火山堆積物の多い地域やマングローブ林が発達した沿岸地域にはパイライトと呼ばれる硫化物を多量に含む底質・鉱物が分布し、これが干拓や大規模開発などにより地表面に露出すると、化学的・微生物的に酸化作用を受け、硫酸が生成することで土壌が極端に酸性化する。


 このようなプロセスで生成した土壌は特に酸性硫酸塩土壌と呼ばれ、pHの低下により可溶化するアルミニウムやマンガンに起因する植物の生育阻害や窒素やリン酸など必須養分の不足が原因となり、植生の定着が妨げられる(上図)。

 しかし、そのような極限環境にも最初に侵入・定着するいわゆるパイオニア植物が存在する(写真は幡豆町の酸性硫酸塩土壌のススキ)。これら植物のストレス環境への適応機構には不明な点が多いが、 ミネラルを供給するアーバスキュラー菌根菌や根粒菌などの微生物との栄養共生により貧栄養環境に適応することもその戦略の一つである。

 特にススキやハギの仲間など耐酸性の高い植物においては、アーバスキュラー菌根菌や根粒菌との共生によるミネラル獲得によって、酸性硫酸塩土壌などの強酸性土壌での定着・生長が著しく促進される(上図、 Maki et al., 2008)ことから、荒廃地においては、微生物との栄養共生が植物の生存戦略の一つとして極めて重要な役割を果たしていると考えられる。


 しかし、荒廃地における植物共生微生物の生態についてはこれまでほとんど情報がない。これは、今までの共生微生物の研究が、主に農地や草地、森林など植生の豊かな生態系に偏っていたためである。


 本プロジェクトでは、荒廃地における植物共生微生物の生態調査(たとえば Maki et al., 2008; An et al., 2008)を通じて、ストレス耐性の高い、いわゆる「パイオニア共生菌」の探索・分離とその生理的性質の比較解析を行い、共生微生物を利用した荒 廃地の緑化修復技術の基盤を築くことを目指している。


 最近の成果を読みやすい総説にまとめました(江沢・河原, 2012)。



---> 我々のグループの分離株を使った強酸性土壌の緑化工法が開発されました!

   (緑化工学会誌技術報告

荒廃地の植生を支えるアーバスキュラー菌根菌

—荒廃地における生態と緑化修復への応用—