう。一般には寄生性昆虫に用いられ,草食動物に寄生する昆虫を指す。(YI)
promastigote プロマスティゴート: トリパノゾーマ科原虫の生活環中に見られる1ステージで,細胞の先端に1本の遊離鞭毛(fllagella)をもち,細胞内前方にはアクソネマ(axoneme軸糸)およびキネトプラストが位置する原虫細胞。(CY)
propagative adult, propagative juvenile 増殖型成虫: 増殖型幼虫.広義の昆虫嗜好性線虫において,虫体外で生活史を完結している状態の成虫,幼虫ステージ。糸状菌食,バクテリア食などで生活する。(NK)
prophylaxis 予防: 病気の発生を予測し,前以てその発生を防止する手段を講ずること。(HW)
proto-parasite→primary parasite
protoplast プロトプラスト: 細胞壁のない細胞。人為的には酵素処理などで細胞壁を除去して作るが,自然でも,昆虫疫病菌類が寄主の血体腔内で増殖するときには,しばしばこの状態になる。細胞壁を持たないことで,寄主による認識を回避していると考えられている。(MS)
provirus プロウイルス: ウイルス粒子としてではなく,DNAの状態で宿主のゲノムに組み込まれ,感染を引き起こさない状態にあるウイルスをいう。(CG)
pseudopodium [pl.-a] 仮足: アメーバ類で見られる細胞体からの突出部。原形質流動によって一時的に形成され,細胞体の移動や食物粒の取り込みに利用される。(CY)
public nuisance 公害: 人問の社会構造の中からかもし出される人問生活に害毒となる現象で,臭気・ガス・鉱毒・放射能などによる大気汚染や河川または海洋の汚染,雑音・振動などが包含される。養蚕において公害をうける場合としては,桑園のうける煙害や塵,桑葉を通して蚕に被害を与える場合,また蚕に直接及ぼす煙害などがあり,公害を与える場合としては蚕種製造所から付近桑園に及ぼす病虫害,製糸工場からの臭気と河川の汚染,精練工場からの河川の汚染などがある。(YI)
pure culture→axenic culture



〔Q〕
quorum sensing 密度認識機構: 細菌の密度認識機構。細菌が産生するオートインデューサーと呼ばれる物質を介して細菌は密度を認識し,様々な遺伝子発現を調節する。そのため細菌の病原性に大きく関係する。(TY)



〔R〕
rachis (pl. -chides, -chises) ジグザグ軸,胞子形成軸: 不完全菌類の分生子形成細胞で,Beauveria属に代表されるようなシンポジオ型で軸が伸長するものにみられる。分生子形成細胞は,最初の分生子を生み出した場所のわきが伸長して反対側に次の分生子を生み出す。これを繰り返すことで,分生子形成細胞はジグザグに伸長した軸を有することになり,それをrachisと称する。(MS)
recombinant virus 組換えウイルス: 他の生物(あるいはウイルス)のDNA断片を導入して改変したウイルスのこと。殺虫効果を高めるために,昆虫に特異的な毒素遺伝子を導入した核多角体病ウイルスが作られた例がある。バキュロウイルス遺伝子発現ベクターも組換えウイルス技術を応用したものである。(CG)
regeneration 再生: 個体の一部分(細胞,組織,器官)が何らかの形で失われた場合,それに該当する部分の補われる現象。(SK)
repellent 忌避剤: 害虫や有害動物が嫌うにおいや味を有し,害虫などから作物や人畜を守るために用いる薬剤。昆虫の移行防止,摂食阻止または産卵防止などを目的とし,多くの殺虫剤には忌避効果はあるが,その程度に差がある。(YI)
reservoir  感染源: 元来の意味は,貯蔵所・貯水槽のこと。感染に関して用いる場合は,病原体の生存,増殖あるいは成長のために欠かせない生物的または非生物的素材を意味する。例えば寄主不在の間土壌で過ごす昆虫疫病菌類の休眠胞子にとって,土壌はreservoirである。(MS)
resistance 抵抗性: 病気,薬剤,放射線,不良環境などのうち,ある特定の要因に対して抵抗し,その要因に影響されにくい性質あるいは能力。抵抗性の程度を抵抗力という。蚕では,不特定多数の不良環境条件に対する抵抗性を特に強健性とよぶことがある。(SK)
resting spore 休眠胞子: 乾燥その他の不適な条件に耐久性を持つ厚膜の胞子,休眠期問終了後(しばしば越冬後)には発芽する。昆虫疫病菌類の接合胞子や単為接合胞子,Lagenidiumの卵胞子などがこれにあたる。(MS)
rhizoid 仮根: 菌糸(菌体)または子実体から基質上(中)に生じた分枝した根状構造。付着,支持,吸収など多様の機能を持つ。疫病菌類ではこれの有無や構造が菌種識別の手がかりの一つになる。(JA)
ryokkyo disease 緑きょう病: 〔病原菌学名Nomuraea rileyi (Farlow) Samson〕硬化病の1種。各種の鱗翅目幼虫に感染する。クワノメイガやフタオビコヤガなどを通じて飼育室内のカイコにも伝染するので有名。罹病虫は褐色〜黒色の大形病斑を形成する。潜伏期問は長い。死体は硬化し,鮮やかな緑色の分生子でおおわれる。なお,欧米で"green muscardine"と呼ばれているのは日本の黒きょう病であり,本病ではないから注意を要する。(JA)"



〔S〕
sacbrood サックブルード: ミツバチのウイルス病で,主として前蛹期の有蓋蜂児がこれに侵されて斃死する。罹病虫は大量の脱皮液が旧皮と幼虫体の間にたまるため,黄色を帯びた袋状の外観を呈する。死体は乾燥して黒っぽい薄片状になる。病原は,イフラウイルス科イフラウイルス属 (Iflavirus)の1本鎖RNAウイルスで,ウイルス粒子の直径は28nm。(CG)
schizogony 分裂生殖期: アピコンプレックス門の原虫や微胞子虫類における無性生殖期(発育増殖期)で,1母細胞または多核体(plasmodium)から2分裂または多重分裂により2以上の娘細胞が産生される。(CY)
schizont シゾント,分裂子(meront,メロント): アピコンプレックス門の原虫や微胞子虫類の生活環のうち,分裂生殖期(schizogony)にある細胞をいう。(CY)
secondary cell U型細胞: PhaseUと同義。現在はPhaseUの方が一般的に使われる。(TY)
secondary conidium〔pl. -dia〕 第二分生子(第二胞子),二次分生子(二次胞子): 昆虫疫病菌の1次胞子から形成される胞子。1次胞子から直接形成される場合と,分生子柄を伸ばしてその先端に形成される場合がある。その形成状態は菌種の識別の手がかりの一つになる。とくにアーモンド形で,毛細管状の分生子柄に形成される2次胞子は,capilliconidia(毛細管胞子)と呼ぶ。(MS)
secondary infective form 二次感染体: 微胞子虫Nosema bombycisの生活環中に出現する伝播型細胞で,生活環の早期に形成される胞子(自己感染型胞子autoinfective spore,早生型胞子primary spore,短極糸型胞子short-coiled spore)が自発的に発芽して放出される感染体をいう。すなわち,宿主個体間の感染伝播に寄与する芽体(一次感染体,sporoplasm)に対応する語で,宿主個体内での感染の伝播に関与する。(CY)
secondary parasite 第二次寄生者(=虫)(重寄生虫): 非寄生性動物に寄生する寄生者(第一次寄生者)に寄生する寄生虫。同様に,第二次寄生者にさらに寄生するものを第三次寄生者(tertiary parasite)という。(YI)
secondary spore→secondary conidium
sekishoku-okyo disease →rose-colored muscardine
septicemia 敗血症: 昆虫の体液中で細菌が増殖することによりひきおこされる疾病。(HI)
serotype 血清型: 細菌分類の指標の一つとして用いられている抗原型のことである。細菌の鞭毛抗原によるH型と菌体表層抗原によるO型とがある。(HI)
sigma virus σウイルス: ショウジョウバエの炭酸ガス感受性の原因となるウイルス。ウイルス粒子は70×140〜180nmの大きさの弾丸状で,単鎖RNAを含むとされている。(TH)
silkworm maggot→silkworm techina fly
silkworm tachina fly カイコノウジバエ(きょうそばえ) 幼虫名きょうそ: 〔学名Blephoripa zebina Walker)双翅目ヤドリバエ科に属し,蚕を始め20種以上の鱗翅目幼虫の体内に寄生する。年1回の発生。土中で蛹越冬。4〜5月に羽化する。桑や広葉樹の葉裏に産卵し,幼虫が食下して寄生を受ける。蚕に寄生すると中腸内で艀化した幼虫は神経球に移り,更に気門に尾端をつけて定着し栄養を奪取,組織を食害して成熟,蚕の営繭後に脱出,土中で蛹化する。明治から昭和前期までは養蚕の大害虫として恐れられた。(YI)
smoke injury 煙害: 工場,鉱山などの煙による被害。煙に含まれる亜硫酸ガス・ふっ素化合物・エチレン類・オゾン窒素化合物などが作物に種々の生理障害を引き起こし,あるいは質を悪化する。汚染された桑葉が蚕に害を与えることもいう。(YI)
soil persistent pesticide 土壌残留性農薬: 農薬取締法による指定農薬。土壌中での残留性が強く,使用規準以外の方法で施用した場合に,土壌中の残留農薬により汚染された農作物の利用が原因で,人畜に被害のおそれのある農薬。アルドリンを含有する農薬はその例である。(YI)
spherioidosis 昆虫ポックスウイルス病: 2本鎖DNAを含む卵形ないし煉瓦型の大型ウイルスによってひき起こされるチョウ目ならびにコウチュウ目の病気で,球形の包埋体(spheroid)が感染細胞の細胞質中に形成されるのがその特徴である。昆虫によっては,このほかにウイルス粒子を含まない紡錘形のタンパク質結晶体(spindle)が形成される。病原ウイルスはEntomopoxvirinae (エントモポックスウイルス亜科)に属する。(CG)
spindle 紡錘体: 封入体の1種。昆虫ポックスウイルスに感染した細胞に形成されるウイルス粒子を含まない紡錘型のタンパク質結晶体。(CG)
sporangiospore 胞子のう胞子: 胞子のう(sporangium)中で内部の原形質が分割して形成される無性胞子。この胞子が鞭毛を持ち運動性がある場合,それを遊走子(zoospore)と呼び,その胞子のうを遊走子のう(zoosporangium)と呼ぶ。遊走子を形成する昆虫寄生菌としてはボウフラ菌がある。(JA)
sporangium (plural: -ia) 胞子のう: 菌類の袋状の構造で,その中で原形質が一つまたはそれ以上の胞子に変化するもの。(MS)
spore 胞子: ある種の細菌,原生動物,全ての菌類,藻類,下等植物が形成する(非栄養的)生殖構造の総称。有糸分裂か無糸分裂のどちらに由来するかによらず,ふつう,環境耐性のある分散単位として機能する。病源微生物にあっては,胞子(あるいはその発芽した構造物)が普通は感染単位である。(MS)
sporoblast スポロブラスト,胞子芽細胞: 胞子になる前段階の細胞。sporont(胞子芽母細胞)の分裂により生ずる。微胞子虫類ではpansporoblast(多胞子芽細胞)型とapansporoblast(非多胞子芽細胞)型がある。(CY)
sporodochium〔pl. -chia〕 分生子座(スポロドキア): 分生子柄がクッション状に密に集合したもの。培養下での形成はむずかしい。Fusarium cocophilumなどが形成する。(MS)
sporogony 胞子芽形成: sporoblast(胞子芽)を生ずる分裂生殖。しばしばsporulation (sporogony+sporemorphogenesis)の意味で使用される。(CY)
sporont 胞子芽母細胞: sporoblast(胞子芽)になる前段階の,単核または連核の細胞をいう。sporontの分裂生殖によりsporoblastができる。(CY)
sporophorous vesicle スポロフォラス嚢: 微胞子虫類のうち,多胞子形成性のものに認められる胞子を包む嚢。
sporoplasmスポロプラズム,芽体: 微胞子虫類が宿主昆虫に感染を開始する際,胞子から突出した極糸(polar tube)を通って宿主に注入される胞子の原形質をいう。一次感染体。
Sporozoite スポロゾイト: アピコンプレックス門の原虫で,胞子形成過程において胞子原形質の分裂により形成される鎌型の細胞体。(CY)
stichocyte スティコサイト: Stichosomeを構成する個々の細胞。(MY)
stichosome スティコソーム: 食道筋の外部にある一連の食道腺(Esophageal gland)群。シヘンチュウ類では8個から16個の直列に並んだ食道腺細胞(Stichocyte)から成る。(MY)
stone brood disease ストーンブルード病: Aspergillus flavus, まれにA. fumigatusなど,Aspergillus属菌の寄生によるミツバチの病気。成虫よりも幼虫が感染しやすい。罹病した幼虫や蛹の死体は白色綿毛状の菌糸,さらに淡褐色または黄緑色の分生子を形成する。死体が石のように硬くミイラ化するのでこの名がある。成虫の場合も腹部がミイラ化する。発病はミツバチが何らかの原因で弱った時に限られ,養蜂上重視されていない。(MS)
strain 系統(菌株): 共通の親に由来し,遺伝子型の等しいか近似した個体群。系統の特徴として許される範囲内での変異は含まれるが,自殖をつづけることにより差のいちじるしい集団の生じたときには,これを分離して他の系統とする。微生物の場合はとくに菌株という。ウイルスについては理化学的あるいは血清学的に異なる性状を示す分離株をいう。(TH)
strain, cell strain 菌株: 菌や細菌を分離して純粋培養し,植え継いで継続培養するとき,その系統を菌株系統といい,その系統の各個体を菌株という。単細胞培養をして植え継いだときすなわち無性的に個体数を増加させた場合,その全個体の1群をクローンという。(TH)
straw itch mite シラミダニ: 〔学名Pyemotes ventricasus Newport〕膜翅目,鞘翅目,鱗翅目の幼虫や蛹の体表に寄生する。雄は小さく約0.2mm,雌は成熟すると腹部に仔虫が充満して1.2mmに達する。胎生である。宿主に口吻をもって穿孔し養分を摂取するが,この時,唾液に毒素を含み,宿主を死亡させる。蚕室の建築材,蚕具類などと共にシラミダニが寄生した昆虫が持ち込まれた場合に蚕に寄生して突発的に大きな被害を及ぼすことがある。(YI)
stroma (pl: -mata) 子座: 子のう菌類や不完全菌類が形成する偽組織で,菌糸が密に集まり内部または外部に胞子形成構造を生じるもの。昆虫病源菌類にあっては,例えばCordyceps類は寄主昆虫の感染死体内部の菌核から,子のう殻,子のう,子のう胞子を生み出す1つ以上の直立した茎のような子座を生じる。(MS)
stylet(Spear) 口針: 植物寄生性線虫,動物寄生線虫,捕食性線虫,糸状菌食性線虫等様々な線虫類に見られる,栄養摂取器官。シヘンチュウ類では前寄生態幼虫に見られるが,栄養摂取器官ではなく,感染のための器官。クチクラ感染を行うとき,口針を使ってクチクラを破る。(MY)
sub-acute toxicity 亜急性毒性: 農薬等の薬物を供試動物に反覆処理した場合,一般に処理後1〜3ヵ月間に生体の機能または組織に障害を与える性質。蚕の場合は,農薬等による汚染桑の1日間給与または1回の局所塗布などにより,その数日後または次の齢期以後に障害を与える毒性。(YI)
susceptibility 感受性: 一般には有機体が内外界の刺激を受容する能力をいう。狭義には物理・化学的刺激に対する感覚器官の反応に用い,sensitivityを用いる。農薬や病原に対する昆虫の感受性の場合にはsusceptibilityを用いる。(SK)
symbiosis 共生: 異種の生物が一緒に生活している現象。(SK)
symbiote 共生者: 共生で生活している生物。(SK)
sympodioconidium,〔pl. -dia〕 シンポジオ型分生子: 不完全菌類の分生子の形成様式の一つで同定の重要な決め手となる。分生子形成細胞が最初の分生子を形成した後,次の分生子が同じ場所から生み出されず,その脇から形成される。これを繰り返す結果,分生子形成部位はジグザグ状,或いは不規則な菌芽状となる。昆虫病原菌ではBeauveriaが代表的。この方式で分生子を生み出す分生子形成細胞をsympodula(シンポジュラ)と呼ぶ。(MS)
sympodio spore→sympodioconidium
symptom 病徴(症状): 感染によって生じた宿主の組織・機能・行動などの外的変化。symptomは機能的変化,signは組織的変化を意味する。(SK)
synanamorph  シンアナモルフ: 一つの子のう菌が形態的に異なる二つ以上の無性時代アナモルフを持つとき,一方の名前に対して,他方をそのシンアナモルフと呼ぶ。例えば,クモに寄生する子のう菌のTorrubiellaは,アナモルフとしてGibellulaとGranulomanusの二つの異なる形態をもつ。(MS)
syndrome 症候群: ある病気に伴なって発生する一連の症侯。(SK)
synergism  共力作用: 2種類の病原あるいは物質間で観察される協力的な作用。2つが同時に作用することによって,それぞれが単独で及ぼす作用の合計よりも大きな効果が得られる,あるいは効果が長く続くような場合を指す。(CG)
synnema〔pl. symemata〕 分生子柄束: 菌糸が集まって束になり直立し,表面に無性胞子(分生子)が形成される構造物。硬いものから軟らかいものまで,菌糸の密度は様々。昆虫に寄生性を持つ不完全菌類中,Akanthomyces,Beauveria,Gibellula,Hirsutella,Hymenostilbe,Isariaなどの菌種は,大きさや形状にそれぞれ特徴を持った分生子柄束を寄主昆虫の死体上に形成する。coremium(コレミウム)もほぼ同様の意味だが,どちらかというとsynnemaの方が結束が密で硬いニュアンスがある。(MS)
systemic insecticide 浸透殺虫剤: 植物の葉・茎・根などから浸透して植物全体にゆきわたり,その植物を加害する害虫を殺す機能をもつ殺虫剤。これにはペストックス,セレン酸ソーダ,シストックスなどがある。(YI)
syzygy 連接: 胞子芽形成(sporogony)により分裂生殖する前,一時的に雌性および雄性の原虫細胞が密着した状態をいう。(CY)



〔T〕
teleomorph  テレオモルフ,有性時代: 菌類の生活環で,有性胞子を生じる時期,すなわち完全世代の形態のこと。反: anamorph(アナモルフ)。テレオモルフとアナモルフを合わせた一つの種の全形態をホロモルフ(holomorph)という。(MS)
tobacco poisoning of silkworm タバコ中毒蚕: タバコ発散物,特にニコチンによる中毒蚕で,上体を左右に振り,胸部を膨らませ,黒褐色の吐液をし,腹部または背部に彎曲し仮死状態などの症状を示す。早目に新鮮空気,新鮮無毒桑を与え回復を計る必要がある。(YI)
takaseisanso disease 多化性蚕そ病(多化性きょうそ病): クワコヤドリバエ(Exorista sorbilans Wiedemann)の成虫が蚕の体表に産卵し,艀化した幼虫が皮膚を穿孔して体腔内に侵入,諸組織を食害するために起こる病気。3,4齢に寄生を受けると結繭前に死亡するが,5齢の場合は営繭後蛹化することなく死にごもりとなる。我が国では夏秋蚕期に一部の地域にまれに発生する程度で被害は少ない。東南アジア諸国,韓国および中国などでは発生が多く,その被害が著しい。(YI)
teratology 奇形学: 奇形を研究する生物学の一分科。(SK)
therapeutics 治療学: 病気を治す種々の方法を研究する学問。(HW)
therapy 治療: 種々の方法を用いて病気の軽減や健康の回復をはかること。(HW)
threadworm (Roundworm) 線虫類: 線虫類の俗称。特に,脊椎動物寄生性の線虫類に対して使われる。(MY)
tissue culture 組織培養: 多細胞生物の個体から無菌的に組織または細胞群をとり出し,生かし続ける技術。(SK)
topical application 局所施用: 生体の一部に薬剤を施すこと。応用昆虫学では,皮膚透過性の薬剤を昆虫の体表の一部に塗布,あるいは滴下して与えることをいう。(YI)
trans ovarial transmission 経卵巣伝達: 経卵伝達(trans ovum transmission)のうちの特別な伝達経路として,母体から卵への微生物の移行が卵巣内で起こる場合をいう。(CY)
trans ovum transmission 経卵伝達: 微生物が卵を通して次代に伝わること。卵の表面が微生物に汚染されることによって次代に伝達される場合も含まれる。微生物の移行が卵巣内で起る場合を経卵巣伝達(trans ovarian transmission)とよんで区別することがある。(SK)
trauma 外傷: 動物の体が直接強い接触によってもたらされる傷害。(SK)
trophosomeトロホソーム: 腸(intestine)が変形した栄養分貯蔵器官のことを指す。特にシヘンチュウ類で発達している。シヘンチュウ類は栄養摂取をする期間は寄生態幼虫(Parasitic stage)のみで,後寄生態幼虫(Postparasite)および成虫は栄養摂取を行わず,トロホソームの貯蔵養分を利用して,耐久生存・性成熟・産卵等を行う。(MY)
trophozoite 栄養体: アピコンプレックス門の原虫において,運動性および摂食能力をもつステージ,または鞭毛虫類の運動性細胞をさす。成長して分裂子(schizont)となる。(CY)
trypanosomiasis トリパノゾーマ症: トリパノゾーマ科原虫による感染症。(CY)
trypomastigote トリポマスティゴート: トリパノゾーマ科原虫の生活環中に見られる成育ステージで,核の後方にキネトプラスト(kinetoplast)が位置する。細長い葉形の細胞で,波動膜をもち,1本の鞭毛は通常遊離鞭毛となっている。(CY)
tumor 腫瘍: 生体を構成する細胞自体から生ずる過剰増殖を示す細胞の集団。(SK)



〔U〕
uterium ウテリウム: .Sphaerularia属線虫の寄生態雌成虫の栄養摂取・繁殖器官.線虫体内から外反した雌生殖器官が肥大したもの。(NK)



〔V〕
varied carpet beetle→cabinet beetle
vector 媒介生物: 異種生物にとって病原となる微生物の移動分散を担う節足動物やその他の生物を言う。病原微生物がその感染環を完結するために媒介生物が不可欠である場合と,そうでない場合がある。不可欠でない場合,"mechanical vector" あるいは運搬者と呼ばれることもある。(CG)
vegetative stage 栄養生殖期: 宿主細胞に侵入した原虫および微胞子虫が展開する生活環の中で,胞子産生の諸段階を除いた部分。分裂子(schizont)の分裂増殖。この最終段階に,胞子芽母細胞(sporont)への分化が起こる。(CY)
vegetable wasp 冬虫夏草菌(虫草): 冬虫夏草を表す英語,1892年に出版された本のタイトルVegetable Wasps and Plant Wormsに由来する。ただし大きな辞典にも,英語の昆虫病理用語集にも載っておらず,事実上は死語。冬虫夏草類は,子のう菌類ボタンタケ目(Hypocreales),ノムシタケ属の菌の総称で,約300種が知られている。従来Cordyceps属という名で知られていたが,最近は系統分類によりCordyceps,Elaphocordyceps,Metacordyceps,Ophiocordycepsの所属に細分されている。ほとんどが昆虫病原菌で,わずかにクモや菌,高等植物に寄生するものもある。昆虫の死体上に棍棒状などの珍奇な形をしたきのこ(stroma, 子座)を生ずることで有名。(MS)
vertical transmission 垂直伝播: 親から子へ病原が伝わること。広義には病原が種々の経路である世代から次世代の個体に伝わることをいう。(HW)
viral flacherie ウイルス性軟化病: (1)ウイルスに起因するいわゆる軟化病の総称。(2)=伝染性軟化病。(TH)
virion ウイルス粒子(ビリオン): ウイルスの成熟した形態。ウイルスが生活環の最後にとる形態。感染性などの生物活性のあるなしにかかわらず,成熟粒子の形態学的条件を備えている場合にこのように表現する。Baculovirusのウイルス粒子はヌクレオカプシドがエンベロープに包まれた形をしているが,エンベロープを持たないウイルスではヌクレオカプシド=ビリオンとなる。多数のヌクレオカプシドが共通のエンベロープに包まれている場合に,これを多カプシドウイルス粒子と呼ぶ。(CG)
virogenic stroma 〔pl. stromata〕 ウイルス産生基質: ウイルス感染に伴って,細胞内に現われる構造で,ウイルスの素材となるタンパク質や核酸の合成が行われる場所。(TH)
virulence 毒力(毒性): 病原性とほとんど同義であるが,「遺伝的に明確でない種々のクロン・系統あるいは株などの,ある特定宿主に対する病原性の違い」として病原性と使いわけている。ウイルスの場合に多く使われる。(→病原性)。(SK)



〔W〕
white muscardine 黄きょう病: 硬化病の1種。Beauveria bassianaによって引き起こされる。宿主域が広く最も普通種の昆虫病原菌で,微生物的防除にも利用される。分生子の色は変化に富み,純白でカイコに特異的に病原力が強いものは白僵病,淡黄色で野外昆虫にも広く感染するものを黄僵病と呼び,かつては異なる菌による病気といわれていたが,どちらもB. bassianaが病原菌であることが多い。正しくは検鏡して同定する必要がある。なお,最新の系統分類によると,現在,形態的にはB. bassianaと呼ばれて1種とされているが,系統的に異なる潜在種を含んでおり,将来的には複数種に分けられると考えられる。(MS)
wild type 野生型: 自然に最も普遍的に見られる標準の形質型突然変異型に対比しての標準型である。(HI)
wilt disease 梢頭病: マイマイガの類(Lymantria属)の核多角体病。罹病幼虫の行動が異常になり,梢頭に集まって死亡するために,この名がつけられた。(TH)
wipfelkrankheit→wilt disease



〔Y〕
yeasts 酵母: 菌類の形態の一つ。単細胞で,無性的に出芽で増える。普通,子のう菌類について使用されるが,分類群ではない。昆虫病原菌類では,多くの硬化病菌類や冬虫夏草類が,昆虫の血液中で酵母状(ハイファルボディ)になって増殖する。また,Akanthomyces,Nomuraeaなどは固形培地上でもしばしば酵母状になる。このような状態をyeast phaseと呼ぶ場合もある。(MS)



〔Z〕
zoosporangium 遊走子嚢: ツボカビや卵菌類の形成する胞子嚢で,鞭毛をもち運動性のある遊走子がその中に形成される。(MS)
zoospore 遊走子: 運動性で,単一の(ツボカビ類),あるいは二毛(卵菌類)鞭毛をもち,細胞壁をもたない(プロトプラスト状)の胞子で,無性の繁殖体として,またある場合には運動性の配偶子として機能する。(MS)
zygospore 接合胞子: 配偶子のう接合によって生じた厚膜,耐久性の休眠胞子。接合菌類に特徴的で,昆虫病原菌としては疫病菌類が寄主体内でこれを形成する。(JA)