浙江大学訪問記(杭州での短期滞在日記)
中国にはあまり縁がなく、2回しかいったことがなかった。浙江省杭州市の浙江大学動物科学院Liu教授のお招きで3泊4日の訪問をすることになった。この大学は2007年の中韓日ジョイントルーメンシンポジウムの会場になるので、運営委員として実際に見ておくのも悪くないし、あのマルコポーロが「世界で一番美しい町」と称しているほどの場所である。それを自分で確認したい気になった。中国六大古都(北京、西安、洛陽、開封、南京、杭州)のひとつで、2000年以上前に秦の始皇帝が県都として設置したのに端を発し、今や人口660万人を誇る大都市である。
フルインビテーションなので心配いらないのだが、いちおうディスカウントチケットを探すことにしている。招く側の気持ちはわかるので。ただし中国線は割引率が低い。札幌から成田や関空を経由した杭州直行便を利用すると往復19万近くかかる。これならヨーロッパ行くよね。Liuさんにそう報告すると「そんなものですよ」と軽く言われた。今回はいいけど、来年のシンポへ学生連れて行くときに困るんだよね。この価格じゃ・・・
9月11日(月)
全日空2152便(7:45千歳発)で成田へ。この早い便に間に合うにはいつも早起きを要求される。手稲の自宅を6時にでる。成田では乗り継ぎわずか55分。杭州行き同929便で杭州着12:40。正味3時間20分のフライトだが、フライトムービーを提供する機材だった。関空経由ではこれがないのが復路で判明。来年は絶対成田経由だ。「ALWAYS三丁目の夕日」を観る。入り込んでしまう。家内と以前映画館で見たときを思い出した。昭和30年代前半のお話だが、ぼくなんかは竹ひごヒコーキをとばすオープニングで、もうグッときてしまう。40年以上のタイムスリップを堪能し、ホロッとした気分のまま杭州空港に降り立つ。
空港には昨年フフホトのルーメンシンポで面識のあるLiuさんの院生(D1)であるGuo嬢が迎えに来てくれていた。彼女の後ろにいた男性が僕の荷物をもってくれた。これは彼氏?と思ったら大学の運転手と判明。車も大学の車。以前マレーシア農科大に訪問したときも大学のベンツでお抱え運ちゃんがきた。北大もこういうシステムがあったら楽なのにね。
車内ではお互いの近況を話し合った。「あのtall boyは元気か?」と山野のことを聞いてきた。フフホトでは君たちツーショットだったからね・・・
浙江大学の正門 浙江大学所有のホテル
小林の講演ポスター 新規導入されたHPLC
今日は講演が予定されている。少しフライトが遅れたので、直接大学へ向かった。大学についたのが14:10で、僕の講演は14:30開始である。これはあんまりでないかい。全部の荷物をもって講演会場へ向かい、パワーポイントを試写する。もう聴衆は集まっている。Liuさんから丁重な紹介をうけ、いよいよ講演開始。Bacterial consortium responsible for
rumen fiber digestion (ルーメン繊維消化にかかわる細菌集団)と題して約1時間しゃべった。この3年ほどの栄養学研究室の仕事をまとめたもので、ルーメン内の植物片に付着する細菌群の構成員とそれらの動態解析から、真に繊維分解にかかわる菌種の特定を未培養菌群もふくめて検討した成果である。講演後、活発な質疑があった。植物種による消化程度や菌付着の違いの理由、分析手法の詳細など、ものおじしない聞きようはさすが中国だ。質疑だけで20分ほどを消費した。
講演風景 質疑風景
講演後、Liu教授室でコーヒーをごちそうになり、ラボを見学させてもらった。このラボは現在、教員、PDと院生で総勢33名がおり、分析機器も新しいものが導入されつつあり、古い機械と新旧おりまぜながら配置されていた。人工ルーメンも12連のものがあったが、「全部使うと大量のルーメン液が要るんです」ということでほこりをかぶっていた。GC,
HPLC,ハードタイプの嫌気チャンバーも装備されていた。モレキュラールームとおぼしき実験室では笑顔で写真におさまってくれた。これからこの種の分析を押し進めていく様子がうかがえた。院生室はパーティションで一人ずつ区切られており、デスクトップPCが各人に与えられていた。インターネットでメールをうたせてもらった。それにしても女性が多い。Liuさんの部屋には全国から優秀な学生があつまっており、中国のルーメン研究の最大中心地らしく、数々のプロジェクトで研究費をかせぎ、お金には困っていない。日本の我々の財政状況からすればうらやましい限りだ。
Molecular room (Liu教授とGuo嬢) 女子院生室
ラボマグネット(日本式が瞬く間にひろまったそうな) SCI論文数で競ってます
ホテルに向かう途中で、学部玄関の掲示板をみると、SCI Journalへの掲載論文数の年次変化や学科ごとの成果一覧などがでており、やたら競争心をあおるものであった。こういうのはもっと北大でもあっていいと思う。チェックイン後、夕食をLiuさん、副学部長のFangさん、とともにする。全般的にどうしても油が多いが、淡水魚の料理は味わい深いものだった。初日はかくして幕を閉じた。
9月12日(火)
博士院生Xiaolianが朝食ナビにきてくれた。大学付属のホテルだけど英語はほとんど通じないので、たいへん心強い。彼女は中国人にしては物静かで控えめな女性で、一緒に居ても疲れないし、この滞在中たいへんよくしてもらった。食後、Xiaolianとは対照的な二人の院生が現れた。WentingとDeniseで、すこぶる活発でよくしゃべる。接客の姿勢はとにかく説明的で、これははじめての滞在者にとっては情報を得るのに役立つ。が、一歩間違うとうるさくてしょうがないということになる。Deniseは杭州の英語コンテストで優勝した経歴をもち、達者な英会話力で饒舌に各スポットを説明してくれることとなった。僕をふくめたこの4名で今日は杭州市内を見て回った。
自転車用信号もある 雷峰夕照最上階にて(背景は西湖)
ホテルをでてタクシーをひろうためしばらく歩く。やっとひろったタクシーは神風ドライバーできわめて粗暴な運転であった。まず西湖の南のほとりにたつ仏塔の雷峰夕照に行く。階段をのぼって6階までいくと、雨に煙る西湖が一望できた。晴れていればさぞかし絶景であろう・・・運のなさをうらむしかない。観光タクシーに乗り換え、市内の主なスポットで写真をとる。龍井茶で有名な地域なので、お茶屋に寄る。その後、シルク工房で繭からシルクをとるブース、シルク製品を売る店にも寄られてしまう。ここらは観光タクシーのラストスパートの定番である。昼食は杭州一の有名レストラン、西湖のほとりに位置する楼外楼で乞食鶏(つめものをした鶏を蓮の葉に包んで丸ごと蒸し焼きにしたもので醤油と老酒の味付け)と西湖醋魚(甘酢あんかけ草魚)をいただく。おいしいことこの上ない。3人の女子学生もこういう時(来客接待)でないとこのような店はこられないらしく、全員満足して食後に浙江省博物館内外を散策した。この博物館はこの地域の歴史展示がくわしく、一日かけるべきほどの場所であった。次回訪問時にしっかり見て回りたいものだ。
その後、西湖の端まで白提を歩く。この間ずっと雨。西湖は春秋時代に実在した絶世の美女「西施」にその名が由来するらしい。まさに杭州観光のハイライトである。民話白蛇伝にある男女の巡り合いで有名な橋(断橋残雪)にさしかかると、役者のWentingが女性役をかってでてひと演技しだした。その写真をはりつけておく。この風情から彼女の性格をよみとってください。
雨にけむる西湖 断橋残雪の巡り会いを演じるWenting
Denise, Xiaolian, Wenting Liu夫妻、Jiakunとディナー
タクシーでホテルへ戻り、夜はLiu夫妻とJiakun(Liuさんの部屋の助手にほぼ内定)と4名で市内中心部の友好飯店へディナーにでかけた。市内を上階から見下ろす。しかもスカイラウンジなのでひと回りすると杭州の夜景がすべて楽しめる。料理も景色もゴージャスな夜であった。
9月13日(水)
今朝もホテルでXiaolinと朝食をともにする。その後歩いて大学へ。午前中は学生の研究発表をきいて、個々につっこみをいれながら、アドバイスをした。博士学生が4名、修士学生が3名ほど英語でやったが、博士学生は今月の韓国プサンで行われるAAAPでの口頭発表の練習を兼ねていた。Jiakunの内容はどっかでみた図が数枚でてきたので「あれっ?」と思ってたら、半年ほど前にAniml Feed Science & Technology誌に投稿され、僕がレフェリーをした研究内容だった。Liuさんにそのことをいうと、世界は狭いね・・・と一気に場がなごんだ。まだ途上の研究もあったが、熱意は伝わってきた。彼らの情熱が成果となって花ひらくことを祈りたい。
昼食はGuoとXiaolinと3人でホテルにもどり、僕のリクエストで魚料理にした。杭州の淡水魚料理はけっこう気に入った。生簀から選んで料理してもらい、菜ものを数点つけておなか一杯たべて、飲み物込みで一人800円くらいだった。昨日の西湖湖畔の楼外楼の10%以下の料金だった。
午後は北大、北大農学部、家畜栄養学研究室の紹介を僕が40分ほどやった。スライドは高校生向けにオープンキャンパスで使っているものを英語に直し、追加・修正を施したものだ。ラボの説明は念入りにした。ラボ全学生の写真を貼り付けてなるべく親近感をもってもらう努力をした。最後で人工ルーメン実験とカヌーツーリングの写真をみせ、ラボのモットー「Study hard & play hard」を出すと大うけの拍手をもらった。滞在3日目なので学生もかなり打ち解けていろいろ質問もきた。
夕方からホテルのレストランでお別れパーティーがあった。僕の帰国、副学部長の訪米、Liu教授夫妻の結婚記念日をかねたものだった。催しは、乾杯から注ぎまわし、僕の挨拶、副学部長の挨拶、夫妻への花束贈呈、記念写真、注ぎまわし・・・と延々と続いた。メインのひとつのアヒルのスープ(写真参照)は一見グロテスクだが、なかなかの味だった。ぼくはすっかり打ち解けた学生たちと集合写真、個別写真に納まった。2次会はダウンタウンのカラオケ屋へいった。ここで深夜まで盛り上がった。部屋は冷房がなく、なんとタライに氷をいれたものを店が出してきた。日本語の唄は数曲しかなく北国の春をLiuさんからリクエストされ、2回も唄わされた。あとはさっぱり訳がわからないが学生の楽しそうな中国語の唄が延々と続いた。日本でも同じような経験をしているので特別苦にはならなかった。ホテルに戻ったのは日付が替わった頃だった。
アヒルのスープ(いけます!) Three professors
Liu’s lab女組 Liu’s lab 男組
9月14日(木)
最後の朝食もXiaolianと。ラボに行きコーヒーをご馳走になり、今後の連携について話した。ルーメン菌の分離技術を教授するため来春Jiakunを北大で研修させることでほぼ合意。皆にお別れをいい、大学の車で空港へ。WentingとDenisからは来年のジョイントシンポの時はカラオケでなくディスコへ連れていってくれる約束をとりつけた。空港への見送りはXaolianとYawenがきた。Yawenはやはり英語コンテストで優勝した子で、発音はネイティブだ。空港で早い昼食をとりながら二人に研究をやる姿勢について語る。しっかりと筋のとおった研究なら長く続けられる。枝葉も多くつくので業績も増える。だから最初のテーマ設定が肝心だ・・・というような内容。ちょっと説教的に語ってしまった。
二人とハグをかわし、出国審査へ。あわただしい滞在だったが、久しぶりに中身の濃い外国出張だった。いつも帰りは日本へ一刻も早く・・・とその気になるのだけど、今回はなんだか名残惜しいような不思議な気持ち。少し中国に身構えすぎていたのかもしれない。来年のシンポジウムは学生を連れてこよう。そして彼女たちの中へ放り出してどう反応するかを遠巻きにみてみよう。もちろんカラオケでなくディスコで。