植物は葉で光エネルギーを利用して２酸化炭素(CO2)と水(H2O)より炭水化物を合成し、根で無機養分を吸収し、これらの光合成産物と無機養分を利用して植物体構成成分を合成し、生長・維持を行っている。従って、植物の生長を理解するためには炭素同化機構と養分吸収機構およびその相互作用を解明する必要がある。作物栄養学実験では、植物栄養生理に関わる基本的操作を習熟する事を目的とする。実際に生育している植物体の生長量を測定し、光合成産物である糖・デンプンの定量、さらには光合成能を支配する様々な成分のうちクロロフィルの抽出・定量法を修得する。また水耕培養法を用いて栽培し、無機成分（N, P, K, Fe,
Si)の分析を通して養分吸収機構を調査する。さらに、Pを欠如させた培養液を与えて栽培した場合の植物体の生長量、養分含有率に与える影響を明らかにし、植物の低リン状態への耐性機構の一つとして知られる分泌性酸性フォスファターゼの根圏への分泌の確認、根におけるそのmRNAの発現の誘導を確認する。
目次
1. 植物栽培法 ---
2. 植物体採取・試料調整法 ---
3. 生長解析法 ---
4. 無機成分分析法 ---
5. 糖・デンプン・脂質測定法 ---
6. タンパク質分析法 ---
7. mRNA分析法 ---
8. 分泌性酸性フォスファターゼの確認法 ---
9. クロロフィル測定法 ---
10. 発表方法 ---
なお、２００３年から実験の基礎の項目は土壌学分野との合同の実験項目としました。
こちらをご参照ください。実験の基礎
1 µg = 10-6 g 1 ng = 10-9 g 1 pg = 10-12 g G = Guga = 109 M = Mega = 106 k = kilo = 103 m = milli = 10-3 µ = micro = 10-6 n = nano = 10-9 p = pico = 10-12 f = femto = 10-15 a = atto = 10-18
1.植物栽培法
1-1原理：植物は無機養分のみを含んだ培養液によって育てることが可能である。水耕法は養分の組成や濃度を正確に管理することができるため、植物の栄養生理研究には欠かせない手法の一つになっている。水耕栽培は Sachs(1860)とKnop(1862)によって始められ、その後、Hoagland and
Arnonによって基本培地がほぼ確立され今日でも広く水耕実験に利用されている。わが国ではイネを中心として水耕栽培法の研究が進められ、春日井、木村、石塚などによる培地が現在でも使用されている。しかし、作物ごとに栄養特性が異なる場合が多く、単一の培養液組成で全作物を生育させることは困難である。そこで代表的な作物に適した共通培養液組成と栽培法を示す。
（１）植物育苗と移植
植物種子を1.0-1.5%次亜塩素酸ナトリウムで1-10分間（マメ科は１分、イネ科は１０分など）ほど振盪して殺菌し、脱塩水で良く洗浄する。畑作物ではバーミキュライトかパーライトあるいはその混合物に播種する。
（2）通気
水耕栽培では根に酸素を十分供給しなければならないが、その程度は作物により異なる。イネは通常通気を行なわなくてもよいが、ダイズ、コムギなどの畑作物は一般に耐湿性がやや弱い植物なので通気の他に培養液の水位をやや下げ、根の上部が直接空気に接するように栽培する。
（3）水
実験の目的に応じて、地下水、水道水、蒸留水、脱塩水を使用するが、通常は脱塩水を使用する。ケイ素や糖などの非イオン性成分を除去したい場合には、脱塩水を蒸留した後に使用する必要がある。
（4）pHの調整
培養液のpHは携帯用のpHメーターを用いて測定し、pH調整には各班で調整した酸（1N, 0.1N H2SO4）やアルカリ（1N, 0.1N NaOH）を使用する。水道水を使用する際には、緩衝力が強いので、培養液交換の前日にpHを合わせ放置したものを当日再度調整してから使うと良い（作物栄養実験では脱塩水を使用すること）。培養液のpHは養分吸収とともに変動するので最低１日に１回は調整するのが望ましい。通常の試験ではpHは5.0-5.4に調整する。pHが5.5以上になると特にFeが沈殿し、Fe欠乏を引き起こすので注意が必要である（培養液のpHの調整の際に過剰量のアルカリを添加した結果、沈殿が生じた場合はやり直し）。
（5）培養液組成
Sachs液以来、培養液組成は多数考案されている。畑作用としてHoagland液が現在でも広く使用されているが、濃度が高いため１／２濃度液として使用される場合が多い。北大作物栄養学講座で一般に使用しているストック液の培養液組成を以下に示す。ただし今回は、少量しか使用しないのでストック液は作成しない（使用塩量を間違わないように）。
１）Hoagland および Arnon の培養液
______________________________
m mol
KNO3
5
Ca(NO3)2 5
MgSO4・7H2O 2
KH2PO4 1
______________________________
微量要素(ppm) Fe:3, Mn:0.5, B:0.5, Zn:0.05, Cu:0.02,
Mo:0.02
2）北大培養液組成 （こちらを作成する）
_________________________________________________________
要素 濃度 使用塩 希釈率 使用塩量(g)
チェック欄
ppm
多量要素 (g / 20 L)
N 30 (NH4)2SO4 500 1415.10
P 0 or NaH2PO4・2H2O
10 500 503.7
K 30 K2SO4 (15ppm) 500 334.25
KCl (15ppm) 286.01
Ca 50 CaCl2・2H2O 500 1834.05
チェック欄
Mg 20 MgSO4・7H2O 500 2027.64
微量要素 (g / 10 L)
Fe 2.0 FeSO4・7H2O 2000 199.12
Mn 0.5 MnSO4・4H2O 2000 40.60
B 0.5 H3BO3 2000 57.195
Zn 0.2 ZnSO4・7H2O 2000 17.59
Cu 0.01 CuSO4・5H2O 2000 0.786
Mo 0.005 (NH4)
6・Mo7O24・4H2O 2000 0.184
尚、必須元素であるSは硫酸根として含まれている量で十分である。
1-2ルーピンの栽培
播種
水道水中で催芽処理を二日間行った種子を用いる。各自きちんと発芽している種子を１０粒を４リットル培養液を加えた５リットルバケツに移植する。移植はスタイロフォームのふたに穴があいているので、これに入れ、脱脂綿を用いて固定する。
培養液の作成
培養液を各班で必要量作成する。途中で培養液の交換を行うので、その点を考慮すること。窒素とカリ（一緒に）、リン、カルシウム、マグネシュウムは、まず必要濃度の１００倍相当分を500ml作成する。なおリンを含まない培養液も用意すること。各試薬を別々に約300mL脱塩水を予め入れておいた500mLビーカーに、ガラス棒で撹拌しながら溶かし込む。完全に溶解したら、必要量を残し後は捨てる。大きな容器が無いため、３リットルずつ作成する。３リットルのガロン瓶に１リットル脱塩水をまず加え、続けて必要量の各養分溶液を加える。本来定容はメスフラスコを用いて行うが、今回の培養液の作成では実験上厳密な濃度を必要としないので、必要量を足していく方式でよい。
微量要素はまず約800mLの脱塩水を用意しこれに、それぞれ薬包紙に秤とった1000倍量の塩を順次加えた後に1mLのconc. H2SO4を安全ピペットも用いて加える。その後1Lにメスアップする。この液を3mL取り、各養分溶液を必要量混ぜた約3Lの培養液に加える。3L容器（ガロン瓶）にストックする。
使用前にpH5.3になるように約0.1 N と約0.01N NaOHを用いて調整する。pHは休日を除いて毎日調節すること。培養液は毎週週の初めに交換すること。PHの変化、植物の様子などの観察をすること。
2.植物体採取・試料調整法
種子の乾物重：播種前の種子の新鮮重を秤量し、乾燥する(105˚Cでovernight)。
生育を追った試料に関して：各サンプリングでは、作物体を採取し、根に付着した培養液、沈殿物を脱塩水できれいに洗い落とした後にハサミを用いて根、子葉、茎に分ける。各部位の新鮮重を求め、葉面積測定後に、105℃にて24時間通風乾燥した後に秤量する。ただし、RNA、タンパク質、クロロフィルの測定時には、それぞれの目的に応じて処理をする。
2-1.葉面積測定
葉が多量にあるときは葉面積計で測定するが、少量の場合はコピー法で十分である。葉は測定葉とその他の葉に分け、輪郭を鉛筆でなぞって写し取り、その線上を切り抜いて秤量し、既知面積の同一用紙の重量との比から重量法にてその面積を求める。ただし、 RNA、クロロフィル測定の時は必要ないが、試料の新鮮重は測定する。
2-2.試料調整
1. 無機および糖・デンプン、脂肪分析用：乾燥試料をすり鉢あるいはハサミで裁断すること。播種前の種子、移植後３週目の植物体を供試する。
2. クロロフィル分析用：葉を新鮮重で約0.05-0.1ｇ以上（生育条件で変わる）を１つ精秤し、アルミホイルで包んで冷暗所(4℃)に保存する。
3. タンパク質の測定用：測定用の種子（発芽後は子葉）を迅速に精秤し、アルミホイルに包んで-20℃に保存する。
4. mRNA測定用に根から約0.1gを精秤し、アルミホイルに包んで-80℃(-80℃の冷凍庫は3F、作物栄養実験室にある)に保存する。
3.生長解析法
T1日の乾物重(W1,
g plant-1)、葉面積(LA1, m2 plant-1)、葉重(LW1,
g plant-1)とT2日の乾物重(W2,
g plant-1)、葉面積(LA2, m2 plant-1)、葉重(LW2,
g plant-1)として、以下のCGR, RGR, NAR, SLAを算出する。生長解析には播種前の種子、一から四回目のサンプリングの五回のデータを供試する。
Crop
growth rate (CGR, g day-1) = dW/dt = (W2-W1)/(T2-T1)
Relative
growth rate (RGR, g g-1 day-1) = 1/W*dW/dt =
(ln(W2)
- ln(W1))/(T2-T1)
Net
assimilation rate (NAR, g m-2leaf area day-1) =
1/LA*dW/dt =
((W2-W1)
(ln(LA2)-ln(LA1))/((T2-T1) (LA2-LA1)
Specific
leaf area (SLA, m2 g-1) = LA/LW
４．無機成分分析法
4-1.全窒素(Semi-micro-kjeldahl法）
原理：有機態窒素を硫酸によって分解しアンモニアにする。分解後に生じたアンモニアをアルカリの存在下で蒸留することにより酸性の溶液に集め、残った酸を標準アルカリ溶液で滴定する。
試薬（各班）：いずれの実験にも該当するが、必要量を考えること。大体で良いのか、それとも正確に必要なのかを実験操作全体をまず考慮してから進めること。
濃硫酸 50mL
分解促進剤（K2SO4:CuSO4・5H2O=
5:1） 10g
conc NaOH (40% w/v) NaOHの必要量をビーカーに取り脱塩水 を200mL加える
0.01N H2SO4 を200mL （最初から目的濃度の溶液を作成する必要は無いことに留意すること）
0.01N NaOH を200mL （最初から目的濃度の溶液を作成する必要は無いことに留意すること）
Methyl red 0.04%(w/v) in
60% EtOH 100% EtOH60mLをメスシリンダーで脱塩水を使って100mLにする。これが60% EtOHである。Methyl redを0.01gビーカーに取り、60% EtOHを25mL加える。Methyl redの役割は何かを考えて操作を行うこと。
分析方法：約50mgの粉砕試料を正確に計り分解フラスコに取る。分解促進剤を500mg程度加え、次に8mLの濃硫酸を加える。沸騰石を加えた後に徐々に加熱し、液が透明になるまで強熱する。室温まで放冷し、脱塩水を約７０ｍｌ加えて希釈するが、この時点で再度発熱するため、一晩放置する。ただし、硫酸は空気中のアンモニアガスを取り込むため、パラフィルムで密封すること。十分に冷えた後でメスフラスコで100mLに定容する。このうち10mLをホールピペットで取り、蒸留器によって濃水酸化ナトリウム溶液を約10mLメスピペットで添加した後、ホールピペットで取った10mLの0.01N硫酸溶液に集める（約50ml程度まで）。これをメチルレッドを指示薬にして0.01N水酸化ナトリウム溶液にて滴定する。窒素含有率は以下の式にて求められる。
N(%)=[((B
- T) × N ×F ×14.01 / 1000) ×10] / Sample
weight (g) ×100
ここでB=Blank (mL of
0.01N NaOH)
T=actual titration (mL of 0.01N NaOH)
N=normality of 0.01N NaOH
F=normality factor of 0.01N NaOH
なお、ブランクを忘れずに。0.01N NaOHのfactorは0.1N(
factor=1.000)のH2SO4をあらかじめ用意するので、これをホールピペットを用いて1mLを50mL三角フラスコに取り各班で作成した0.01N NaOHをメチルレッドを指示薬として滴定する（赤色が黄色になる点であるが、個人差があるので各班でまずブランクの基準を決めておくこと）。これより0.01N NaOHのfactorを決定する。
4-2．窒素以外の無機成分
(1)湿式分解
原理：ケイ素以外のリン酸、カリウム、鉄の分析を行うにあたりまず植物体を酸で分解する。
試薬：acid mixture（各班）： 75mL conc. HNO3、15mL conc. H2SO4、30mL 60% HClO4の混合液
分解方法：約1g（足りない場合は全て）の粉砕試料を正確に計り分解フラスコに取り、これに安全ピペットをとりつけたホールピペットで20mLのacid mixtureを加え、試料全体に浸せきするまで放置する。なお、沸騰石にはSi, Alが含まれるので、湿式分解では沸騰石を試料に入れないこと。代わりの物として、ガラスの毛細管を入れてもよい。ドラフト内にて緩やかに加熱し、次第に強熱する。試料によっては泡が出ることがあるので、その場合は加熱を中止し冷却する。溶液が透明になったら室温になるまで放冷し、これに脱塩水を加え約50mLとした後にメスフラスコを用いて100mLに定容する。定容後100mLの三角フラスコに5Cの濾紙を用いてろ液を集める。濾紙は4-2(2)のケイ素の分析に用いるので捨てないこと。メスフラスコを続いて脱塩水で洗浄してメスフラスコに残存したケイ素を濾紙上に回収するが、この時の洗浄液は捨ててよい。なお、湿式分解では硝酸と過塩素酸が加熱によって蒸発し、硫酸のみ残存することを記憶すること。
注意！ 過度の分解は溶液の乾固を導き、リンの不溶化を引き起こす。分解液が完全に無くなった場合は分解からやりなおすこと。
(2)ケイ素
分析方法：ルツボ（マジック等での記入、あるいはシール等をはってはいけない。ルツボには個々の番号が記してあるのでこれを記録しておくこと）をマッフル内で550℃で２時間空焼き後（マッフルは2Fにあります）、室温でしばらく放置後にデシケーター内で放冷後恒量し、続けて550℃で30分空焼き、放冷、恒量を繰り返し一定の値になった時点でこの値をブランク値とする。（ふたを秤量する必要はあるか否かを考えること） ろ過に用いた濾紙をルツボ中に入れ、105℃のオーブンにて乾燥させた後にマッフル内にてルツボのふたをややずらしてかぶせ、550℃で２時間燃焼する。この時、30分後に蓋を取る。２時間の加熱で完全に白くならない場合は一度放冷後、脱塩水を数滴加えて再度加熱を繰り返す（30分）。室温でしばらく放置後にデシケーター中で30分間放冷した後に秤量する。さらに105℃１時間乾燥、室温に放置してから30分間放冷を繰り返して値が一定なったときの値が厳密には正確な値である。ケイ素はSiO2で測定されており、結果は乾物当たりのSiO2の含有率で示す。なお、濾紙にはそれぞれの濾紙番号に応じたSiO2含有量が記載されているので（濾紙の箱の裏側）その分を引くこと。（ここではろ紙の端を切るべきかどうか？）
(3)リン酸(Vanado
molybdate yellow method)
原理：リン酸がammonium
vanadate と ammonium
molybdateの存在下で複塩を生成し黄色を呈するので、これを吸光法で測定する。
試薬（各班で作成）：
1）ammonium vanado
molibdate-nitric acid溶液
25ｇのammonium
molybdateをビーカーに取り400mLの熱脱塩水に溶かす（A液）
1.25ｇのammonium vanadateをビーカーに取りあらかじめ加熱した脱塩水に溶解後、放冷しこれに250mLのconc. HNO3をゆっくりと加える（B液）。
A液とB液を混合し、メスシリンダーで1Lに定容する。
2）リン酸標準液
KH2PO4を105℃のオーブンで予め１時間乾燥した後、デシケーターに入れて放冷しておく。そのKH2PO4を4.39ｇ取り、ビーカー内で脱塩水で溶解し、その後これにH2SO4
(conc. H2SO4は36Ｎ）を加え（標準液と試料溶液の硫酸濃度が同じになるように調整すること）、これを1Lメスフラスコに移し脱塩水で1Lに定容する。この溶液は1000ppmのリンを含む。検量線には0, 1, 5, 10,
20ppmまでの濃度を作成する。1000ppmの液から100ppm, 10ppmと順に希釈し、それぞれの液から検量線用の濃度になるように調整する。なお、試料および標準液を希釈するときには別に作成した希硫酸溶液を用いること（酸度によって発色が異なるため、試料溶液中の硫酸濃度に合わせるため）。
分析方法：湿式分解の分解液を10倍に脱塩水で希釈して試料溶液とする。100mLのメスフラスコに試料溶液10mL取り、これに20mLのammonium vanado
molibdate-nitric acid溶液を加え、脱塩水で定容する。撹拌した後、10分間放置し吸光度(Abs = 400nm)を測定する（吸光度がStandardの値を越える場合は試料溶液を希硫酸溶液で希釈して再度発色操作を行う）。なお、発色は48時間以上安定であるので、順次メスフラスコの中身を試験管等に移して実験を進めること。ただし、検量線の比色も同時に行うこと。
リン酸の濃度は標準リン酸溶液を用いて上記と同様に測定して作成した検量線を用いて決定する。
(4)：カリウム（炎光光度法）
原理：試料を炎光中で加熱することにより基底状態の原子に解離する。この時の目的元素から発する特定のスペクトルの強さを光電管で測定する。定量される元素はアルカリ、アルカリ土類金属が主であり、これらは励起電圧が低く、炎光中での発光スペクトルの数が少ないことから比較的容易に特定波長を取り出すことができる。
試薬：
カリウム標準液
105℃で１時間以上乾燥した後、デシケーターに入れて放冷しておいたKCl を1.9069ｇ取り希硫酸で１リットルに定容する（硫酸濃度が試料溶液と同じになるようにしておくと便利）。この溶液には1000ppmのカリウムが存在する。検量用には0、5、10、25、50ppmを30mL用意する（100mL作成後、試験管で30mL程度をパラフィルムでシールして保存する）。希釈は、試料と同じ硫酸の規定度にすることに留意すること。
分析方法：湿式分解によって作成した分解液を十倍に希釈して試料溶液として用いるが、検量線を越えた場合は希釈すること。このとき硫酸の規定度が変化しないように留意すること。
(5)鉄(o-Phenanthroline法）
原理：pH2から9において２価の鉄と橙赤色の錯塩を形成する。[(C12H8N2)3Fe2+]
実際の測定にあたってはpHによる影響を防ぐために緩衝液でpH3.5にする。また銅、亜鉛、モリブデンも妨害を与えることがしられるが、植物体に通常存在している濃度では問題ない。
試薬：１）クエン酸ナトリウム緩衝液
13.8gのNaOCOCH2C(OH)(COONa)CH2･COONa･2H2Oをビーカーに取り12mLの酢酸を加え、脱塩水でメスシリンダー（硝子製）を用いて100mLにする。200ml用意する。
2) Hydroxylamine hydrochloride (10%)
10gのHydroxylamine
hydrochlorideをビーカーに取り脱塩水で溶解後、メスシリンダーで100mLにする。
3) o-Phenanthroline (0.1%)
0.1gのo-Phenanthrolineを温脱塩水に溶解する。放冷後メスシリンダーで100mL にする。冷暗所で貯蔵し、貯蔵中に着色した場合は廃棄する。（アルミホイルで全体をくるみ4˚Cに)
4) 鉄標準液
デシケーター中で１晩以上乾燥しておいたFeSO4(NH4)2･SO4･6H2Oを0.7022g取り、希H2SO4でメスフラスコを用いて1Lに定容する。この溶液は鉄が100ppmで存在するので、検量用に0, 5, 10, 20,
30, 50ppmのスタンダードを希 H2SO4を使って用意する。鉄標準液の酸の規定度が鉄分析用試料溶液の規定度と同じようになるように考えること。
5) BPB (Bromophenol Blue)
0.1gのBPBを予め0.01N NaOHを1.5ml加えた25mlの脱塩水に溶解する。
操作：湿式分解による分解液をそのまま試料溶液とする。試料溶液5mLを100mLのメスフラスコと50mLの三角フラスコに取る。三角フラスコにBPB指示薬数滴を加え、クエン酸ナトリウム緩衝液で黄色が淡緑色に変わるまで滴定して(pH3.5)（緩衝液を加えたら迅速に操作を行うこと）、試料溶液5mLをpH3.5にするのに要する緩衝液量を決定する。比色にはメスフラスコに５mlの試料あるいは検量線用の溶液を加え、pH3.5にするために必要な緩衝液量を加え、hydroxylamine
hydrochloride(10%)とo-phenanthroline(0.1%)を4mLずつ加える。100mLに脱塩水で定容した後に１時間以上（over nightは不可）室温で放置し、波長510nmで比色法で濃度を決定する。検量用の試薬は１つのみ緩衝液の必要量を決定し、後は同じ量を入れればよい。
５．糖、デンプン、脂質の測定法
5-1．糖
原理：基本反応はアルドヘキソース（アルデヒド基-CHOを持つ６炭糖）のフルフラールへの脱水反応といわれており、これら生成物とアンスロンの反応により生ずる緑色を比色する。なお、この反応は糖の種類によって最適条件が異なることが知られている。
試薬（各班）：
(1)52%(w/v) HClO4 (HClO4の原液は60%である）100mL ここでもどの試薬をメスシリンダーで、どの試薬をメスフラスコで定容するかを考えること。
(2)80%(v/v) EtOH 400mL
(3)0.3N Ba(OH) 2 8H2O 200mL （約0.3Nの溶液を作るので、ビーカーに試薬を取り水を200ml加える。完全には溶けない。白濁した試薬を静置し、上澄液を使用する。またガラスに付着し、放置すると取れなくなるので使用後ビーカーは放置せずに速やかに洗浄すること）
(4)5% (w/v) ZnSO4･7H2O
200mL（除タンパク剤）
(5)アンスロン試薬：anthron 0.5g をビーカーに取り250mL conc. H2SO4を加え、かき混ぜずにアルミホイルで全体をくるんで遮光し、4℃で保存。使用時にゆるやかに撹拌する。
(6)Glucose standard: 1000ppm溶液を100mL用意し、これを用いて50μg/5mL, 100μg/5mL, 150μg/5mL, 200μg/5mLになるように希釈した溶液を100mL用意する。ブランクを忘れずに。
(7)Phenolphtalein溶液 Phenolphtalein0.01g
を70% EtOH25mlに溶解する。
抽出方法：
(1)サンプル約200mgを精秤し、100mLビーカーにとる。
(2)数滴の80% EtOHでサンプルを湿らせる。
(3)5mLの脱塩水を加える。
(4)約25mLの熱した80%EtOH（ビーカー内に入れ湯浴で加温する。ポコポコと泡が出る程度でよい（湯気が立ち、十分に熱せられていれば可）。時計皿をおくこと。）を加え、撹拌棒で良くかき混ぜる。
(5)静置後、No. 5Aの濾紙を置いてデカンテーションで200-300mLのビーカーに（なるべく残渣が濾紙にはいらないようにして濾液を集める）。
(6)残渣に30mLの熱80%EtOHを加え良くかき混ぜる。
(7)同じ濾紙上でデカンテーションする。この操作をもう一度繰り返す。
(8)室温の80%EtOHで洗い落としながら残渣を全て濾紙上に移し（撹拌棒を使う）、濾紙上の残渣を室温の80%EtOHで洗浄する。（残渣は捨てないこと）
(9)砂皿上で緩やかに加熱して約5mLまで濃縮する（アルコール臭が消えるまで。この際、乾固したらやり直し）。
(10)50mLの脱塩水を加える。
(11)あらかじめ決定した量（注１）の0.3N Ba(OH)2･8H2Oをまず加え、続いて５％ZnSO4を5mL加え混合する。
(12)メスフラスコで100mLに定容する（丁寧に行わないと泡が多くなるので注意）。
(13)よく攪拌した後5Aの濾紙で濾過する（この際、濾液の最初の5mLは廃棄）。
分析方法：5mLを中型試験管に入れ氷中に入れ冷却（湯煎用の銅製容器などを使用すること。ビーカーを用いても良いが、底を割ることが多いので、まずキムタオルを中に敷くこと）、同様に冷却したanthron試薬を吹き出しピペットで10mL加え、直ちに激しく撹拌する（試験管を振る）（試薬は濃硫酸なのでこぼさないように注意、皮膚、衣服、物品に着いた場合は大量の水ですぐに洗浄すること。ただし、衣服等に付いた場合は時間がたつと穴があきます）。
直ちに沸騰水中に正確に7.5分間入れて発色させ、氷中に戻し冷却。充分冷却されたら室温に戻し、吸光度630nmにて測定。試料は５、１０倍に脱塩水で希釈したものとブランク、検量線用の試料も同時発色させて測定する。なお、セルはガラス製のものを使うこと（プラスチック製のセルは腐食する）。
（注１）：5mLの5%のZnSO4をメスピペットで取り、フェノールフタレインを数滴加え、メスピペットを用いて0.3N Ba(OH)
2 8H2Oで赤色になるようにする。これに要した0.3N Ba(OH) 2
8H2Oの量を加える。
5-2. デンプンの抽出
抽出方法：
(1)糖の抽出で生じた残渣を100mLビーカーにとり、5mLの脱塩水を加え、沸騰水上で10分間加熱する。このときビーカーの上に時計皿を置くことを忘れずに。(2)6.5mLの52%HClO4を加える。
(3)約５分間時々ゆらした後、15分間放置する。
(4)5Aの濾紙で濾過。脱塩水で洗う。
(5)100mLにメスフラスコを用いてメスアップ。
分析方法：分析方法は糖と同様で、試料溶液を1, 5, 10倍に希釈したものとブランク、検量線用の試料を同時に発色させて測定する。
デンプンは加水分解されて糖になったものを測定しているので、デンプンの含有率の計算では糖の含有率に0.9を乗じること。
5-3. 脂質の抽出
抽出方法：
実際の測定にはソックスレー抽出機という装置を利用するが、学生実験では簡便的にジエチルエーテルを利用した抽出法を行う。
(1)
植物体試料を約１ｇ精秤し、100mLビーカーにとる。
(2)
ジエチルエーテルを約20mLを加え（引火性、麻酔性があるため火のそばでは絶対に利用しない、また、吸引をしないように。そのため、ピペットによる取り扱いは厳禁。安全ピペットも不可。50mLのビーカーの目盛りを利用してよい。）、約10分間良く攪拌し、あらかじめ恒量した恒量管に5Cのろ紙でろ過を行い、ろ液を集める。この際溢れないように注意。ろ紙を２回エーテルで流し、このときのろ液も集める。恒量管はそのままドラフト内にエーテルがなくなるまで放置する。
(3)
ドラフト内でエーテル臭がほとんど無くなるまで放置した後に、乾燥機で一晩乾燥後恒量する。
分析方法：エーテルによって抽出された脂質の量を重量による差し引きで決定する。
6．タンパク質の分析法
原理：発芽に伴って種子に貯えられた様々な養分は新たに生じる器官でその構成物質やエネルギー源として使われる。窒素の場合は種子にタンパク質（貯蔵タンパク質）の形で貯蔵されており、これが発芽に伴って分解され、転流して、改めてタンパク質になる。本実験ではタンパク質が発芽の際にどのようにその構成を変化させているのかを調査する。電気泳動法の基礎、タンパク質の定量法を学ぶ。
6-1. 抽出法
試薬：1) 抽出用緩衝液 以下の物を含む100mM Tris-HCl緩衝液 (pH 7.8)を250mLを各班で作成し4˚Cで保存する。沈殿物が生じることがあるので、定量前に遠心し、上澄液を用いる。
100mM
Tris (mw. 121.14), 10mM 2-mercaptoethanol, 10mM MgCl26H2O
(mw. 203.30), 1mM Na-EDTA (mw. 372.24), 1mM Iodoacetic acid, sodium (mw.
207.93), 12.5% (v/v)glycerol
Tris-HCl buffer: Tris, MgCl2, Na-EDTA,
Iodoacetic acidを250mLに定容した時に規定濃度になるようにビーカーに取り、約150mLの脱塩水に溶解し、glycerolを加えて4℃で保存する。抽出当日に2-mercapto ethanolのストックsolution(14M)を必要量(0.175mL)加え、氷冷しながら塩酸（6Nと2N)をピペットで滴下してpHを7.8に合わせる（なお、pHが7.8を越した場合は作り直すこと）。この溶液を脱塩水を用いてメスシリンダーで250mLにする。
2) 染色液（予め作物栄養学研究室にて調整済）：50mL。
0.1%(w/v) CBB-R250, 40% MeOH, 10% acetic acid; CBBなどの試薬を直接メスシリンダーに取ってはいけない。ビーカーで溶かした後にメスアップするのが通常の方法であるが、CBBは色素であり、メスシリンダーに付着すると取れにくいのでビーカーに予めCBBを取り、100mLの溶液をビーカーに加えること。
3)脱色液（予め作物栄養学研究室にて調整済）：100mL。なお、酢酸を使うのでプラスチックのメスシリンダーは用いないこと。25%(v/v) MeOH,
7% (v/v) acetic acid
4)
2N HCl溶液 メスシリンダーで100mL （各班）
5) 6N HCl溶液 メスシリンダーで100mL （各班）
抽出方法：
乳鉢にサンプルを取る。
抽出用緩衝液と石英砂（薬匙小一杯程度）、PVPP（薬匙小一杯程度）を加える。
抽出緩衝液の量は直前に指示する。
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サンプル名 |
抽出緩衝液の量 |
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ペースト状になるまで摩砕する。
遠沈管(1.5 mL pp
tube)に注意深く移す。遠心するまでは氷冷。
遠心分離（15,000
rpm、４˚Cで１５分）
沈殿 廃棄
上澄液を新しい1.5 mL pp tubeにとり、氷上に置く。
上澄み液の一部を可溶性タンパクの定量および電気泳動に用いる。残りは4˚Cで保存。
6-2. 可溶性タンパクの定量法（Bradford法）
Bradford法は、Coomassie Brilliant Blue G-250という色素がタンパク質の塩基性および芳香族アミノ酸の側鎖と結合し、その結果吸収のピークが465 nmから595 nmへとシフトすることを利用した方法である。BCA法と比較して、よりかんたん、迅速、高感度（0.02～0.1 mg/mL）還元剤やEDTAの影響をほとんど受けないが、界面活性剤の影響を受けやすい。また反応液が酸性なので、脂質を大量に含むサンプルでは沈殿を生じる場合がある。
発色液の作成（各班）
1)Coomassie
Brilliant Blue G-250 (R-250と間違えないように！) 10 mgを5 mLの100％エタノールに溶かす。３０分ほど撹拌。
2)10 mLの８５％リン酸（原液）を加えて撹拌。水で100 mLに定容。濾紙(No. 5A)で濾過する。
発色操作
1)発色液5 mLを試験管にとる。
2)各サンプルを40μL、スタンダードを40μL、それぞれの試験管に加える。
3)ボルテックスで攪拌する。
4)５分－６０分の間で595 nmの吸光度測定。 ブランク(BSA 0mg/mL)を"0"にする。
スタンダードはBSA 0～1.5 mg/mL（目安）。(BSA: Bovine Serum Albumin)
＜スタンダードの希釈例＞
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濃度(mg/mL） |
1.5 |
1.0 |
0.6 |
0.2 |
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BSA(1.5mg/mL) |
1.5mL |
1.0mL |
0.6mL |
0.2mL |
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脱塩水 |
0mL |
0.5mL |
0.9mL |
1.3mL |
以上を作成して、1.5、1.0、0.6、0.2、0 mg/mlの5点で検量線を作成する。
電気泳動法
物質を分子篩効果により分子量の大きさにより分画する。その担体としてはagarose,
polyacrylamideなどがあるが、ここではpolyacrylamideを用いて全可溶性タンパク質を分画し、発芽に伴うタンパク質組成の変動を解析する。
1.
ゲル
ゲルは既成（予め作物栄養学研究室にて調整）のものを用いる。
2.
操作
1)Sample調整
可溶性タンパクの定量法（Bradford法）によって得られたタンパク質量を0.75mg/mLに抽出用緩衝液で希釈する(最低100µL必要)。
希釈した抽出液100µLと5×Sample Buffer 25µLを混合し、沸騰水中で5分間加熱する。
2)アプライ
各自が調整した上記の試料液をゲルにアプライする。アプライ量は10µL
泳動時間：Mini-PROTEAN II(Bio-Rad)の場合
Stacking Gel: 70V, 40 min
Separation Gel: 110V, 105min
3)染色時間
O/N
4)脱色
脱色駅にキムワイプを入れて行う。３０分ｘ１、脱色液とキムワイプを交換後30分ごとに脱色状態を確認する。キムワイプを換えると脱色が早い。
ゲル組成 12%ゲルを用いる
泳動バッファー
10×Running Buffer
100mLにH2Oを加えて1000mLにする。
試薬：
30%
acrylamide mix Acrylamide 29g
BIS 1g
add H2O upto 100mL
1.5M
Tris-HCl, pH 8.8
0.5M
Tris-HCl, pH 6.8
10%
SDS
Sample
Buffer 1M Tris-HCl, pH 6.8 0.5mL
Glycerol 0.8mL
10% SDS 1.6mL
1% BPB 0.06mL
H2O 4.64mL
2-mercapto ethanol 0.4mL
2-mercapto ethanolは使用直前に添加
10×Running
Buffer(1L) Tris 30.3g
Glycine 144g
SDS 10g
3.
画像解析
ソフトはNIH imageまたはImageJを用いる。
タンパク質実験の基礎知識
タンパク質の電気泳動～本実験で使用するSDS-PAGE法の基本原理 泳動前のSample調整(ＳＤＳ化) タンパク質を形成するアミノ酸残基は様々な電荷を持つため、タンパク質の電気泳動は分子量だけではなく、電荷の影響を受ける。そのため、分子量を基準に電気泳動をする場合にはタンパク質試料をＳＤＳ処理し、泳動しなければならない。
