イネのアルミニウム耐性に関する研究

 イネは日本だけではなくアジアを中心とする世界各地で栽培される世界三大穀物の一つである。多くの酸性土壌ではpHの低下に伴い溶出するアルミニウムイオンによる根の障害により作物の生育は阻害される。アルミニウムに対する様々な耐性機構が報告されているが、イネはアルミニウム耐性が非常に強いにもかかわらず、それに寄与する主要な耐性機構については現在もはっきりしていない。そこで我々は根の構造的な特性とアルミニウム耐性の関係について研究している。

イネにおける根端細胞の電気化学的特性とアルミニウム耐性の関係

 イネはアルミニウム耐性が強いにもかかわらず、有機酸分泌などの既知のアルミニウム排除機構は主要な耐性機構として持っていない。我々は異なるアルミニウム耐性のイネ品種に対してアルミニウム、ストロンチウム、およびバリウムのストレスを低pH条件下で与えてみた。その結果、アルミニウム耐性とストロンチウム、バリウム耐性はほぼ一致した(図1)。このことは、イネにおけるアルミニウムの毒性/耐性に根細胞表面の負電荷が関与することを示唆するものである。

 

図1. イネ5品種のアルミニウム、ストロンチウム、バリウム耐性とCa添加の影響
RRE:相対根伸長量(50 μM Ca、pH4.2での伸長量に対する相対値)。+Ca:500 μM Ca、+Al:50 μM Al/50 μM Ca、+Sr:450 μM Sr/50 μM Ca、+Ba:450 μM Ba/50 μM Ca(以上の処理は全てpH4.2)、pH5:50 μM Ca、pH5、pH5+Ca:500 μM Ca、pH5。

イネの根細胞膜脂質の組成とアルミニウム耐性の関係

 植物の根細胞膜(原形質膜)の膜構造は脂質の二重層により構成されるが、その主成分であるリン脂質は頭部にリン酸基を親水基として持つ。このリン酸基は根細胞に負電荷を与えることに加え、アルミニウムイオンに対して親和性が高い。このリン酸基とアルミニウムイオンの結合が細胞膜の機能を阻害し、養水分吸収の低下や細胞成長阻害を引き起こすと考えられている。そこでリン脂質を、頭部に糖を持つガラクト脂質に代えることでアルミニウム耐性が向上するのではないかと考えた。植物はリン欠乏条件下でリン脂質をガラクト脂質に変換させるため、リン欠乏条件下とリン十分条件下で栽培しアルミニウム耐性を比較したところ、リン欠乏条件下で栽培したほうが根のアルミニウム集積量は減少し、アルミニウム耐性が強化された(図2)。



図2. リン欠乏によってリン脂質がガラクト脂質に変換され、イネのアルミニウム耐性が強化される(上図)。根のアルミニウム集積量もリン十分条件(+P)よりリン欠乏条件(-P)で大きく低下する(下図)。

 

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